7 話・子供のいぬ間に
「また子供を拾ったんだね。テオくんに続いて二人目か」
「あまりにも酷い状態だったからな。ほっとけなくて」
子供二人が風呂へ行ってる間、サフィールとノアは食後のコーヒーを飲みながら語らっていた。
「そんなに酷かったの?」
「ああ、あのまま逃げ出さずにいたら死んでただろう」
「そうか……。カディスブルクだっけ?」
優雅な所作でコーヒーをひと口飲むと、ノアがカップを静かにソーサーへ戻した。
「常識的な親なら、子供がいなくなれば大騒ぎしているはずだけど……」
「そんな親だったら、あの子はあんな傷だらけになってないよ」
「そうだよねえ」
サフィールは、アルヴィーの傷だらけの身体や怯えた様子を思い出し、眉を寄せる。
それを見たノアが椅子から腰を浮かせ、サフィールの眉間に寄ったシワを優しく撫でた。
「そんな顔しないでサフィー。カディスブルクへは使いを出して、あの子について調べてみよう」
「……ん、頼んだ」
眉間を撫でた指が頬へと滑る。親指の腹が頬を撫でても、サフィールは好きにさせていた。
「それじゃあ、早速取りかかろう」
そう言って、ノアがもう片方の手を上げる。
すると掌から青白い光が生まれ、それは瞬く間に小鳥の姿を象りノアの指にちょこんと留まった。
「アルくんのこと、詳細に調べるよう伝えて」
ノアの呼びかけに応えるように、光の鳥は小さな頭をキョロキョロと左右に小刻みに動かし、次にバサ、と翼を大きく広げ飛び立った。
鳥は家の壁も意に介さず、分厚い壁をするりと通り抜けあっという間に遥か遠くへ飛び去って行く。
それを見送り、ノアは「これで良し」と頷いてまたサフィールへ向き直った。
「それで、あの子をどうするつもり? ここで預かるのかい?」
「あの子さえ嫌でなければ、そのつもりだよ。ここの孤児院も今は手一杯のようで、これ以上は預けられないだろう」
「耳の痛い話だね」
王都といえど、治安の悪い場所もある。都の外れの方には貧民街があるし、ストリートチルドレンも多く、犯罪だって日常的に起こっている。
職に就けない者達への仕事の斡旋と、子供達の救済、それが王都における直近の問題だった。
王都にも孤児院があるが個人経営のようなもので、国からの援助を受けながら細々と経営している。
「だからって、そんな子を全部君の家に引き取るわけにもいかないだろう?」
「それはまあ、確かにそうだ。まずは孤児院を拡張出来るだけの土地が必要だな……」
ふむ、と顎に手をやるサフィールに対し、ノアは悪戯を思い付いた子供のようにくすくすと笑った。
「なるほど、丁度良い土地かあ……」
「……お前、何か企んでるだろう」
「ふふ、そんなことないよ」
呆れたように溜息を吐くサフィールに、ノアはおどけた様子で肩を竦めて見せる。
まあ、この男が慈善のためだけに動くような人間でないことは良く知っている。それでも何か手を打つ気があるなら好きにさせてみるか……、とサフィールは諦めの心地で、まだ頬を撫でていたノアの手を掴んで押し戻した。
「今日は、アルヴィーの着替えや生活用品一式揃えようと思ってる」
「表に馬車を待たせてるから、それで出掛けよう。荷物を運ぶ馬車も追加させるよ」
「職権濫用も甚だしいな」
ようやく、ふふ、と目を細めて笑ったサフィールに、ノアが「使える物は何でも使おうよ」と、にっこり笑う。
正直ありがたい話だし、便利には違いないので、サフィールはその提案を素直に受け入れることにした。
「にしても、君は本当に小さいものが好きだよねえ」
少し冷めたコーヒーを啜りながら、ノアがしみじみと言う。
「いいだろう、べつに。可愛いじゃないか」
「そうだねえ……」
ノアは言い返してきたサフィールを見詰めたまま、悪戯っぽくその切れ長の瞳を細めた。
「確かに、可愛いね」
「……どういう意味だ」
「べっつにーー?」
言葉の真意を汲み取ったサフィールが、ぎろりとノアを睨み上げる。
そんなサフィールの剣幕にも動じず、ノアはおどけて笑うのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回は、サフィールとノア二人の会話でした。
アルヴィーの身辺について、ノアが調査する事に。
王都の問題についても少し触れられました。問題が無く、全てが平和というわけではないようです。
二人の親密さや気安さ、ノアの飄々とした感じが伝わればいいな、と思います。
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