66話・毒の花
「絶対触っちゃダメだ」
「で、でも」
「アルヴィー、お前がこの花を図鑑で見て探していたのは知ってる。でもな……」
「?」
「この花には、毒があるんだ」
「…………え……?」
顔を苦痛で歪めながら告げられた言葉に、アルヴィーは少しの間思考が追い付かなかった。
「これもリリーの花の一種だけど、この青いリリーは強い毒を持ってる。……図鑑にも、他のリリーとは離れたページに載ってただろ?」
「!」
テオドールの口調は責めるようなものでは無く、むしろアルヴィーが取り乱さないよう気遣う穏やかなものだった。
「毒…………」
アルヴィーの頭の中で、全てが繋がる。
色取り取りのリリーの花。だけど、城の庭には青いリリーは無かった。図鑑では、今考えればわざとかのように、他のリリーとは離れた最後の方のページに描かれていた青いリリー。
「あ、ああ……!」
嗚呼、ああ! 僕は馬鹿だ!!
アルヴィーは、足の裏から冷たいモノが全身へ這い上がってくるような感覚に襲われ、よろりとふらつく。
図鑑を見て、違和感を覚えたのに。
読める部分だけで判断して、【驚かせたいから】というちっぽけな理由でテオドールに相談もせず家を飛び出して……。挙げ句、テオドールに迷惑を掛けるどころか怪我をさせてしまった。
「テオドールくん……!」
涙を溢して縋るような声でテオドールの名を呼ぶアルヴィーに、テオドールは精一杯の笑顔を作って見せた。
「大丈夫だ。帰って、ポーションを飲めば治るさ」
「でも……! 僕のせいでテオドールくんがケガを……!」
宥めるテオドールの言葉にそれでも納得出来ないアルヴィーが言い募る。
それに対し、テオドールは歯を見せてにっ、と笑った。
「言っただろ?」
「え?」
「オレは、お前のお兄ちゃんなんだから。オレがお前を護るのは当然だ!」
「テオドールくん……」
アルヴィーは更に当惑する。だって、テオドールと自分は血が繋がった兄弟では無い。共にサフィールに救われ、同じ家に住んでいるが他人同士だ。それは変わりようの無い事実。
お兄ちゃんだと言ってくれたのは嬉しかったけれど、本当の兄弟にはなれないのだ。アルヴィーは心の片隅ではそう思っていた。
それを、テオドールは【自分がアルヴィーのお兄ちゃんだから】と、自分を庇ってくれた。
痛々しく右手を腫らして、冷や汗を額に滲ませているのに、アルヴィーを安心させようと笑顔を作る。
それを見ると、アルヴィーの胸は刃物でぐちゃぐちゃに突き刺されたように痛んだ。
テオドールの言葉を、心のどこかで信じきれていなかった自分。信じた末に否定されるのが怖くて、信じようとしなかった自分。それが許せなかった。
「僕のせいだ、僕のせいでテオドールくんが……」
「違うアルヴィー、これはお前のせいじゃ……、」
「僕のせいだよッ!!」
尚も慰めてくれるテオドールに、アルヴィーが叫んだ。
小さな両拳を、指先が手のひらに食い込むほど握り締めてぶるぶると震わせている。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
花の正体とテオの想いを聞き、自分を責めるアル。
アルの感情が昂った時、、何かが起きるのか?
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