63話・強まる絆
「テオドールくんはすごいね!」
「えっ?」
「みんなのことをたくさん心配して助けようとして……。サフィールさまは、そんなテオドールくんだからこそ、声をかけてくれたんだよ!」
「……」
頬を赤くして、自分のことのように嬉しそうに語るアルヴィーに、テオドールは一年前のサフィールの言葉を思い出す。
『魔法の素養もそうだが、それは口実だ』
孤児院で、料理を作るサフィールの手伝いを買って出たテオドールに、彼女は『一緒に来ないか』と声を掛けた。
そして、魅力的な誘いに心を揺らすテオドールに『本音を言うとな』と、先程の言葉を続けた。
『お前の勇気や優しさが……、その気概が、私はとても気に入ってるんだ』
そう言いながら、大きな鍋で大量に作ったシチューを小皿に少し掬い、『ほら、味見してくれるか?』と差し出してくる。
これはサフィールの料理を手伝う者の特権で、キッチンで少しだけつまみ食いをするのが何故か特別美味しく感じられて、テオドールはこの時間が大好きだった。
『オレは……、生きるのにただ必死だっただけで。やろうとしたことも、犯罪だったし……』
クリームシチューはまったりとした優しい甘さと美味しさで、その温かさがゆっくり喉を通っていくのが分かる。
『仲間を助けたかったんだろう? 私は、テオが罪を犯す前に出会えて本当に良かったと思ってる』
小さな声で気まずそうにするテオドールに、サフィールは緩く被りを振って微笑んだ。
『私のもとで、知識と力を身に付けなさい。今度こそ正しい力で、仲間の力になるんだ』
『……!』
テオドールが味見した小皿を受け取って、『味はどうだ?』と尋ねるサフィールに、テオドールは答えられなかった。
喉が引き攣り、上手く声にならない。
自分を認め、道を示してくれる相手に、受け止めてくれる相手に、テオドールの脳裏に記憶の端に追いやったはずの母の、あの穏やかな笑顔がチラついた。
『……ッおいしい、ですッ、』
『そうか……、良かった』
涙が止まらなくなったテオドールを、サフィールがそっと抱き締める。
余計に嗚咽が酷くなって恥ずかしいのに、離れたくない。矛盾した想いを抱え、テオドールはサフィールのワンピースの背中へ自分も腕を回し、縋り付くようにして泣いた。
こうして、テオドールはサフィールの元で暮らすことを決意したのだった。
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「……オレは、そんな凄いヤツじゃないよ」
過去に想いを馳せ、テオドールは自嘲する。
「オレは、ひとりじゃなかった。仲間がいた。だから、何とかやってこれた」
それに比べて。
目の前のこの年下の子供は、本当のひとりぼっちだった。
身を寄せ合う相手も、弱音や呪詛を吐き出す相手も無く、自らの意思で家を飛び出し遥か遠くこの王都までやって来た。たった七つの子供が、だ。
「アルヴィーの方が、凄い。それに強い、とオレは思う」
「僕が?」
「ああ。アルヴィーは凄いヤツだ」
そう言うと、アルヴィーは照れくさそうにはにかんで見せる。
こんな素直な子供を虐げていたなんて、テオドールは信じられない思いだった。そして、その環境下でも素直さと純粋さを保ったままのアルヴィーに、なんて強い精神力だろうと感嘆する。
「……僕はひとりだったから、他のことを何も考えなくてよかったんだよ」
「……」
「だから、自分が助かることだけ考えてた」
「それでいいんだ、アルヴィー。そうしないと、お前はどうなってたか分からないし、それに」
「それに?」
言葉を区切ったテオドールにアルヴィーが聞き返す。
すると、テオドールはにっ、と笑顔を見せて言った。
「オレ達がこうして出会うことがなかっただろ?」
「!」
気恥ずかしいことを言っている自覚はあったが、これはきちんと言葉で伝えなければならないことだと、テオドールは本能的に理解していた。
テオドールの言葉を受けたアルヴィーは、見上げる大きな瞳にみるみる涙を溜め「うん……っ!」と頷いた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回はアルとテオが心を通じ合わせる話となっております。
子供二人がわちゃわちゃしてるのを書くのは楽しいです。
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