60話・【仲間】─テオドールの場合─
「お前達のように身寄りの無い子供を助ける為の法律があるんだ。他に同じような境遇の子供は……──」
「?」
そこまで言って、サフィールがふいに口を閉じ立ち上がった。
サッとドレスの裾を払うと、腹の前あたりで両手を組み、きちんと足を揃える。そこまでしたところで、複数の足音がこちらへ向かって来るのが聞こえてきた。
「テオ!」
「みんな……!?」
路地に駆け込んで来たのは、テオドールの仲間達だった。全員が顔を青くしながらも息を切らしテオドールの側へ駆け寄って来る。
「お前ら、なんでここに……!」
自分に任せて、みんなは来るなとあれだけ言ったのに!
血相を変えたテオドールに対し、背の高い少年が「やっぱりダメだ」と言い放った。
「テオひとりに背負わせるなんて、やっぱりダメだ。そう思ってみんなで様子を見に来たら、テオが連れて行かれて……」
「マッシュ……」
恐ろしかったが、みんなで意を決し追いかけることにしたと言う。
テオドールは嬉しさ半分、憤り半分で歯を食い縛った。ともすれば自分の不甲斐無さに涙が溢れてしまいそうだったから。
「貴族の方……、お願いします。コイツは俺達の為にやったことなんです。罰するなら年長者である俺を罰してください!」
「は……? マッシュお前何言ってるんだ! これはオレが勝手にやったことだ!」
「ぼくたちがおなか減ってるから、ぼくたちのご飯のためにテオがしてくれたんです! ぼくたちのせいなんです!」
「違う! コイツらは関係ない!」
今までの、少女と少年とのやり取りから、そう酷い罰を受けることは無さそうだと感じてはいたが、それでも万が一仲間達が処罰を受けるようなことがあってはいけない。
その想いで、テオドールは必死にマッシュを始めとする仲間の言葉を否定したが、仲間達は折れてはくれなかった。
「ちょうど良かったわ」
そのやり取りをしばらく眺めていたサフィールが、口許に柔らかな笑みを湛え割って入った。
テオドールと話していた時の雰囲気はすっかりナリを潜め、メインストリートで見た【お嬢様】な姿でサフィールが続ける。
「今、ちょうど他のお友達がいないか尋ねていたところだったの。これで全員かしら?」
「え、あ、えっと……」
ことりと小首を傾げて問うサフィールに、マッシュが顔を赤くしながら言い淀む。
自分達がどうなるか分からない状態で、正直に答えて良いものか判断が出来ないからだ。
「サフィー。先に説明してあげないと、この子達は罰を受けると思って怯えているよ」
「……確かにそうね。不安にさせてごめんなさい」
申し訳無さそうに眉尻を下げるサフィール。テオドールは彼女の変貌ぶりに何も言えず、窺うように黒髪の少年を見た。
すると、少年は口に人差し指を当て、『しーーッ』と笑顔を向けてくる。……どうやら、【あの彼女】の姿は口外してはいけないらしい。
「今回、この子がしたことは未遂だし、私も無傷だから不問にします。だから、誰かを罰するなんてことは無いから安心して」
サフィールの言葉に目に見えて安堵する子供達。しかし、その顔を順番に眺めながらサフィールは「でもね、」と続けた。
「誰もが許してくれるわけでは無いわ。それに、万が一、相手に怪我をさせていたら重い罪に問われることになるのよ」
厳しい現実を言葉にして突き付けられ、子供達は押し黙った。
最後にサフィールは、テオドールへと視線を移し口を開く。
「貴方のしようとしたことは犯罪よ。相手を傷付ける恐れがあることを、貴方はしようとしたの。それだけは理解して欲しいわ」
「だったら……! オレ達に飢え死にしろって言うのか!」
サフィールの言うことは正しい。
でもそんなことはテオドールにだって分かりきっていた。分かった上で、これしかもう方法は無いと思って行動したのだ。
内臓から振り絞るように声を出すテオドールに、サフィールは「いいえ」とゆっくりと首を横に振る。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
ここに出てくるマッシュは孤児院を訪れた際に、アルに絵本を読み聞かせてくれたあのマッシュです。
テオとはこの頃からの信頼できる仲間だったんですね。
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