59話・【対話】─テオドールの場合─
「? どうした少年。本当にどこか怪我したのか?」
黙っているテオドールに、サフィールが心配そうに顔を覗き込んできた。
テオドールが何も言えずにいると、少年の方がテオドールの心情を察して苦笑混じりに代わりに答えてくれる。
「サフィー、その子は君の変わりぶりに驚いてるんだよ」
「強盗を企むヤツがそんなことで驚くか?」
なあ? とまた言われ、テオドールは何も答えられず唇を引き結んだ。
「君、強盗は悪いことって分かってるよね? 分かった上でやろうとしたんだよね?」
「……」
「どういう事情があったのか、私達に話してくれるかい?」
黒髪の少年が優しい声で問うてくる。甘い、糖蜜のような声だ。
テオドールは必死に頭を働かせ、自分がここから助かる道を探した。そこで出した答えが【情に訴える】ということだった。
お涙頂戴の身の上話を聞かせてやれば、呑気で平和ボケした貴族サマは情けを見せて許してくれるかもしれない。むしろ、同情して金をくれる可能性だってあるんじゃないか。
そう企んだテオドールは、素直にこれまでの経緯を話した。嘘は吐かず本当のことだけ話した。だって何も脚色が無くても、自分達の境遇は散々なものだったから。
「……そうか。話に聞いたことはある。お前はあの、【貧民街】から来たのか」
「そうだよ。別に好きで貧乏してるわけじゃないけどな」
吐き捨てるようにテオドールが言うと、サフィールは意外なことに「そうだな」と頷いて見せた。
「何も知らないのに、【貧民街】なんて呼び方で一括りにするのは良くないな。すまなかった」
「……」
まさか貴族の令嬢だと思われる相手が、自分相手に謝罪をするなど思ってもみなかったのでテオドールは驚きその翡翠色の瞳を見開いた。
先程から、この二人には違和感がある。テオドールが聞き知っている貴族や金持ちの類とは違う。……そんな違和感。
「身寄りの無い子供ということならば、福祉に助けを求めるという手もあるはずだが……。役所に行ったりはしたか?」
「フクシ? ヤクショ?」
「何もしていないのか?」
「なんのことか、分からない……」
当惑した様子のテオドールを見て、サフィールは「そうか……」と、何事か考えるように自分の唇を指でふにりと押す。
柔らかそうなその質感をぼんやり眺めていると、少女はやおら顔を上げ隣に立つ少年へ言葉をかけた。
「お父様が福祉政策に手を付け始めたと聞いていたんだが……、当事者に周知されていないようだな」
それを受けて、黒髪の少年も顎に手を当て「ううん」と唸る。
「隠居のご老人達を根気良く宥めて、やっと手を付けることが出来た状態だからね。まだそこまで手が回らないのが実情ってところかな?」
「金食い虫の年寄り共が。引退した後までしゃしゃって邪魔をして……」
「自分の地位や金が一番という人が多いからねえ……。ただ、無碍にも出来ないから父も頭を悩ませていたよ」
少女がぎゅっ、と眉間に皺を寄せ、顔を顰めて毒を吐く。
黒髪の少年はそんな彼女の言動を当然のものと受け止めているようで、嗜めたりするようなことはしない。
テオドールには二人の話の内容が分からなかった。ただ、サフィールという少女から目が離せなかった。
女性らしさ、というものは感じられない立ち居振る舞いなのに……何故、【美しい】と感じてしまうんだろう。
メインストリートで見かけた時の令嬢然とした姿よりも、こちらの姿の方が余程美しく、苛烈な印象を受けた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
テオから事情を聞いたサフィール。
王都で福祉の制度を整えようと動き出した時期のようです。
テオの話を聞き、サフィールは
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