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故郷から逃げ出した僕が、新しい家族としあわせになるはなし  作者: 紅緒
第1章『少年と令嬢とやさしい時間』
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見知らぬ青年との出会い

 翌朝、アルヴィーは自分の空腹で目が覚めた。

 昨日、真面な食事を食べさせてもらったのに、時間が経つとまたお腹が減っている。それが何だか卑しく思えたが、アルヴィーの腹はそれでもくうくうと声を上げた。

 ここで寝ていた方が良いのか、何か行動した方が良いのかすら分からなくて、少し悩んだ末、アルヴィーは大きなベッドから降りて客間から出ることにした。


「あ、おはようアルヴィー」

「お、おはようございます……!」


 階段を降りると、昨日食事をしたテーブルにサフィールとテオドールが配膳を進めているところだった。


「おはよう……」

「……」

「……」


 テオドールにも挨拶をしてみたが、じろりとこちらを見ただけでふい、と目を逸らされてしまった。

 嫌われてるのかな……。と、気まずくなって下を向くアルヴィーだったが、それをサフィールが嗜めた。


「こらテオ、ちゃんと挨拶しなさい」

「……。……おはよう」


 てきぱきと動くサフィールと、それを手伝うテオドールに自分も何かした方が良いかと考えるが、それより何より、大きく気になっていることがひとつあった。


「やあ、おはよう。君がアルヴィーくんかい?」


 唐突に、気になっていた人物に直接話し掛けられて、アルヴィーは戸惑いながらも「はい、……おはようございます」と、何とか返すことが出来た。

 ダイニングテーブルの、昨夜サフィールが座っていた向かい側に、知らない青年が座っている。

 昨日はいなかったはずの青年は、人好きのする笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「私はノアというんだ。よろしくね」

「あ、アルヴィーです。よろしくお願いします……」


 ノアと名乗った青年が、にこりと笑う。

 当然のようにそこに座って長い脚を組んでいるノアという青年は、黒い髪に黒い瞳をしていた。黒い髪も黒い瞳も見たことがなかったアルヴィーは、思わずまじまじとその髪と瞳を見詰めてしまう。


「何かな?」

「あ! すみません、その……」


 相手を不躾に見ていたことに気付いて、アルヴィーは慌てて頭を下げた。

 しかしノアは特に気にする風ではなく、「何か気になるのかい?」と、テーブルに頬杖をついて尋ねてくる。

 答えないといけない空気に、アルヴィーは相手の機嫌を損ねてしまわないだろうかと内心おっかなびっくり思っていたことを口にした。


「あ、あの……、髪の毛と目が黒いひとに初めて会ったので……それで……すみません……」

「ああ、そういうこと」


 アルヴィーの答えにノアは得心したようで、「珍しいよね、黒って」と自分から話し始めた。


「私の家系では、稀に髪や瞳が黒い者が生まれるらしいんだ」


 ノアの言葉にアルヴィーは只素直に『そんなことがあるのか』という気持ちで聞いていた。

 子供のアルヴィーが見ても、このノアという青年は整った顔立ちをしていて、テーブルに頬杖をつき脚を組んでいる姿さえ、行儀が悪いどころか絵になって見えてしまう。

 黒い瞳も黒い髪も、珍しい色のはずなのにしっくりと似合って見えた。

 髪と瞳の色といえば、サフィールの少しウェーブのかかった夕陽色の髪も透き通るような青い瞳も綺麗だし、テオドールだって銀糸のような美しい銀色の髪で、瞳は翡翠色で綺麗だと思う。

 それに比べて自分は。

 自然とそんな思考になってしまう。

 栗色の髪に栗色の瞳。

 どこにでもいるありきたりな色彩だ。大体の人は自分と同じような髪色だし瞳だって同じくだ。

 勝手に自分で落ち込んで、アルヴィーはそんな自分がまた情けなくてどうしようもなくなってしまう。


「アルヴィー、朝食にするから顔を洗おう。こっちにおいで」


 自己嫌悪に陥っていたアルヴィーにサフィールが声をかける。おいでと手招きされ微笑まれただけで、暗く沈んでいたアルヴィーの気持ちが少し浮上した。


 顔を洗って戻ると、テオドールも席についてそれぞれの前に朝食が用意されていた。


「昨日と同じで悪いんだけど……」


 と、サフィールが前置きをして眉尻を下げる。


「胃腸に負担がかかるといけないから、リゾットで我慢してもらえるか?」


 自分の前のテーブルには昨日食べた物と同じリゾットが湯気を立てている。

 他の三人の前には目玉焼きとベーコン、それと小さな木のボウルに入ったサラダが並んでいて、テーブルの中央にはカットしたチーズの盛り合わせと、バスケットに盛られた丸パンが置いてあった。

 正直、カリカリに焼かれたベーコンや、ツヤっとした目玉焼きも魅力的だったけれど、このリゾットがとっても美味しいということをアルヴィーは知っているし、サフィールが意地悪で自分の分だけメニューを変えるなんてことはしないと分かっている。

 自分の身体を気遣ってくれてのことだ。

 一緒に過ごした時間は短いが、自然とそう思うことが出来た。


「パンが食べれそうなら、リゾットに浸して柔らかくして食べるんだぞ」

「ありがとうございます」


 パンの入ったバスケットを寄せてくれたので、ひとつ手に取る。

 言われた通り、ひとくち大にちぎったパンをリゾットに浸して食べてみた。甘みのあるスープがじゅわっと口に広がって、それを噛み締めている間にも不思議と空腹感が湧いてきて、アルヴィーは夢中になってリゾットを平らげた。


「食欲が出てきたみたいで良かった」


 そう言ってサフィールが腰を浮かし、アルヴィーの口元をクロスで拭ってやる。


「そんなに急いで食べたら噎せるよ? お代わりもあるから、ゆっくり食べな?」

「はい……」


 がっついて食べていた自分が恥ずかしくなってアルヴィーが赤くなる。

 お代わりをよそってくれたサフィールに「ありがとうございます」とお礼を言って、アルヴィーはまた食事に夢中になった。

 するとそのやり取りを見ていたテオドールが少しむすっとした顔をして、「サフィール様」と声を掛けた。


「ん?」


 と、サフィールがテオドールの方へ向き直ると、銀髪のその子供は「今日もごはん、おいしいです……」と小さな声で告げる。


「どうした急に?」


 サフィールは大きな目をぱちくりと瞬かせたがすぐに、


「ありがとう」


 と言って、銀糸のような繊細で美しい髪を撫でてやった。

 それに少し嬉しそうに頬を緩めた少年は、また黙って自分の食事を食べ進める。


「テオくんは、ヤキモチを焼いているんだねえ」


 そんな三人の様子を見ていたノアが楽しそうに言った。

 その言葉にギクッと身体を強張らせたテオドールが、「そ、そんなことは……!」と慌てて否定する。

 しかし、ノアはお構いなしに「照れなくて良いじゃないか」と笑いながら、ベーコンをナイフとフォークを使い美しい所作で切り分けている。


「私も妬けてしまうなあ。ねえ、サフィー、私にも構っておくれよ」

「……子供相手になにを言ってる。っていうか、何度も言ってるが朝食くらい自分ちで摂って来い。ここよりよっぽど良い物が出るだろうに」

「それこそ何回も言い続けてるのにまだそれ言う? 君が作ってくれるご飯の方が美味しいの!」


 子供っぽく頬を膨らませたノアが、そう断言してベーコンを口に放り込む。そして「うん、美味しい」と満足そうに頷いた。


「変なヤツ……」


 サフィールはそう言ったが、白磁のような頬がほんの少し朱に染まっているようにアルヴィーには見えた。


 軽口を言い合っているが、あの両親のような剥き出しの悪意は少しも感じない。むしろ優しい空気さえ孕んでいるように思える。


「さあ、食べたら風呂だ。もう湯は張ってあるから、テオ、一緒に入って風呂の使い方を教えてやってくれ」

「分かりました。……行くぞ」

「え、う、うん」

「いってらっしゃい」


 食後の片付けをしているサフィールと、のんびりと手を振るノアに見送られ、アルヴィーはテオドールに連れられて部屋の奥の浴室へと向かうことになった。


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