50話・調査報告【前】
「あ、そうだ」
「今度はなんだ?」
何かを思い出したらしいノアにサフィールが尋ねる。
「アルくんのこと、報告がきたんだ。それを今日伝えようと思って」
「!」
その言葉にサフィールは笑顔を引っ込め、ノアの顔を見て頷いた。
それを見届けて、ノアが口を開く。
「まず、捜索願いはやっぱり出されていなかったよ」
「……想像通りだな」
想像通りのクソ親だ。そう言いたくなるのを、当事者であるアルヴィーが傍で寝ているのを思い出しサフィールはなんとか堪える。
「まったく、想像通りのクソ親だよねえ」
「おい、私が言おうとして自重したことをあっさり言うな」
「だって事実だもん」
「まあそうなんだが……」
ちら、とアルヴィーが寝ているのを確認して溜息を吐く。
「よくそんなクソからこんないい子が生まれたな」
「サフィーもクソって言ってるじゃない」
「もういい。クソはクソだ」
開き直ったサフィールに、ノアが「で、そのクソ親の詳細なんだけど」と続けた。
「母親は実の親みたいだけど、父親は再婚相手だね。本当の父親はアルくんが生まれてすぐに病死している」
「病死?」
「そう」
聞き返すサフィールにノアは頷いて見せた。
「それから間を空けずに今の父親と再婚したみたい。でもその男が酒も女もギャンブルも大好きな、まさにロクデナシのクズ野郎だったみたいでね」
「うわ……、なんでそんなヤツと結婚するんだ、」
サフィールがその愛らしい顔を歪めて当然の疑問を口にする。
そのサフィールの表情に「すごい顔になってるよ」と笑いながらノアが答える。
「そういう男は、実際深く付き合ってみないと本性が分からないものらしいよ。母親も、最初は仲良くしてたみたいだし」
「……」
その【仲良く】の中に、アルヴィーは含まれていないんだろう。
それを察してサフィールは押し黙り、寝ているアルヴィーの髪をさらりと撫でた。
「母親は元々散財癖があったみたいで、再婚してからは浮気する旦那への仕返しなのか知らないけど、自分も若い男に貢ぎ始めたみたい」
「いや待て、仕返しして何になるんだ……?」
「私に聞かないでよ」
「アルに使えよ、その時間と金を……」
「そんな考えしてたら、アルくんは今ここにいないでしょ」
「そうだが、やっぱりやり切れないだろ……」
「まあね……」
ノアもまたアルヴィーへと視線を落とす。
「しかもさ、妙な噂も出回ってて……」
「噂?」
「そう。アルくんの本当の父親に関する噂」
アルヴィーを見詰めたまま、ノアがその【噂】について話し始めた。
「アルくんの父親は【病死】ということになってるけど、本当のところは【殺された】んじゃないかって……、彼らを知る人達が語ってるみたいなんだ」
「殺された? って、まさか……」
「サフィーの考えてる通りだと思うよ。……母親とその再婚相手が犯人だって、噂になってる」
「どういうことだ? なんでそんなマネを、」
サフィールは自分で声に出しながら、おおよその判断がついてそこで言葉を切った。
「……浮気相手と一緒になるのに、邪魔になったのか」
間を空けてぽつりと言ったサフィールにノアは無言で肯定を示した。
少しの時間、二人の間に沈黙が訪れる。
視線はアルヴィーに注がれたまま。
当のアルヴィー本人は、気持ち良さそうに眠っている。
「……しかし、それだけの理由で人を殺すか?」
サフィールは自分で出した答えを否定したくて、言葉を探した。
しかしノアはサフィールの気持ちを汲んだ上でゆっくりと首を振る。
「女性が不倫の上離婚したなんて、今のご時世外聞が悪いからね」
「だからって、」
「それだけじゃない」
「え?」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
とうとう、アルの両親についての報告が。
案の定な内容にサフィールもノアも辟易しているようですが、どうやらそれだけではないようで……?
次回もお楽しみに!
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