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【水曜・土曜21時更新】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第3章『はじめてのお城、新しい出会い』

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49話・愛情と悔恨

「サフィー、起きてる?」


 アルヴィーとテオドールが寝息を立て始めたのを確認して、ノアが静かに声をかけた。


「ああ、起きてる」


 その返事を聞いてノアがゆっくり身を起こし、それに倣いサフィールも起き上がった。


「さっきの話……」


 決まり悪そうにするノアに、サフィールはくすりと笑う。


「何も気にしていない。さっきも言っただろう? 私はしあわせだ」

「うん……」


 サフィールの言葉に、それでもノアの表情は暗い。


「……まあ、確かに本当の両親や、自分が何者なのか気にならないと言ったら嘘になるが」


 ふ、と笑うサフィールの表情にノアの胸が締め付けられる。


「サフィー……、ごめん」

「ノア」


 ぎゅっ、と眉根を寄せてその端正な顔を歪めるノアにサフィールは思わず手を伸ばした。

 少し身を乗り出すようにしてノアの頬に触れる。

 ノアはその小さな手に頬を擦り寄せ「ごめん」とまた謝った。


「この件に関して、お前が責任を感じる必要はないと言ったろう?」

「そうだけど……。でも、やっぱり私のせいで、」

「ノア」


 尚も言い募ろうとするノアをサフィールが遮る。


「私はお前を責めるつもりはこれっぽっちもない。それは昔も、今も変わらない」

「サフィー……」

「むしろ、楽しいことがいっぱいでしあわせだ。お父様も家の者も、私を本当の娘として扱ってくれる。魔法の研究も、街の人達との交流もとても楽しい」


 そこまで言って、サフィールはノアの頬へ触れていた手を上げてノアの頭にポン、と乗せた。


「……何より、お前といると退屈しなくて私は楽しいと思っているぞ? お前は、私に本当の両親を見付けてそこに帰って欲しいと思っているのか?」


 悪戯っぽく瞳を細めるサフィールに、ノアはぐっ、と唇を引き結んだ。

 サフィールが自分の元を去るだなんて、そんなこと想像するだけでも心が寒くなった。


「そんなわけないでしょ……! 私は、サフィーがいないと……!」

「なら、それでいいじゃないか」


 泣きそうな顔で訴えるノアに、サフィールはそう言ってノアの黒い髪を梳いてやる。


 普段は飄々としてなんでもそつなくこなす癖に、サフィールのこととなると途端に心を乱し子供のようになる。

 そんなノアのことも、サフィールは好ましく思っていた。


「……ねえ、サフィー」

「ん?」


 叱られるのを恐れる子供のような目でノアがサフィールを見る。


「もし……、もし、この先サフィーの本当のご両親に会うことが出来たとしたら……」

「ああ」


 ノアの言いたいことを察したサフィールが先に口を開く。


「それでも私はお前の傍にいるよ。約束する」

「サフィー……」


 嘘のない綺麗な笑顔に、ノアは自分の頭を撫でていたサフィールの手を取り、その甲に口付けた。


「ずっと一緒にいてね、サフィー」

「お前が私に飽きなければ、お前の一生分くらい共に生きてやるさ」

「じゃあ、一生一緒だ」


 ノアがサフィールに飽きることなんて、この先天地がひっくり返ってもないだろう。

 そこでやっと笑顔を取り戻したノアが嬉しそうに笑う。

 子供の頃から変わらない、サフィールだけに向けられる笑顔だ。ノアは自分がどれほど緩んだ顔をしているか知っているだろうか。

 サフィールはそんな婚約者がおかしくて肩を揺らして笑った。


「……そんなに笑わなくてもいいでしょ」

「だって、何度目だこのやり取り。おかしくもなるだろう」


 尖らせたノアの唇をサフィールの指がむいっ、と摘む。

 もごもごするノアが面白くて、くく、とサフィールがまた肩を揺らす。


「ほら、もうこの話はおしまいだ。いいな?」

「むぐ」


 ノアが頷いたのを見て、サフィールが指を離した。


「あ、そうだ」

「今度はなんだ?」



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今回は、サフィールとノアの会話でした。

なにやら、ノアはサフィールの生い立ちについて知っていて、しかも後暗い感情がある様子?

サフィールは気にしていないと言っていますが、一体サフィールの過去とはどういったものなのか……。

今後の展開もお楽しみに!


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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