49話・愛情と悔恨
「サフィー、起きてる?」
アルヴィーとテオドールが寝息を立て始めたのを確認して、ノアが静かに声をかけた。
「ああ、起きてる」
その返事を聞いてノアがゆっくり身を起こし、それに倣いサフィールも起き上がった。
「さっきの話……」
決まり悪そうにするノアに、サフィールはくすりと笑う。
「何も気にしていない。さっきも言っただろう? 私はしあわせだ」
「うん……」
サフィールの言葉に、それでもノアの表情は暗い。
「……まあ、確かに本当の両親や、自分が何者なのか気にならないと言ったら嘘になるが」
ふ、と笑うサフィールの表情にノアの胸が締め付けられる。
「サフィー……、ごめん」
「ノア」
ぎゅっ、と眉根を寄せてその端正な顔を歪めるノアにサフィールは思わず手を伸ばした。
少し身を乗り出すようにしてノアの頬に触れる。
ノアはその小さな手に頬を擦り寄せ「ごめん」とまた謝った。
「この件に関して、お前が責任を感じる必要はないと言ったろう?」
「そうだけど……。でも、やっぱり私のせいで、」
「ノア」
尚も言い募ろうとするノアをサフィールが遮る。
「私はお前を責めるつもりはこれっぽっちもない。それは昔も、今も変わらない」
「サフィー……」
「むしろ、楽しいことがいっぱいでしあわせだ。お父様も家の者も、私を本当の娘として扱ってくれる。魔法の研究も、街の人達との交流もとても楽しい」
そこまで言って、サフィールはノアの頬へ触れていた手を上げてノアの頭にポン、と乗せた。
「……何より、お前といると退屈しなくて私は楽しいと思っているぞ? お前は、私に本当の両親を見付けてそこに帰って欲しいと思っているのか?」
悪戯っぽく瞳を細めるサフィールに、ノアはぐっ、と唇を引き結んだ。
サフィールが自分の元を去るだなんて、そんなこと想像するだけでも心が寒くなった。
「そんなわけないでしょ……! 私は、サフィーがいないと……!」
「なら、それでいいじゃないか」
泣きそうな顔で訴えるノアに、サフィールはそう言ってノアの黒い髪を梳いてやる。
普段は飄々としてなんでもそつなくこなす癖に、サフィールのこととなると途端に心を乱し子供のようになる。
そんなノアのことも、サフィールは好ましく思っていた。
「……ねえ、サフィー」
「ん?」
叱られるのを恐れる子供のような目でノアがサフィールを見る。
「もし……、もし、この先サフィーの本当のご両親に会うことが出来たとしたら……」
「ああ」
ノアの言いたいことを察したサフィールが先に口を開く。
「それでも私はお前の傍にいるよ。約束する」
「サフィー……」
嘘のない綺麗な笑顔に、ノアは自分の頭を撫でていたサフィールの手を取り、その甲に口付けた。
「ずっと一緒にいてね、サフィー」
「お前が私に飽きなければ、お前の一生分くらい共に生きてやるさ」
「じゃあ、一生一緒だ」
ノアがサフィールに飽きることなんて、この先天地がひっくり返ってもないだろう。
そこでやっと笑顔を取り戻したノアが嬉しそうに笑う。
子供の頃から変わらない、サフィールだけに向けられる笑顔だ。ノアは自分がどれほど緩んだ顔をしているか知っているだろうか。
サフィールはそんな婚約者がおかしくて肩を揺らして笑った。
「……そんなに笑わなくてもいいでしょ」
「だって、何度目だこのやり取り。おかしくもなるだろう」
尖らせたノアの唇をサフィールの指がむいっ、と摘む。
もごもごするノアが面白くて、くく、とサフィールがまた肩を揺らす。
「ほら、もうこの話はおしまいだ。いいな?」
「むぐ」
ノアが頷いたのを見て、サフィールが指を離した。
「あ、そうだ」
「今度はなんだ?」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回は、サフィールとノアの会話でした。
なにやら、ノアはサフィールの生い立ちについて知っていて、しかも後暗い感情がある様子?
サフィールは気にしていないと言っていますが、一体サフィールの過去とはどういったものなのか……。
今後の展開もお楽しみに!
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