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【11/26、4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第3章『はじめてのお城、新しい出会い』

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48話・夜更かしと彼女のはなし

「今日は特別だよ?」


 サフィールが悪戯っぽく目を細めて笑う。

 普段は夜更かししないよう言い付けられているアルヴィーとテオドールは、その言葉に顔を見合わせキラキラと目を輝かせた。


「あったかいミルクやカフェオレが欲しければすぐ用意させるからね。お菓子も食べ放題だ!」


 ノアが両手を大きく広げて宣言すると、子供二人は「わああっ!」と歓声を上げバンザイした。


「さあ、何からしようか?」

「せっかくだから、初めてするものはどう?」


 サフィールとノアがテーブルの上のゲームを広げ見せてくれる。

 あれこれとゲームを手に取るこの二人もまた、子供達同様この状況にはしゃいでいるようだった。


 アンナも下がらせて、完全に四人だけの部屋。


 初めてするゲームでも、ノアが丁寧にルールを教えてくれて適度に手加減し、時にはわざと負けてくれるので、アルヴィーとテオドールも心から楽しむことができた。

 ただ、ノアとサフィールの間は手加減無用のようで常にバチバチと火花を散らしながら、勝った負けたを繰り返す。


「おい、今私のカード見たんじゃないか?」

「サフィー、自分が負けそうだからって言いがかりは良くないよ?」


 童心に帰ってはしゃぐノアとサフィールの言い合いに、アルヴィーもついおかしくなって笑ってしまう。

 テオドールを見ると、彼もまた楽しそうに歯を見せて笑っていた。


 お菓子を食べて、みんなで笑いながらゲームをして夜更かししている。


 その非日常が楽しさに拍車をかけていた。


 ひとしきりゲームを楽しんだあと、いつでも寝落ちして良いようにベッドに移動し、アルヴィーとテオドールはいそいそと図鑑とカタログを持ち込んだ。


 左からノア、アルヴィー、テオドール、サフィールの順に寝転び、両端のノアとサフィールが本を読んでやる。


「このお花はなんていうんですか?」

「ああ、これはガーベラだね。城の庭にも咲いているから、明日見てみるといいよ」

「サフィール様、この剣のここは何て書いてるんですか?」

「これは『魔石の効果で炎を纏う』と読むんだ。ナタリー様の剣と似たものだね。でもこれはナタリー様が使う長剣ではなく、片手剣だね」


 アルヴィーとテオドールが読めない部分を、ノアとサフィールが読んでくれる。

 すると、二人の優しい声音にだんだんとアルヴィーの瞼が重くなってきた。

 せっかくの時間を終わらせたくなくて頑張って起きていようとするけれど、こくり、こくりと頭が揺れ始める。


 そこで、アルヴィーは聞こうと思っていたことをふいに思い出した。


「あの、サフィールさま」

「ん?」

「サフィールさまのお母さんは、どんなひとなんですか?」


 その唐突な質問に、サフィールがぱちくりと瞳を瞬かせる。


「どうしたんだ急に?」

「いえ、あの、オーガストさまとサフィールさまはあんまり似てなかったから、サフィールさまはお母さん似なのかなあと思って……」


 アルヴィーは特に深い意味はなく、純粋に感じた疑問を口にしただけだったので、隣のテオドールが気まずそうな顔をしたのに気付けなかった。

 ノアは何も言わず、二人のやりとりを見守っている。


「お母さんか……」


 サフィールはどう答えるか少し考えているようだったが、すぐにアルヴィーに手を伸ばし髪を梳きながら答えた。


「私に母親はいないんだ」

「え?」

「父も、本当の父親じゃない」


 いつも通りの穏やかな顔と声で話すサフィールだが、なんだか少し翳りがあるようにアルヴィーには見え戸惑ってしまう。

 そこで初めて、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではという焦りが生じた。


「あ、あの、ごめんなさい……!」


 泣きそうな顔で謝るアルヴィーに、サフィールは「かまわないよ」と優しく笑う。


「私は幼い頃養女としてカメーリエ家に、お父様に引き取られたんだ。お父様は独身だから、元々母親はいないんだよ」


 静かに自分の出自を語るサフィールの声に、アルヴィーはただその瞳を見返して聞き入るしかなかった。

 澄んだ青い瞳がどこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「本当の両親が誰なのか、どこにいるのかも分からない。というか、三歳より前の記憶が私には全くないんだ」

「記憶がない?」

「ああ、何も覚えてない」


 三歳という幼さならば、記憶がなくてもおかしくない気もするが、『全くない』というのが引っかかった。

 自分の時はどうだっただろう。と、アルヴィーは記憶を辿る。

 幼いながらも、両親の喧嘩する声に怯えていたような気はする。なんとなく、それを覚えている。

 サフィールの言葉の意味を考えているアルヴィーに、サフィールは優しく微笑んだ。


「でも、お父様も周りのみんなもとっても優しくて、良くしてくれたから私はしあわせだよ」


 そう言うサフィールの笑顔は、嘘を吐いているようには見えなかった。

 サフィールからすれば、本当の母親がいるにも関わらず虐げられていたアルヴィーにこそ心を痛めていたのに。

 それなのに、悲しそうな顔で自分を見るアルヴィーに、本当にこの子は優しいなと愛しさが込み上げる。


「大丈夫だよ、アル。今はアルやテオもいるし、私はお前たちといるととっても楽しいんだ」


 にっこり笑うサフィールは美しくて、アルヴィーは「僕も楽しいです!」と、思わず大きな声で返していた。


「オレも、サフィールさまといれて楽しいし、しあわせです!」


 アルヴィーの隣にいたテオドールも、たまらずといった感じで身を起こし声を上げた。

 その二人の反応にサフィールは「ありがとう」と、花の蕾が綻ぶように笑った。


「私は幸せ者だなあ」


 そう言って、何度もアルヴィーの髪を梳く。

 優しいその手の感触に、アルヴィーの意識はゆっくりと眠りの中へ落ちていった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今回はみんなで夜更かしです!

サフィールもノアも大人びていますが、実際には10代の子供です。

ゲームや遊びを楽しむ事もあります。

そして、サフィールの家庭事情が少し明らかになりました。

サフィールはオーガストの養女です。

そしてオーガストは未婚。なので母親となる人はいません。

彼女の出自についてはまだ謎が多いです。

物語を続けていくうちに、そこも明らかにしていきたいと思っています。

どうか、末永くお付き合い頂けると嬉しいです。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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