46 話・ギフテッド【神の贈り物】
「……さあ、さっさと行こう」
ノアの言葉を切っ掛けに一同は再び歩き出す。
周りの空気が少しピリついていることにアルヴィーは戸惑いながらも、黙ってついて行くしかなかった。
しかし、先程の人物が何者なのかはやはり気になってしまう。
「……あのひと、だれ?」
ノアに直接聞くのは何故だか憚られて、アルヴィーはテオドールにこそっと聞いてみる。
すると、テオドールもまた小さな声で「あの方はエーリッヒ様といって、ノア様の二番目のお兄様だ」と教えてくれた。
ノアが『兄さん』と呼んでいたので予想はしていたが、髪の色も目の色もノアとは全然違う。
エーリッヒは眩いほどの金髪に、蜂蜜色の瞳だった。
兄弟だと言われてよく見てみれば、面影が少し似ていなくもない、という程度。
「全然似てないでしょ?」
「!」
ノアがアルヴィーを振り返って言う。
どうやらノアにもちゃんと聞こえていたようだ。
バツの悪い思いで、アルヴィーは「はい……」と素直に答えた。
「私以外はみんな金髪で瞳の色も同じだよ。王家の人間は代々その色で生まれるんだけど、ごく稀に私のように黒い髪と瞳の子が生まれるんだ」
そういえば、とアルヴィーは思い返す。
初めてノアと出会った朝、そのようなことを言っていた。
「さようでございます」
そこで、先頭を歩いていた壮年の執事が振り返る。
「ノア様のように黒い髪と瞳を持って生まれた方を、【ギフテッド】……もしくは【神の贈り物】と呼ぶのです」
歩みを止めず語るその執事は、朗らかでいてどこか誇らしげだ。
「ギフテッドって、どういうものなんですか?」
アルヴィーの問いにも執事は優しい笑顔を崩さず答えを教えてくれる。
「並外れた才能や魔力を持って生まれてくるのです。つまりは、天才というわけですな」
「天才!?」
「そうです。しかも、ノア様は才能に胡座をかき慢心することなく努力されてきました」
「あぐら……、まんしん?」
「いい気になって、お勉強をサボっちゃうということです」
難しい単語にアルヴィーが首を傾げると、彼は優しく言い換えてくれた。
「お勉強をサボらず、ノア様は子供の頃から、他のひとよりたくさんお勉強してきたのです」
昔を思い出しているのか、少し遠い目をする執事にノアが決まり悪そうに割って入る。
「ハンス……、私は単に退屈しのぎでやってただけだよ」
「それでも、遊びにばかり興じて勉学を疎かにすることなく、こうして年若くして宰相補佐という難しいお仕事を立派にこなしておられます」
ハンスの声に力が篭もる。
ずっとノアについて見てきたからこその言葉だった。
そして今度はボリュームを落とし、
「……ですから、あのような言い方は腹に据えかねます」
と、ぽつりと言った。
「ハンス、どこで聞かれてるか分からないよ。それに、あのひとは元々あんな感じだろ」
「それでも……、才能だけでノア様が今の立場にあると思われるのは心外なのです」
ハンスは首を振り、憤った声を出す。
他のメイド達も何も言わないのは、ハンスと同じ気持ちだからだろう。
「ありがとう、ハンス。そうやって理解してくれるみんながいて、私は心強いよ」
柔らかく笑んで見せたノアに、ハンスは「もったいないお言葉です」と言い、あとは何も言わず目的の場所へと進んで行った。
アルヴィーはそんな後ろ姿を見ながら、ノアとエーリッヒの姿を思い描き、そこで昼間に感じた違和感を思い出した。
サフィールの父、オーガストだ。
そういえば、サフィールとオーガストも髪と瞳の色が違う。
サフィールは夕陽色の髪に透き通るような青い瞳だが、オーガストは髪も瞳もウォルナッツ色だ。
顔立ちだって全く似ていない。
(お母さん似なのかな?)
あとで聞いてみようと、そのくらいの考えでアルヴィーはみんなの後ろをついて歩いた。
✦ あとがき ✦
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
ノアの髪と瞳の色は、ギフテッドによるものだと判明しました。
だから、ノアは元々魔力や知力記憶力など、様々な才能に長けています。
それでも努力を怠らず、更なる強さを得ています。
兄であるエーリッヒは、今までの人物とは違いノアに対し皮肉めいた事を言う人です。
ノアは努力をして今の能力や地位があるのですが、生まれ持った才能に嫉妬する人間もいて当然なのかなと思います。
今後、エーリッヒがまた登場するのか、その時はどんな状況なのか、楽しみにして頂けると嬉しいです!
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