42 話・ティータイムの訪問
城へ戻った頃には、ランチには遅くディナーにはまだ早い時間だった。
通された部屋には大きな丸いテーブルがあり、シワひとつない花柄のクロスが掛けられている。
そのテーブルを囲むように置かれた椅子に座ると、傍の大きな窓からは城の庭園が見下ろせるようになっていた。
美しく剪定された花々、フラワーアーチ、ガゼボが見え、ここから見える範囲だけでもかなり広いことが窺える。
テーブルの中央には美しい色とりどりの薔薇が花瓶に活けられており、残りのスペースには所狭しとサンドイッチやスコーン、マドレーヌにドーナツといったものが紅茶とともに並べられていた。
朝から色んなところへ移動してランチを取り損ねていたサフィール達へ、ノアからの言いつけで用意されたものらしかったが、当のノアは見当たらない。
まだ仕事が片付いていないようだ。
「あとで夕食もあるから、あまり食べすぎないようにしてね」
部屋にはアンナ以外にも城のメイドが何人か控えている。
そのためサフィールは猫を被ったままアルヴィー達に声をかけた。
朝食を食べてからお菓子しか口にしていなかったアルヴィーとテオドールは、真っ先にサンドイッチに手を伸ばす。
「あ、テオドールくん」
「ん?」
「これ、キュウリ入ってるよ。僕食べようか?」
「うん、ありがとうアルヴィー」
アルヴィーはこれまでの期間と経験でテオドールの偏食を理解したようで、今ではこうやってテオドールの食べられないものを率先して代わりに食べてやっている。アルヴィー自身には特に好き嫌いは無いようだった。
テオドールがペロンとめくったパンから、アルヴィーがキュウリを取り除いて自分の口へ放り込む。
決してお行儀がいいとはいえないが、微笑ましいのでサフィールは何も言わないようにしていた。
メイド達も気にした風はない。むしろサフィール同様、微笑ましげに見守っている。
というのもこの城の第三王子が偏食で、幼い頃からこうしてサフィールに嫌いなものを食べてもらっていたからだ。
今でもそれは変わらないので、この光景は彼らにとって見慣れたものであって、咎めるようなものではなかった。
「みんな、お待たせ」
「ノアさま!」
そこに、ノアがメイド達を引き連れてやってきた。
「ノア様、お仕事はもうよろしいんですか?」
てっきり夕食時に合流するものと思っていたサフィールが、向かいに腰を降ろすノアに声をかけた。
その言葉の中には『サボったんじゃないだろうな』という疑いの念が多分に含まれている。
それを察したノアが「ちゃんと仕事してきたよ」と前置きし、ぐぅーーっと伸びをした。
「あらかた片付けて、宰相殿に行ってきていいって言ってもらえたんだ」
「そうでしたか」
そう言ってサフィールがノアの周りに控えるメイド二人に目をやる。
彼女達は二人とも両手に何かを抱えていた。
その彼女達を見ていると、ノアの合図でメイド達はテーブルにスペースを作り、持っていたものをそこに置いた。
「あら、これは……」
サフィールと一緒に、アルヴィーとテオドールも置かれたものを覗き込む。
「これ、アルくんにどうかなと思って」
テーブルに積まれたひとつを手で指し示してノアが言う。
「僕に?」
それを見てアルヴィーがノアを見上げる。
そんなアルヴィーに「そうだよ」と笑い、ノアが「見てごらん」と促した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
長くなったので、このお話は三つに分けることにしました。
分けると、1話あたり大体1500文字程度です。
この章が終わったら、自分の中で整理するのも兼ねて人物紹介のページを作ろうかなあ、と思っています。
人物も結構増えて来ましたし。
リアルな生活ではうちのにゃんこが去勢手術して、もうすぐ術後検診です。
何も問題がないことを祈っております。
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