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【11/26、4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第3章『はじめてのお城、新しい出会い』

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40 話・模擬戦開始


「はあああああッ!!」


 ナタリーが剣を大きく振り被り、地面に突き立て土を抉る。その威力は凄まじく、抉られた土が風に乗りサフィールへと襲いかかった。

 しかしサフィールは落ち着いた様子でその場から動かない。


「そうですね。昨夜は相手の奇襲にしてやられましたから。こちらから奇襲をかけるのは良い手だと思います」

「!」


 まるで弾幕のような土煙がサフィールに届こうとした瞬間、土は砂の欠片ひとつ残さずサフィールの周りから消え去った。


「風魔法……?」

「いや……、何したか見えなかった……」


 ローガンとゾーイがポカンと口を開ける。


「では次はこちらの番です」


 静かにそう言ったサフィールが手を前に差し出す。

 すると、


 ズンッ!

 ズンッ!

 ズンッ!


 地鳴りと共に騎士やローガン達の足下に小さな爆発が連続して起こり、爆風が大量の土を巻き上げた。


「いや、ちょっ……!」


 ローガンが焦った声を上げるが、サフィールは攻撃の手を止めることはない。


「風も、でしたわね」


 くるり、と差し出した掌を上に向ける。

 すると今度は小さな竜巻が訓練所のあちこちに現れた。


「うわああああ!」

「全員外に退避しろ!」


 これには遠巻きに見学していた騎士達も大慌てで、巻き添えを喰わないよう訓練所の敷地から急いで離れる。


「さあ、土煙と突風の中、どうここまで辿り着きますか?」


 サフィールが問う。


 巻き起こる風が、土をも取り込んで更に威力を増している。

 小さな嵐があちこちで発生しているようなものだった。

 しかもそれだけでは終わらず、騎士やローガン達へ向けて地面の爆発は続いている。


「あれって、サフィールさまがしてるの……?」


 訓練所には防護結界が張られているため、アルヴィーたちがいる場所までは被害は及ばない。

 しかしその結界の中は風や土が舞踊っており、その中心ではサフィールが塵ひとつ付けず涼しげな表情で浮かんでいる。


「やり過ぎないよう……って、俺言ったよな……?」


 唖然とするアルヴィーの隣で、オリバーがそのスカーフェイスを顰めて自問した。

 それに対し、アンナが何故か誇らしげに「いいえ」と返す。


「お嬢様にとってはアレが【やり過ぎない】ということです」

「うう~~ん……、まあ、でっけえクレーター作られてた頃に比べりゃマシ……なのか?」


 訓練所の中央にできた巨大なクレーターの側で、『も、もうしわけありません……』と泣きそうな顔で謝っていた少女を思い出す。

 剣術と魔法を組み合わせた技の実験、と言って楽しげに放たれた一撃で訓練所が壊滅状態になった。

 本人もそんなことになると思わなかったらしく、半べそをかいて謝っていた。一緒にいたノアも、サフィールと並んでペコペコ謝っていた記憶がある。


 それに比べれば可愛いものか……、とオリバーもまた感覚が麻痺していた。


「全員、散開しろ! お互いの距離を取り走れ!」


 ナタリーの号令で騎士全員が連携を取り、距離を開けて走り出した。


「そうです、まとまって動いてはマトにされやすい」


 サフィールが場違いに優しい笑みを浮かべる。


「こちらが一人で、そちらの人数が多いほど、そのやり方は効果的でしょうね」


 ナタリーたちは爆破の狙いが定まらないようジグザグに走り、サフィールへと迫っていた。


「……さて、ローガン、ゾーイ」

「は、はいっす!」

「はい!」


 ちらりとサフィールがローガンとゾーイに視線を寄越す。

 二人は風を自らの身に纏うことで土煙を避け、突風を相殺していた。


「昨日の反省を活かせているわね」

「あ、ありがとうございま……」


 にっこりと笑ったサフィールに、思わずローガンが嬉しそうに礼を言おうと口を開く。だが、言い終わらないうちに、


「では、こちらはどう?」


 サフィールがローガンとゾーイに向けて空いていた方の手を上げる。

 その手には見る間に大きな炎の渦が集約されていき、そして──……、


 ゴオオォッ!!


「うえぇっ!?」

「……ッ!!」


 火球なんてものじゃない。

 炎の濁流が、並んで立っていた二人目掛けて豪速で迫り来る。

 慌てて飛び退けば、炎は防護結界にぶち当たり結界を舐めるようにメラメラと燃え上がった。


「二人同時に魔法を撃ち込もうとしていたようだけど、」


 言いながら、サフィールが片手に剣を作り出す。

 炎でも氷でもない、赤い光で出来たそれでサフィールはナタリーからの一撃を受け止めた。


「くっ……!」

「あなたたちも、あまり固まって動かないように」


(これを片手で止められるか……)


 渾身の一撃を止められたナタリーが口の端を歪めて笑う。


「相手が余所見をしている隙に攻撃をしかけるのは良い手ですね」

「……サフィール様相手でなければ、確実に仕留められたのですが」

「そうですね。ナタリー様、また腕を上げられましたね」


 会話をしながらも、ナタリーからの剣撃は続いている。

 それを全て片手でいなしながら、サフィールはローガンとゾーイへ炎を放つ。


「軌道をよく見なさい。逃げるだけではダメよ。周りに被害を出さないよう、考えなさい」


(それはわかってるけど……!)

(こんなん、昨日のヤツとケタが違い過ぎるっしょ!)


 双子は声には出さず心の内で嘆きながら、炎を躱すのに手一杯だ。


「サフィール様、私の相手も忘れないでください」


 ナタリーの剣のガードと呼ばれる部分……、その中央に嵌め込まれた赤い石に光が灯る。


「炎よ!」


 そのナタリーの声に応じて、見る間に刀身を炎が包んだ。


 【魔石】。

 その名の通り魔力の篭った石。

 魔道具にも使われている物で、これを介することで本来魔法を使えない人間もその恩恵を受けることが出来る。


 ナタリーの愛剣にもその魔石が使われていた。

 その赤い石は炎を出現させ自在に操ることが出来るが、誰でもそれが可能なわけではない。


 この剣は副団長であるナタリーの実力があってこそ扱える代物だった。


「炎の威力が以前より増してますわね」


 一度距離を取ったナタリーが剣を振り下ろすと、炎がサフィールへ放たれる。

 それを見てサフィールは「ああ、」と吐息のような声を漏らした。


「ちょうどいいわ。ローガン、ゾーイ、見てなさい」


 そう言うとサフィールが赤い剣を消し、代わりに両手を向かって来る炎に向けた。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今回は全文に渡って本作には珍しい戦闘シーンでした。

いつもと違う空気感を感じて頂ければ嬉しいです。

次回は模擬戦を終え、そしてナタリーの意外な一面が垣間見られる回となっております。

お楽しみに!


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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