37 話・宰相の思惑
「商会に話を持ち掛ける時、あの区画一帯を開発するのを目的としてたのは覚えてる?」
「ええ。大きな宿を作ると聞きました」
「そう、その話。大きな宿をってわけじゃないけど、あの辺を開発しようっていうのは本気だったんだ」
ノアが言うには、商会を潰し土地を手に入れ孤児院を拡張する……というのが全てではなく、更に手に入れた土地を使って、【国境の開発をする】までが今回の計画であったらしい。
「王都にやって来るには険しい山道を超えて来る必要があるでしょ? その人達がひと息つける場所があると良いなと思って」
「まあ、確かに王都に辿り着いた頃には疲れきっているでしょうね」
「でしょ?」
「そういった人達のために開発を?」
「うん。宿や、ご飯を食べられる店があるといいね。お酒も提供して、リフレッシュしてもらう場所にするんだ」
「お酒ですか……。あまり孤児院の近くで酔っ払いがうろつくのは好ましくないんですが」
この間、孤児院を訪れた時を思い出しサフィールが苦い顔をする。
それにノアは「大丈夫」と優しく告げた。
「店側にも、教会や孤児院にも常に警備を置く予定だから」
「そう、ですか……」
警備の目があるなら、不届きな輩が教会や孤児院に近付くこともないだろうし店での揉め事にも対応できるだろう。
確かにそこが妥協点だな。と、サフィールは判断した。
「元々、あそこには山で作業する人の道具小屋とかもあったから、共用で使える場所も作ろうと思ってるんだ」
「それはいいことですわね」
狩りを生業にしている者達は、土地を買い叩かれて困っているに違いない。
かといってそんなにたくさんの利用はないので、共同で使える大きな建物がひとつあれば十分だろう。
「ですが、それにはかなり人手が必要になりますわね」
そのサフィールのセリフに、今度はオーガストが答える。
「ああ。だから、今職がなく困っている人達を雇用する」
「なるほど。大がかりな開発になれば、雇用問題も少しは解消されますね」
「施設や店で働く人間も必要になるしね。建設に関しては一時的なものになるが、並行して山道の舗装計画を進めるつもりだ」
「確かに、舗装した道が出来れば王都へ行き来するのがかなり楽になりますが……」
しかし、口にするのは簡単だが、実行するのは難しいだろう。
今までそういう計画が立ち上がらなかったわけではない。利便性を考えれば、陸路からの道も切り拓いた方がいいに決まっている。
だがその為には多くの人員と資金、下準備が必要になる。
だから、計画の段階で頓挫していたのだ。
「お父様、それは可能なのですか?」
状況を知っていたサフィールが、オーガストに尋ねる。
それにオーガストはにっこりと頷き返した。
「今回手に入れた土地は、王都のものだけではなくってね」
「王都以外の土地というと?」
どちらの商会も手広くやっていたと聞く。
他の領地の土地を持っていたとしてもおかしくないだろう。
そこまで考えて、サフィールは父が何を言わんとしているのか理解した。
「山を超えた先の領地に土地があったのですね。それも山の境に当たる場所の」
「さすがサフィー、その通りだよ」
下唇に指を当て、考えを口にしたサフィールにオーガストは満足そうに笑みで返す。
「あちら側にも拠点を作り、双方から施行していく。領主であるガルシア伯爵にも既に了解を得ている」
「王都へ行く人々がガルシア伯爵領を経由するとなったら、伯爵にも益があるからね」
オーガストのセリフにノアが合いの手を入れる。
今回、商会の人間を捕らえ調べたところによると、伯爵領の土地で王都へ向かう人々から不当に通行料をせしめていたらしい。
やることがどこまでもセコいな、とサフィールは内心辟易していた。
「拠点の目処がついたのと、人出の確保が出来るということで、やっと他のお偉方からもゴーサインが出たというわけさ」
「確かに、安全な道の確保は皆の望むところですし、経済効果も期待できますものね」
伯爵領と王都を繋ぐ街道が出来れば、たくさんの人がそれを利用し、商店や宿を利用することで金を落とすだろう。
街道にも休憩ポイントや店を出すこともできる。
そうして職にあぶれている者達を雇用して、貧困層を少しでも減らせれば。
オーガスト、そしてノアの計画はそういうものだった。
「お父様にお任せしていれば安心ですわね」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
いきなりタイトルを変更して、戸惑った方がいらっしゃったら誠に申し訳ございません。
アルヴィーと、サフィールもまた主人公的立ち位置である事を分かりやすくする為に思い切って変更しました!
中心はアルヴィーやサフィールですが、それを取り巻く人々の物語でもあります。
タイトルは変わりましたが、これからも変わらず応援頂けると嬉しいです!
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