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【4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第3章『はじめてのお城、新しい出会い』

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36 話・オーガスト・ブレイク・カメーリエ

 通された部屋は広く、大きな机や書棚が置かれている。

 先程のアリシアの執務室に似ているな、とアルヴィーは感じたが、こちらの部屋の方が大きく、執務机が二つ置いてある。

 そして、一つの机には見知った顔が書類の山に囲まれてアルヴィー達を出迎えてくれた。


「サフィー! テオくん、アルくん、いらっしゃい!」

「ノアさま! こんにちは!」

「ノア様、こんにちは」

「こんにちは、アルくん、テオくん」


 机で書面に向かっていたのはノアだった。

 サフィール達が来たのを見て、嬉しそうに立ち上がり近付いて来る。


「サフィー、会いたかったよ」

「……ノア様は昨夜お会いしたばかりでしょう」


 呆れた顔をするサフィールに構わず、ノアはサフィールの姿を一歩引いてじっくり眺めると……、その黒曜石のような瞳を細めて、


「サフィー、とっても綺麗だね」


 と蕩ける笑顔で言った。

 女性ならば腰が砕けてしまいそうな甘い声に、整った顔。

 しかし、そんなノアの殺し文句を受けてもサフィールは「ありがとうございます」と言うだけで、特に変わった様子はなかった。

 そんなドライな反応にもめげることなく、ノアはにこにこと上機嫌でサフィールの側にくっ付いている。


「さあ、こちらのソファにみんな掛けなさい」


 サフィールの父親の言葉で、皆ソファに腰掛けた。

 アリシアを訪れた時とは違いサフィールの隣をノアが陣取っているので、アルヴィーとテオドールはその隣にそれぞれ座ることになった。

 アンナはここでもサフィールの後ろに控えている。


「カメーリエ公爵閣下、お茶のご用意ができました」

「ああ、入ってくれ」


 皆が着席したのを見計らったように城のメイドがやって来て、紅茶と焼き菓子が用意される。

 そしてメイドが退室したのを見送ってから、サフィールの父が口を開いた。


「昨夜の報告で来てくれたんだね?」


 尋ねられたサフィールは、それに「はい」と頷いて返す。


「ノア様からもご報告はあったと思いますが、一応魔道士協会からも報告書をお持ちしました」


 サフィールが差し出した書類を「ありがとう」と受け取った男性は、「その前に」とアルヴィーを見て微笑んだ。

 先程までの緩みきった顔ではなく、落ち着いた穏やかな表情だ。


「先に私も自己紹介をしておこうか。私は、オーガスト・ブレイク・カメーリエ。サフィールの父親だよ」

「さ、サフィールさまにお世話になってます! よろしくおねがいします!」


 背筋をしゃんと伸ばして大きな声で返事をするアルヴィーに、オーガストは相好を崩した。


「可愛らしいね。サフィーが放っておけないわけだ」

「ふふ、そうでしょう?」

「サフィーもすっごく可愛いよ」

「ノア様はちょっと静かにしていてください」


 横槍を入れてくるノアをバッサリと切り捨て、サフィールがオーガストへ向き直る。


「魔道士協会からは二名配備しましたが、苦戦を強いられてしまいました」

「そのようだね。騎士についても同様の報告をノア殿下から受けているよ」


 オーガストは表情を切り替え、書面をパラパラと捲り、「ふむ……」と自身の顎を撫でた。


「作戦を聞いていた分では、ここまで手こずるとは思わなかったな」

「ええ。相手の戦力を見くびっておりました」

「それは私の見立てが甘かったからだよ。宰相殿の顔に泥を塗るようなマネをしてしまい申し訳ない」


 それまでサフィールにぴったりくっ付いて笑顔だったノアが、神妙な顔になりオーガストに頭を下げた。


「いや、結果として賊を捕らえ商会を潰すことは成功している。殿下が気負うことはないですよ」


 ウォルナッツ色の瞳は暖かく笑んでおり、おべっかで言っているわけではないと分かる。

 それを見てノアの肩から少し力が抜けた。


「しかし、今後またこのようなことがないよう対策は必要だね」

「……お父様、そのことでお願いがあるんですが」

「なんだい、サフィー?」


 オーガストの意識がサフィールへ向いたのを確認して、サフィールはわざと上目遣いで父親を見上げた。小首を傾げ、口元で両手を組み困ったように眉を下げる。

 普段は絶対しないであろう、その破壊力抜群の上目遣いにオーガストだけでなく隣のノアまで「う゛っ」と変な声を上げた。


「あの教会と孤児院を、私が買い取りたいのです」

「サフィーが?」


 瞳を潤ませるサフィールの意外な【お願い】に、オーガストが聞き返す。


「はい、以前から考えていたことではあったのです」


 サフィールは紅茶をひとくち飲み喉を潤すと、居住まいを正し話し始めた。


「公爵家の名義になれば、誰も下手に手を出せません。ですが私はまだ子供なので、時期を見てと思っておりましたが……。今回、孤児院を拡張するにあたり良い機会だと思ったのです」


 そこでいったん言葉を区切り、サフィールはオーガストに縋るような目を向けた。


「しかし私の一存でできる買い物ではないですし、施設の経営などしたこともありません。……なので、お父様にお力添えをお願いしたいのです」

「なるほど」


 オーガストは顎をつるりと撫でると、思案するように目を閉じ、やがてサフィールの瞳を見詰め返した。


「サフィーからのお願いなんてめったにないからね。勉強にもなるだろうし、サフィーの好きにしなさい。施設の経営についても詳しい者をよこそう。……だけど、それに伴う責任は、サフィー自身が負わなければならないよ」

「承知しております。家名を汚すようなことは決してしないと誓います」

「ならよろしい」


 サフィールの青い瞳に強い決意の色を見て、オーガストは深く頷いた。


「まあ、私の可愛いサフィーが失敗するなんてありえないだろうけどね」


 今さっきまでの真剣な表情からコロリと変わり、頬を緩めてオーガストが惚気ける。

 それに対しノアも、「ええ、その通りです」と同調した。


「サフィーのことは私が支えますから、ご安心くださいお義父さん」


 にこにこと告げるノアに、オーガストの眉がぴくりと上がる。


「殿下、まだ婚姻も済んでいないのにその呼び方は些か時期尚早ではありませんかな?」

「いえいえ、私とサフィーの結婚はもう決まっているものですから。早いということはないと思いますが」


 にこにこにこ。


(ふ、ふたりとも笑ってるのに……なんかこわい!)


 笑顔の二人だがその周囲をどす黒い空気が覆っている。少なくともアルヴィーにはそう見えた。


「お父様、ノア様、子供の前ですよ」


 オロオロと二人を見ているアルヴィーに気付いたサフィールが、大人げない大人達を咎める。

 すると我に返った二人が揃ってゴホン! と咳払いをして取り繕った。


「教会と孤児院の件については、書面や手続きなど諸々こちらでしておこう。ただ、名義がサフィーでとなると署名は必要だから、そこだけはお願いするよ」

「ありがとうございます、お父様」

「いや、お礼を言われることじゃない。そもそも、これは元から計画のうちだったんだ」

「? と、申しますと?」


 サフィールが首を傾げると、オーガストは視線をノアへ移す。

 ノアから聞くように、ということだろう。

 その意図を汲んで、オーガストから引き継いでノアが話し始めた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


サフィールのお父さんの名前が判明しました。

オーガストお父さんは娘溺愛ですが、仕事は仕事できちんと分けて考えこなせる大人です。

現在この国の宰相をしております。そしてその補佐としてノアが付いています。

サフィールに関してはバチバチと火花を散らすこともある二人ですが、基本は良い関係を築いています。

次回は少しお仕事のお話です。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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