35 話・城の中へ
城へと向かう馬車の中、アルヴィーは先程のアリシアという女性を思い返し、
「アリシアさまは、すごく若いのに【かいちょう】なんてすごいですね!」
と感嘆の声を漏らした。
しかしそれにサフィールは乾いた笑いで返し、テオドールは複雑な表情を浮かべる。
「?」
当然そのリアクションに対し不思議そうにするアルヴィーだが、サフィールから聞かされた事実に仰天することとなる。
「アリシア様は私が十年以上前、初めて出会った頃からあの姿だよ」
「ええっ!?」
「オリバー様達も、アリシア様は昔からあの姿だと言っているからもう何十年も変わってないだろうね」
「ま、魔法って、そんなことまでできるんですね……」
「だから私もあのひとが実際いくつなのか知らないんだ」
呆気に取られるアルヴィーにサフィールも苦笑する。
「さすが魔道士協会の会長というか……、あの能力はあのひとの持って生まれたものに近いかな。誰でもできるものじゃないよ」
「サフィールさまはできますか?」
「うーーん……」
アルヴィーからの素朴な疑問にサフィールは首を捻って考える素振りをする。そして、
「できるけど、必要性がないからなあ」
はは、と笑うサフィールに、アルヴィーとテオドールは『できるんだ……』と言葉に出さず心の声を合わせた。
「お嬢様は会長になる実力を充分にお持ちなのです」
「アンナ……」
人差し指を口に当て内緒話をするように子供達に話しかけるアンナに、サフィールが眉間に皺を寄せこめかみを押さえる。
「実際に何度もアリシア様から『跡を継がないか』と打診されているではありませんか」
「私は絶対会長になんてならないよ」
苦い顔をしてサフィールが被りを振った。
「それに、私みたいな若輩が会長になると余計な軋轢も生じるだろうしね」
「そうでしょうか。お嬢様の実力、人望を鑑みれば反発などないと思いますが」
「そんなわけないだろう……」
アンナは本気で言っているようだが、サフィールは全くそうは思っていなかった。
【年功序列】に重きを置く頭の固い連中というのは必ず一定数いて、いくら実力があろうが年若くして高い地位に就いた者は疎まれる傾向にある。
むしろ、実力がある若造となると余計に邪険にされる可能性が高い。
わざわざそんな立場になるつもりなんて、サフィールはさらさらなかった。
「めんどくさいのは御免だよ」
「めんどくさい?」
聞き返すアルヴィーに「そうだよ」とサフィールは大きく頷き返す。
「会長なんて書類整理やら会議やら……、事務仕事ばかりで毎日忙殺されるんだよ?」
「サフィールさまは、それがイヤってことですか?」
「その通り」
アルヴィーの言葉に腕を組んだサフィールがうんうんと頷いた。
「私は好きに動きたいんだ。部屋に籠って毎日事務仕事なんて耐えられないね」
断言するサフィールにアンナは頬に手を当て「お嬢様は昔からお転婆でいらっしゃいますから」、と息を吐く。
実際には【お転婆】なんていうレベルではなかったが、ずっと一緒にいたアンナの感覚は麻痺していたので微笑ましい思い出として美化されていた。
「サフィールさまが【かいちょう】になったら、僕たちと一緒の時間、なくなっちゃいますか?」
サフィールの言うことをアルヴィーなりに咀嚼して、不安そうな顔をして尋ねる。
その内容があまりに可愛らしくて、サフィールは笑みを零した。
「ふふ、可愛い質問だね。そうだね、忙しくなったらアル達と一緒に過ごす時間が減ってしまうね」
「それは……イヤ、です……」
「オレも嫌です……」
アルヴィーだけでなくテオドールまでしょんぼりとした顔をするのが愛おしくて、サフィールは「大丈夫だよ」と宥める。
「私は会長になんてならないし、テオとアルが望んでくれるならずっと一緒にいるよ」
その言葉に二人は目に見えて安堵し、嬉しそうにはにかんだ。
「……」
しかしサフィールの隣でそれを聞いていたアンナは、彼女の──独占欲の塊のような──婚約者が聞いていたら血相を変えていただろうなと考える。
……まあ実際には聞かれていないし、サフィールとノアが結婚するとなれば環境も変わるだろうし、ここは【可愛い子供の約束】ということで聞き流すことにしよう。
アンナは心の中でそう自己完結した。
「皆様、お城に着きましたよ」
三人が仲睦まじく会話を弾ませていると、アンナが控えめに到着を告げる。
入口前には城の執事やメイドが数人出迎えに来ていて、馬車から降りるのを手伝ってくれた。
どうやらサフィールが城に来たことは、既に知られていたようだ。
「ようこそ、サフィール様」
「こんにちは。お父様にお会いしたいのですけど」
「はい。ご案内いたします」
壮年の執事が先導して城の中を歩く。
彼は古参の執事の一人で、サフィールも幼い頃からよく知っていた。
城の造りも知っているので案内など不要ではあったが、立場上そういうわけにいかない。
なのでサフィールは黙って彼の後ろに続く。
「こちらでございます」
目的の部屋に着くと、執事が扉をノックし「カメーリエ公爵閣下、サフィール様がいらっしゃいました」と声をかけた。すると──、
ガタンッ!
何かがぶつかって倒れる音。
ドダダダダッ!
勢いよく近付いてくる足音。そして、
バタァーーンッ!
目の前の扉が物凄い勢いで開かれた。
「サフィー!」
現れたのは背の高い男性で、口元に髭を蓄えている。
後ろへ撫でつけた髪やきっちりと着こなされた洋服から威厳を感じさせる容貌だが、表情だけがゆるゆるに緩みきっていた。
「元気にしてたかい? なかなか会いに来てくれないから心配してたんだよ」
「お父様……、先週お会いしたばかりではありませんか」
両手でサフィールの肩を抱く紳士に、サフィールが眉を下げてくすくす笑う。
(おとうさま……?)
アルヴィーがそっとテオドールの顔を窺うと、こくりと頷いて見せた。
(このひとが、サフィールさまのお父さん……)
まじまじとその男性を見上げていると、それに気付いた男性がアルヴィーへ顔を向けた。
「君がアルヴィー君だね。サフィーやノア殿下から聞いているよ」
「は、はいっ! アルヴィーです、はじめまして!」
ぺこ! と、おおきく頭を下げるアルヴィーに「こちらこそ、初めまして」と言うと、男性は「さあ、立ち話も何だから、みんな中に入りなさい」と部屋の中へ入るよう促した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
魔道士協会会長のアリシアは、美魔女は美魔女でも実年齢はかなり上でした(笑)。年齢は不詳です。
そしてサフィールは結構脳筋タイプで、頭を使うより体を動かしてたいひと。
だから面倒な人間関係や会議やらはアリシアにお任せして、自分は魔法の研究や、戦闘員として自由に動いています。
そして今回、とうとうサフィールのお父さん登場です!
次回、娘溺愛お父さんの名前も判明しますので、楽しみにして頂ければ!
☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!




