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【4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第3章『はじめてのお城、新しい出会い』

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34 話・もどかしいひと

「昨夜の事後報告で参りました」


 そう言ってサフィールが手を上げると、後ろのアンナがさっと書類を手渡した。

 それをテーブルに置きアリシアの方へ、すっ、と差し出す。


「ああ、ローガンとゾーイからも聞いておる。意外と手こずったみたいじゃのう」

「ええ。いくつか魔道具を装備していたのもありますが、それを差し置いてもなかなかの実力者でした」

「お前が言うならホンモノじゃな。それはあの二人には荷が重かったじゃろう」

「そういえば……、下にローガンとゾーイの姿が見えませんでしたが……」

「アイツらなら、朝から騎士団の訓練に混ざりに行っとる。鍛え直しじゃー! とか張り切っておったわい」

「そうでしたか」


 どうやら昨夜の出来事はあの双子にとって大きな影響を与えたらしい。

 二人には悔しい思いをさせたかもしれないが、やはり連れて行って良かったとサフィールは思う。


「しかし、野良の魔道士も増えてきたのう」

「ええ。協会に所属すれば生活に苦労はしないはずなのですが……」

「それ以上のウマみがあるんじゃろう。魔道具の違法売買もあるし、マトモに生きるより陰で悪さする方が儲かるんじゃ」


 難儀じゃなあ、と付け足して、アリシアが紅茶で喉を潤した。

 ゴクリと飲み込んで「おお、相変わらずアンナの淹れる茶は美味いな!」と言うと、サフィールの後ろでアンナが「ありがとうございます」と頭を下げる。

 そう言えば、いつの間にか人数分の紅茶がテーブルに用意されていたが、アルヴィーにはアンナがいつの間に退室して紅茶を淹れ戻ってきたのか全く分からなかった。


「所属といえば……、テオドールはもう来年十歳になるんじゃったな?」

「はい」

「そうか、いよいよじゃな。楽しみだのう」

「? 十歳になったらなにかあるんですか?」


 アルヴィーが会話に混ざると、アリシアは「なんじゃ、まだ聞いておらんのか」と言い説明を始める。


「テオドールは十歳になったら、ウチに所属して魔法を学ぶことになっておる」

「え! 魔法!?」

「魔道士協会に入れるのは十歳からじゃからな」


 アリシアの返答はアルヴィーの聞きたい部分ではなくて、補足を求めて隣のサフィールを見上げた。


「テオドールには魔法の才能があるのよ」

「えっ!」

「……って言っても、まだ何もできない。がんばって、やっと火の粉が出るくらいで……」


 決まり悪そうにテオドールがもにょもにょと言う。

 それでもアルヴィーは大きな瞳をいっぱいに見開いて、テオドールの方へ覗き込むようにして身を乗り出した。


「テオドールくん、すごい!」

「……で、できれば、魔法の勉強もがんばって魔法騎士になりたいんだ」


 アルヴィーの羨望の眼差しに、照れながら……でも少し誇らしそうにテオドールが語る。

 それを受けてアルヴィーが「まほうきし、ってことは……」と少し考える素振りをしてから、「もしかして!」と顔を輝かせた。


「まほうも使えるきし!?」

「そうじゃそうじゃ」


 アルヴィーの言葉に頷き返したのはアリシアだった。


「魔道士自体人数が少ない中……魔法騎士となると更に限られた数になる。魔道士としても騎士としても、かなりの修練が必要じゃ」

「魔法騎士といえば、ローガンもそうですね」

「ああ、まだまだヒヨっ子じゃがのう」


 アリシアとサフィールの会話で、テオドールの夢がとても壮大なものであることを知る。

 それでもテオドールは強い意志をその翡翠色の瞳に宿し、サフィールを見上げた。


「それでも、オレは魔法騎士になってサフィール様をお護りしたいんです」


 切実な響きをもって告げられた台詞に、サフィールは慈愛に満ちた笑みで返す。


「ふふ、楽しみにしているわ」


 きっと、子供のうちの可愛らしい夢だろう。

 大人になるにつれ大事なもの、大事なひとがたくさん増えていき、抱く夢も変わっていく。


 サフィールはそう捉えていたが、テオドールは本気だった。

 そう思われていることも理解した上で、【今はそれでもいい】と思う。

 結果で示せば良いのだ。

 自分が努力して、将来少しでもサフィールの支えになれれば。テオドールはそう考えていた。

 そうなるには、並の努力では足りない。サフィールを支えるには【普通】ではダメなのだ。

 そのことも、テオドールはよく理解していた。


「オレ、がんばります!」

「ええ、がんばってね」


 闘志を漲らせるテオドールに、それを微笑ましく受け取るサフィール。

 いまいち噛み合っていない二人を見て、アリシアは「前途多難じゃのう」とテオドールへ同情の目を向けた。


「ローガンは訓練所にいるから、あとで見に行ってやるといい。あやつらも、ギャラリーがいる方がやる気が出るじゃろうて」

「はい。お父様への報告を済ませたら、そちらに向かうつもりです」


 向かいで涼しい顔で笑んでいるサフィールは知らない。

 騎士団の連中が【やる気になる】のは、彼女というギャラリーが見ているからだということを。


「好意に疎いというか……、まあ、お前さんは昔からそうか」

「?」


 アリシアの呟きにきょとんとするサフィール。

 それに「いや、いい」と答え、アリシアは「報告は以上でいいか?」と問うた。


「はい、詳細はこちらの書面で確認していただければ」

「はいよ。野良の魔道士や、魔法具の違法売買についてはまた後日話そう」

「わかりました」


 話が終わり立ち上がったサフィールを見て、子供達も続く。


「ではアリシア様、失礼いたします」

「はいよーー」


 座ったまま手をひらひらさせ扉が静かに閉じられるのを見送ると、アリシアは執務机の方へ向かい窓から外を眺めた。


 ややあって、魔道士協会の建物から四人が出てくるのが見えた。

 子供二人の手を引いて馬車に向かうサフィールの姿。

 手を繋いだ子供達はとても楽しそうだ。


「……まあ、あの独占欲の化身みたいのに囲われ隠されしてたんじゃあ、鈍くもなるわな」


 頭の中に、サフィールを社交の場に出さず学園にも通わせず、秘匿しまくったワガママ王子の無駄に整った顔が浮かぶ。

 しかしその反動で、十五になった年にサフィールは街で一人暮らしをしたいと言い出し、父親を見事説き伏せ家を出た。

 まったく自業自得の結果である。


「……厄介な男に好かれたものよのう」


 どういう経緯でノアがサフィールにあれほど執心しているのか……、それはアリシアにも分からない。


 サフィールの魔法の才能や技量も血筋から受け継いだものなのか、それとも生まれ持ってのものなのか……、それも分からない。

 幼児といっていい年頃のサフィールに初めて会った時、既に彼女の魔力量はアリシアを抜いていた。


 それでも、彼女がアリシアにとって可愛い愛弟子であることに違いはない。


「やれやれ、いつになったら儂の跡を継いでくれるんじゃろうか」


 子供達に笑顔を向けるサフィールを見て、きっとそれはまだまだ先だろうなとアリシアは思う。


「仕方ない、老体に鞭打ってもうしばらく頑張るとするかな」


 アリシアは手の指を組み合わせてぐっ、と伸びをすると、片手で腰を擦りながら執務机の椅子へ腰掛けるのだった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今回はテオドールの夢が明かされ、それに付随してサフィールの『おや?』と感じられる部分が出てきました(笑)。

サフィールは、自分に向けられる好意に疎いのです。

原因はアリシアいわく、ノアが囲い込んで社交の場にも出さず学園にも通わせず隠していた事が原因だと……。

次回は新たなキャラクターが登場です!

是非楽しみにして頂けると嬉しいです。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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