33 話・魔道士協会会長・アリシア
【王城】とひとことで言っても、その敷地はかなり広大だ。
大きくそびえる城を正面として、その西側に壁を挟んで騎士団の建物が構えており、訓練所や宿舎もその敷地内にある。
城の敷地内にあるのは有事の際、すぐ城を守れるようにという理由からだ。
その反対側……、東側の壁を挟んだ向こうが今から向かう魔道士協会の敷地なのだが、同じ敷地内といってもかなりの距離があるため、アルヴィー達は城の人間が用意してくれた来客者用の馬車に乗り換えて向かうことになった。
乗ってきた馬車を預け、一行はアンナのエスコートで再び馬車に乗り込む。
「すごく広いんですね……!」
「そうだね。お城自体も城以外に塔やら温室やら他の建物もたくさんあるし、魔道士協会も騎士団もそれなりに広いから移動するのは大変だよ」
馬車に揺られながら感心しきりのアルヴィーに、サフィールが丁寧に答えてやる。
「魔道士協会も結構大きな建物だよ。ほら」
ゆっくりと馬車が停車して辿り着いたのは、三階建ての大きな屋敷だった。
真っ白な壁に青い平らな屋根。シンプルな造りから、その建物は【屋敷】というより【役所】というイメージを抱かせる。
「さあ、行こうか」
キョロキョロするアルヴィーの手を引き、サフィールが先導して建物へ入って行く。
入ってすぐは広いロビーになっており、正面には螺旋階段、その奥には大きな木の扉があった。
螺旋階段から見上げると天井は吹き抜けになっている。
「ここは講堂になっていて、研究したり勉強したりする場所だ」
見学のため、サフィールが扉を少し開けて中を見せてくれた。
アルヴィーがそっと中を覗くと部屋の中は思っていたよりずっと広く、たくさんの長机や椅子が並んでいる。
天井も高く、その天井まで届く高さの本棚が壁際にぎっしりとそびえており、実験器具らしき物も置かれている。そのせいか、部屋には薬品のような独特の匂いが立ち込めていた。
「みんな、まどうしのひとなんですか?」
「そうだよ、黒いローブを着ているだろう?」
確かに、サフィールの言う通り部屋の中にいる人達は皆黒いローブを身に付けていた。
「見つかる前に上へ行こう」
「? 見つかったらダメなんですか?」
そっと扉を閉めるサフィールにアルヴィーが尋ねるが、サフィールはそれに苦笑で返す。
その答えをくれたのはテオドールとアンナだった。
「サフィール様のことがみんな大好きだから、見つかると集まってきて大変なんだ」
その口ぶりから、テオドールはその現場を目にしたことがあるのだろう。
「お嬢様は魔道士協会の役員であらせられますので、皆様から慕われているのです」
「やくいん、ってすごいひとってことですか?」
「さようでございます」
アンナの言葉に目をキラキラさせてサフィールを見上げるアルヴィーに、サフィールはやはり苦笑するしかない。
三階まで階段を上がると、そこは一階とは違い、扉がいくつか並んだフロアになっていた。
左右に扉が並んだ廊下の突き当たり、そこのひときわ大きな扉へ真っ直ぐ進むと、サフィールはコン、コン、と二度ノックをした。
「サフィールです。入ってよろしいでしょうか」
中にいるであろう人物に向かってサフィールが声をかける。
ややあって、「どうぞ」と女性の声が返ってきた。
その声を待ってから、サフィールが扉を開き室内へ足を踏み入れる。
アルヴィー達もそのあとに続く。
「おや、今日は大人数だねえ」
広い執務室の奥、窓を背にした大きな執務机にその人物はいた。
「今日はこの子達の見学も兼ねてまして」
「ふうん……? まあ良いじゃろ。子供は嫌いじゃないでな」
「よっこらせ」という掛け声とともにゆっくりとした動作で立ち上がったその人は、ストレートの長い白髪が腰まである美女だった。
長身でメリハリのある身体。
目尻と唇を彩る紅が彼女の妖艶さを更に増している。
下にいた人間とは違いローブは纏っておらず、体のラインが強調されるマーメイドラインの紫色のワンピース姿だった。スリットからは長く白い脚がすらりと覗いている。
「茶菓子っつってもババくさいモンしかないのう……。これで良ければ好きなだけお食べ」
その美女は部屋の棚をガサガサと探り、執務机の前にあるソファセットのテーブルにトレイいっぱいに盛ったお菓子を置いた。
そのお菓子はこれまでサフィールにもらっていたものとは嗜好が異なり、サフィールはクッキーやケーキ、マフィンなどだったのに対し、こちらは米菓や豆菓子といった渋いチョイスだった。
「ありがとうございます、アリシア様」
ソファに腰掛けたサフィールが、両隣にアルヴィーとテオドールを掛けさせ「いただきなさい」と促す。それに「いただきます」と返した二人が思い思いのお菓子に手を伸ばした。
アンナは自然な動きでサフィールの後ろに回り控えている。
「そっちのちっこいのは初めて見る顔じゃのう?」
対面に座った女性が瞳を細めてアルヴィーを見る。
「この子はアルヴィー。先日引き取って、今は私の家で一緒に住んでいます」
「なるほどねえ」
アリシアと呼ばれた女性は、はああ、と長く息を吐き脚を組んで、太腿を肘置きにして頬杖をついた。
その手の中指には大きな瑠璃色の石が嵌った指輪が光っている。
「お前さんも物好きだねえ。そんなんじゃキリがないよ」
「一応、誰彼構わずというわけではないんですが」
「わかってるよ」
苦笑するサフィールを見て、アルヴィーは煎餅をかじっていた手を止めた。
サフィールがこの女性に責められているように感じたのだ。
自分のせいで責められているんじゃないか、と思ってアルヴィーはぎゅっ、と唇を引き結ぶ。
「ああ、ちがうちがう」
アルヴィーから向けられる視線に気付いたアリシアという女性が、ひらひらと手を振った。
「別にこの子を責めてるわけじゃない。自分の行動に責任を取れるなら、それでかまわんじゃろう」
アリシアの言葉にほっと息を吐くアルヴィー。そのアルヴィーに、アリシアは笑みを浮かべた。
「儂はアリシア。ここ、魔道士協会の会長をやっとる」
「アルヴィーです。サフィールさまにおせわになってます、よろしくお願いします!」
「ふはは! 律儀な坊主じゃのう」
豪胆に笑うアリシアに、サフィールが「アリシア様」と声をかける。
「昨夜の事後報告で参りました」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
魔道士協会に到着した一行は、会長のアリシアと対面します。
アリシアは、The美魔女!!というような容姿の美女です。
そんなアリシアに孤児院や教会での事後報告を始めるサフィール。
そして次回はテオドールについての言及もあります。
次回も楽しみにして下さると嬉しいです!
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