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【11/26、4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第2章『明日への希望と迫る影』

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29 話・卑しき者には罰を

「そこまで」


 上空からサフィールの凛とした声が響く。


 その声に驚き上を見上げる男達と、目に見えて安堵の息を吐くローガン。

 教会側にいたゾーイもほっと息を吐いた。


「サフィール様、申し訳ないっす……」


 しょぼん、と垂れた耳としっぽが見えそうなローガンにサフィールは「いいえ」と優しい声音で返した。


「明らかに分が悪かったわ。善戦した方よ」


 少し下降したサフィールの姿が、教会と孤児院どちらからも見えるようになる。

 明るい結界内で侵入者達が見たのは、小柄で美しい少女だった。


(さっきの炎を消したのはコイツなのか……!?)


 男は信じられない気持ちで、孤児院の庭からサフィールを見上げた。

 まさかあの少女にそんな技量や魔力があるようには見えないが、状況からそうとしか考えられない。


 当のサフィールは空中で静止し、それ以上自分から何を言うでもなく、目だけで下を見下ろしている。

 その氷のような瞳の温度に、射抜かれた侵入者二人の背を怖気が走る。


「……!」


 コイツは、やばい。


 数々の荒事に関わり、それなりの修羅場をくぐり抜けてきた男達の本能が悟る。


 関わってはいけない相手だ。

 敵にしてはいけない相手だ、と。


「……貴方」


 その少女がふいに孤児院の男へ声をかけた。


「放火は重罪だと知っているでしょう。知っていてこんな真似を?」


 温度のない静かな声が結界内に響く。

 教会と孤児院両方の敷地にこの静かな声が届くというのは、風魔法の影響だろうか。


 焦りの中でそんなことを考えながら、男はなんとか口を開いた。


「ま、まさかそんなつもりは……」


 男が言い訳を口にするより早く、上空から赤い光の一閃が。


「ッ……!」


 鼻を掠めて地面に突き立ったのは赤い光で出来た細い槍状のものだった。

 鼻っ柱からぽたりと血が滴り地面に落ちる。


「次は、鼻を削ぎましょう」


 平坦な声で告げられる言葉に、男の喉は干上がり何も言えなくなる。


「ひ……ッ!」


 教会側の男が思わず逃げようと身を翻す。結界が張られていることなど頭になかった。


「ぎゃっ!」


 男が動いた瞬間、またも赤い光が今度は男の腕を掠める。

 ビィィ……ン、と光の槍が地面に突き刺さり、男の腕からぼたぼたと血が滴った。


「次は、腕をもぎましょう」


 あくまで淡々と。

 サフィールが男に告げる。

 いつの間にかサフィールの周りには赤く光る槍が無数に浮かんでいた。


(な、なんなんだよ、あの女は……!)


 宙に浮いたまま正確なコントロールで攻撃魔法を繰り出してくる。

 しかもあの数の光の槍……、魔道具を使っていたとしてもかなりの練度だ。


 なんでこんなヤツがここに出張ってくるんだよ!


 二人の心情は一致していた。


 じっとりとした脂汗が身体中を伝う。

 殺意を隠しもしない瞳が、先程の台詞が本気であることを物語っている。


「善き隣人には慈悲を、卑しき者には罰を」


 空中でサフィールが口を開いた。

 静かな声で、口許に笑みを讃えて。

 風にふわりとドレスの裾を揺らす姿は神々しくすらある。……もちろん、男達にとってはそうは見えないが。


「貴方達がどちらかなど……、考えるまでもないわね?」

「ひいっ……!」


 にっこりと笑った顔はあどけなさの残る少女のものだが、侵入者である男達にはとても禍々しいものに映った。


 こんなの、相手に出来るはずない。


 これまでの経験があるからこそ解る。

 逆らって良い相手じゃない。いや、逆らえるような相手じゃない。


「こ、降参! 降参する……します!」


 上空へ声を張り上げ、抵抗の意思がないことを示した男達にサフィールは更に笑みを深めた。


「ありがとう。貴方達がそこまでの馬鹿でなくて良かったわ」


 そう言って何気なく片手を上げる。

 と、サフィールの周りに浮かんでいた残りの光の槍が一斉に男二人へ射出された。


 ドドドドドッ! 

 と、男達の周囲ギリギリのところへ何本もの槍が突き刺さる。

 少しでも身じろいでいれば身体を貫いていただろう。


「は、はは……」


 完全に戦意を喪失した男達は揃って腰を抜かし、その場にへたりこんだ。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


とうとうサフィールの実力の片鱗が出ました。

騎士や魔道士を苦戦させていた相手に対し、圧倒的な力の差を見せ付けたサフィール。

そんなサフィールの生い立ちやこれまでについてもゆくゆく書いていくつもりです。

これからも楽しみにして頂けると嬉しいです。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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