27 話・開戦の合図
「ゾーイ、今のところそちらは問題ない?」
『はい、サフィール様。教会側は現在特に動きはありません』
「そう。引き続きお願いね」
『承知しました』
ゾーイもまたサフィールが手配した魔道士協会の人間で、ここにいるワンコのように人懐こいローガンとは双子の兄妹である。
性格は真反対のような二人だが容姿はそっくりで、二人とも薄青色のボブヘアに灰色の瞳をしている。今では成長したので間違えることはないが、幼い時は見分けがつかないくらいよく似ていた。
「それにしても、もう五日っすね。なかなか向こうさん出てきてくれないっすねえ」
「そうね。あちらも慎重になっているんでしょう」
『ローガン、気を抜かないで』
「抜いてないよ、早く来ないかなあって思ってるだけ」
確かにこの五日間、拍子抜けなくらい何事もなく朝を迎えている。
きっとこちらの見廻りや警備の隙を突く為、何日もかけて調べているに違いない。
「ノア様が用意した【貴族】の言葉も、鵜呑みにはされてないようですわね」
「まあ、それは仕方ないよ」
内容は皮肉でも、やっと自分に話し掛けてもらえたことでノアが嬉しそうにサフィールへ身を寄せた。
「……ノア様、近いです」
「今更でしょ」
「はあ……」
サフィールにぴったりくっ付くノアに、人前ではぞんざいに扱う訳にもいかずサフィールは溜息を吐くに留めた。
「お二人はホントに仲良いっすねえ!」
「そうだよ、なんたって最愛の婚約者だからね」
「……」
『……』
賊を迎え撃とうという目的からは掛け離れたのほほんとした空気の中……、突然それは始まった。
『ビーーッ! ビーーッ!』
けたたましい警告音が、孤児院と教会どちらにも鳴り響いた。
「! サフィール様、来たっす!」
『サフィール様、侵入者です』
ローガンとゾーイが揃って声を上げる。
教会と孤児院の敷地に双子が張っておいた探知機能のある結界が、同時に侵入者の存在を告げたのだ。
「二箇所同時に攻め込んで来たね」
「まあ、やることは変わりませんわ。殲滅するのみです」
ノアもサフィールも動じる様子はなく、それぞれがそれぞれの部下に指示を出す。
教会や、外を見廻りしている人員にもその声は魔道具を通して届いた。
「さて、騎士のみんな、ここの施設も人も絶対死守だ。そして賊を残らず捕縛、いいね?」
「ローガン、ゾーイ、手筈通り結界を切り替えて。侵入者を逃がさないように、騒ぎが外に漏れないように両方の施設を覆って。出来るわね?」
二人の指示に全員が即座に自分の仕事を遂行すべく動き出す。
「サフィール様! 結界張り直したっす!」
『サフィール様、完了しました』
「ええ、きちんと出来ているわ。上出来よ」
外に飛び出して行った騎士達に対し、その場で手で印を組み何事か唱えていたローガンとゾーイが声を揃えた。
その報告にサフィールは頷き返す。
サフィールがこの双子を連れて来たのは、二人に実地で経験を積ませる為でもあった。
ローガンとゾーイは十七歳とまだ若いが、魔法の素質が高くセンスがある。その二人の実力を買っての今回の配備だった。
「さて、私達も行きましょうか」
「はいっす!」
「ゾーイ、そっちの騎士の方達と連携を取って上手くやってちょうだい」
『もちろんです』
ローガンを引き連れ部屋を出ようとして、当然のように自分も続こうとするノアを振り返りサフィールがじろりと睨み上げる。
「ノア様は、ここにいてください」
「えーー、私も近くで見たい」
案の定唇を尖らせるノアに、サフィールは「ダメです」とキッパリと言い放った。
「またオリバー様に叱られたいんですか?」
今回の指揮を執るのを許しても、捕物の最前線に出るのは流石に許されないだろう。
現場で指揮を執ることだってゴネまくって許可を得たとオリバーから聞いている。
「お立場を考えてください」
有無を言わさぬ声で告げるサフィールに、ノアは勝てないと分かっていても言わずにいられなかった。
「最前線で戦う公爵令嬢はアリなの……?」
その言葉にサフィールは控えめな胸を張って、腰に手をやりドヤ顔で答える。
「私は公爵令嬢ですが、魔道士協会の役員でもありますから。これも仕事です」
「なんかずるい……」
いじけてぼやくノアを無視し、「さあローガン、行きましょう」と言ってサフィールはさっさと部屋を後にしてしまった。
残されたノアは「仕方ないかあ……」と大人しく諦め、代わりにカーテンを開いてこれから始まる捕物を指揮官兼観客として楽しむことにした。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
新キャラは双子の魔道士でした!
一応私の中の設定としては、お兄ちゃんがローガン、妹がゾーイです。
ローガンは人懐こいワンコ系男子。
ゾーイは物静かな冷静な女の子。
年齢は2人の方がサフィールより上ですが、立場はサフィールの方が上なので敬語です。
いよいよ次は戦闘パート突入です!
書いてて楽しかった部分なので、その楽しさが皆様に少しでも伝えられたらいいなと思っています。
これからが孤児院トラブル編クライマックスなので、ぜひ続きも読んでくださると嬉しいです。
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