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【11/26、4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第2章『明日への希望と迫る影』

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23 話・内緒の話(2)

「なんで私だって思うのさ?」


 特に弁明もなく、ノアが問う。

 悪戯をした子供のように無邪気な顔で、サフィールの答えを待っている。


「なんでって」


 そんなノアをサフィールは白けた目で見て、深く溜息を吐いてから至極簡単な答えを寄越した。


「私はお前に、教会と孤児院の土地を巡るトラブルについて、何ひとつ話してないからな」


 何を当たり前のことを言うんだという顔でサフィールが言う。


「確かに、シスターから相談を受けて、役所と騎士団へ報告はした。騎士団長であるオリバー様にも直訴した……。だが、そんなことを王子のお前に誰がいちいち報告する?」


 ジト目で語るサフィールの言葉にノアは満面の笑みで応えた。


「お前な……」


 ノアという男がどういう人間かは嫌というほど知っている。

 サフィールが望んだことを叶える為に動くことも、その為なら手段を選ばないことも。

 そして厄介なことに、それを叶える為の権力も地位も金も持っていて、サフィールの為にそれを行使するのを厭わないことも。


 それを理解していても、今回の件についてサフィールは承服し兼ねるところがあった。


「教会と孤児院には実際に被害が出てるんだぞ。シスターだって心労でやつれてたんだからな」

「それは申し訳ないと思ってるよ」


 全然申し訳ないと思っていない表情でノアが形だけの謝罪をする。


「でもさ、よっぽどの問題を起こさないと上が動けないでしょ?」

「それはそうだが、そもそもなんであの商会に目を付けたんだ?」


 サフィールからの質問に、ノアがクッキーを頬張りながら返事をする。


「ふぉれはね」

「ちゃんと飲み込んでから言え」


 もぐもぐ口を動かしながら喋るノアにサフィールが言うと、ノアは言われた通りきちんと飲み込んでから「それはね」と再度切り出した。


「ナスティー商会もヴォイル商会も、元々裏で悪どいことして成り上がったやつみたいでね」

「叩けば埃が出るようなところなんだな」

「そう。どちらも土地を多く売買してるし、調べたら違法な取引や強引な地上げ行為やらが浮かんできたからね。商会を潰して、そこが所有してる土地も手に入れられれば一石二鳥でしょ?」

「……まあ、それはそうだが。しかしよく今まで捕まらなかったな?」

「単純に隠すのが上手かっただけさ。ひとつひとつはセコい手口だから大きな問題にならなかったし。まあ、今回私が撒いた餌にはすぐ食い付いてくれたから良かったよ」


 ノアの言う『餌』というのは、【ある貴族からの申し出】のことだろう。


 もちろんそんな貴族は実際に存在せず、ノアが差し向けた人間に過ぎない。


 多額の資金援助と、更には土地を開発した後も自分にマージンが入ると言われ、どちらの商会も色めき立ったに違いない。

 元々、個人が所有しているような小さな土地が集まった区域だ。簡単に事が進むと考えただろう。


 そして話を持ち込んだという【貴族役】の人間は、疑われないよう徹底した準備をして相手からの信頼を得たのだろう。ノアの性質から、下手なボロが出ないよう準備万端の状態で取り掛かったはずだ。

 偽の家系図や人物像、人間関係まで作り込んでいてもおかしくない。


「悪徳な商会を潰して土地を手に入れる、というのは分かったがここからどうする?」


 サフィールはその白く美しい人差し指で己の唇に触れる。考えを巡らせながら下唇を押さえるようにしていると、ノアがまたクッキーを頬張って答えた。


「ふぉうするって?」

「ちゃんと飲み込んでから言え」


 さっきと全く同じやり取りをして、さっきと全く同じくノアがクッキーを飲み込んでから話し出す。


「とりあえず、商会同士で潰し合ってもらうところまでは来たけど」

「だからってそれで本当に商会ごと潰れるようなことはないだろう。下っ端の連中は単純に騙されるかもしれないが、上の人間までそうとは考えられない」


 どちらの商会も、これまで悪どい商売を捕まらずにやり仰せていたのだ。そんな組織を束ねる頭取が、こんな手法にまんまと引っ掛かってくれるとは考え難い。

 この一連の流れに違和感を抱いていて当然のはずだ。

 それに関してはノアも織り込み済みのようで、うんうんと頷いて見せた。


「頭取同士はおかしいと思ったみたいで、私の仕込んだ【貴族】にコンタクトを取ってきたよ」

「それで知らぬ存ぜぬを通したのか?」

「そりゃそうだよ。むしろ代わりに『早くしろ』ってせっついて、アドバイスまでしてあげたんだ」

「アドバイス?」


 嫌な予感がしてサフィールが怪訝な顔をする。


「お互いに潰し合ってる場合かって。そんなことするくらいなら、両方で利益を山分けさせてやるから手を組んで動いたらどうだってね」

「……手を組んで?」

「サービスで教会と孤児院の見取り図も渡してあげたよ。手段を選ばずさっさとしろってさ」

「ノア、お前なあ……」


 頭の痛い思いでサフィールが自分のこめかみを押さえた。

 相手を結束させ、手段を選ばず、……ということは、それはつまり……、


「物理的に経営出来ない状況に追い込むつもりか」

「まあ、それが一番手っ取り早いと考えるんじゃないかな」

「……脅迫、くらいで済むと思うか?」

「サフィー、わかってると思うけど、シスターは今までの嫌がらせにも屈してないでしょ?」


 それが答えだ、とノアが笑う。

 サフィールは頭痛が酷くなるのを感じた。


 外からゴミを投げ込むのとはワケが違う。

 建物そのものが損壊される可能性が高い。否、それならまだ良い方だ。

 建物に火を点けられたり、シスターや子供達に直接危害が加えられるかもしれない。


「言っとくけど、実際に被害が出る前に待ち伏せして捕まえるんだよ?」

「当たり前だ。これ以上の被害を出されてたまるか」


 ギロっとノアを睨み、サフィールは自分の苛立ちを落ち着かせる為にコーヒーに口を付ける。

 コイツのこういうところにいちいち腹を立てていても無駄だ。それだってもうとっくに知っていることなんだから、尚も文句を言いたくなるのを我慢してサフィールは会話を続けることにした。


「ショボい嫌がらせじゃなく、取り返しの付かない悪さをしてくれれば、組織ごと潰せるじゃない?」

「またトカゲの尻尾切りにならないか?」

「それには心配及ばないよ」


 サフィールの懸念にノアがきっぱりと返答する。


「私の用意した【貴族】が全てのやり取りを魔道具で録音しているからね。それにあいつらの手元にはこっちが渡した見取り図やら土地開発の為の企画書やらがある」

「じゃあ、実行犯が捕まったと知って証拠を処分される前に、同時に叩く必要があるな」

「そうだね」

「……というか、録音してたなら嫌がらせが始まるより先にそれを証拠にどうにか出来なかったのか?」


 不満そうにするサフィールに、ノアが「それじゃ駄目だよ」と被りを振った。


「言ったでしょ、よっぽどの問題を起こさないと組織ごと潰せないんだよ」

「悪巧みの段階じゃ駄目ってわけか」

「そういうこと。面倒臭いけど、手順を踏まなきゃ今回の目標は達成出来ないんだ」


 やれやれと肩を竦めるノアにサフィールも「本当に面倒臭いな」と息を吐く。実は頭を使うより実力行使の方が得意なサフィールにとって、それは大層回りくどいことに思えた。


「まあ、サフィーなら何も考えずに相手をぶっ倒して終わりなんだろうけど」


 そんなサフィールの思考を読み取ったかのようにノアが笑う。

 図星を指されたサフィールはむっとした顔で「うるさい」と返した。


「とりあえず、ここ数日の間に決着が付くと思うよ。見廻りの連中にはわざと警備の薄い場所を作ってもらって相手を油断させる手筈になってる」

「じゃあその間、どちらの商会にも監視を付けるのか?」

「だね。決行日時までこちらに教えろって言ったら、流石にこっちが疑われる可能性がある。せっかく築いた信頼関係を崩したくはない。だから騎士の皆には悪いけど、何日か詰めてもらう必要があるね」

「気の長い話だな」


 教会と孤児院に陰湿な嫌がらせをしてきた時点でサフィールにとってどちらの商会も敵だ。やった相手が分かっているならボコボコにすれば良いだけの話なのに。

 そんなことを考えていると、ノアが苦笑して見せた。


「まあまあ、あと数日の辛抱だから。先走って殴り込みに行ったりしないでね?」

「…………。…………わかった」

「ちょっとなにその沈黙! サフィーはホントに血の気が多いんだから」


 おかしそうに笑うノアにサフィールは唇を尖らせる。その表情も愛おしいと思うノアは笑みを深めたが、次のサフィールの言葉に目を丸くした。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


全てはノアの悪巧みでした(笑)。

ノアは結果的にサフィールの望みを叶えることが出来ればそれでオールOKな人物なので、多少の被害は無問題です。

土地を手に入れて孤児院拡張できたらサフィールが喜ぶし、悪どいことしてる商会は潰せるし結果オーライと考えてるんでしょう。


皆様に読んで頂くことで、そのおかげで続けられます、本当にありがとうございます。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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