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【11/26、4章開始!】傷ついた僕と、風変わりな公爵令嬢のしあわせな家族の記録  作者: 紅緒
第2章『明日への希望と迫る影』

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20 話・はじめての【したいこと】

「アル、そろそろ帰るよ」


 孤児院の中でマッシュに絵本を読んでもらっていたアルヴィーにサフィールが声を掛けた。

 外で遊んでいたテオドールは、先に呼ばれたらしく既にサフィールの隣にいる。


 アルヴィーがいる部屋は大部屋で、室内で遊ぶ為のおもちゃや絵本がたくさん置いてあった。

 そこの床に直接座り、アルヴィーと、孤児院の他の子供達も数人参加してマッシュの絵本の読み聞かせが始まった。

 意外にもマッシュはとても演技派で、抑揚を付けたり声色を変えたりしながら絵本を読んでくれる。施設の子供達に何度も読んで聞かせている内に身に付いた才能のようだ。

 時折、身振り手振りや効果音も交えながらの朗読劇に、アルヴィーは夢中になって他の子達と一緒に「次はこれ!」「これも読んで!」と強請り、時間が過ぎるのも忘れていた。


「絵本を読んでもらっていたの?」

「はい! マッシュさん、読むのとってもじょうずなんです!」

「ふふ、本当に嬉しそうね。ありがとう、マッシュ」


 キラキラとした目で言うアルヴィーに、サフィールが優しく微笑み返しその視線をマッシュに向ける。


「い、いえ……!」

「アルがこんなに楽しそうにしてるなら、ここへ連れて来て良かったわ。良ければまた今度もお願い出来るかしら」

「も、モチロンです! こちらこそ、いつも差し入れありがとうございます!」


 サフィールが現れた途端、バッと立ち上がり顔を真っ赤にしてギクシャクとした動きになったマッシュをアルヴィーが不思議そうに見る。

 テオドールはやはりじっとりとした目を向けていた。


「今日はシスターと大事な話があったから時間がなくなってしまったけれど、今度はみんなで遊びましょうね」


 サフィールが帰ることを知った子供達が残念がるのに対し、申し訳なさそうに笑ってサフィールが言う。

 「今度はお菓子も作ってくるわね」と言ったサフィールに子供達から歓声が上がった。


「さ、帰りましょうか」

「はい! マッシュさん、みんな、ばいばい!」

「おう! また来いよー!」


 マッシュや子供達の元気な声に見送られ、三人は来た時同様馬車に乗り込み家路に着いた。


 その道中、アルヴィーはマッシュに聞かせてもらった絵本の話をサフィールとテオドールに興奮気味に話していた。

 熱心に話すアルヴィーに、サフィールが「じゃあ……」と提案する。


「途中で本屋に寄って新しい絵本を何冊か買って行こうか」

「! いいんですか⁉︎」

「もちろんだよ。何かに夢中になることはとても大事なことだ。それに家にある絵本はもう全部読んでしまっただろう?」


 ふわああ……!、と顔を輝かせるアルヴィーに、テオドールが「良かったな」と声を掛けてくれる。それに「うん!」と返すアルヴィーだが、「でも」と言葉を溢した。


「じぶんで絵本をよんだり、文字を書けるようになれたらな……」


 読んでもらうのも楽しいけれど、やはり自分で色々な物語を読めたらもっと楽しいんじゃないかとアルヴィーは考える。それに、文字だって、出来れば書けるようになりたい。

 そんなことを考える余裕なんてこれまでなかったのに、とアルヴィー自身、自分で口にした考えに少し戸惑っていた。


「文字の書き取り用の本とか、簡単な教科書なら、オレが使ってたのがあるぞ」

「!」

「じゃあ、文字を練習する為のノートも買わないとね」

「‼︎」


 贅沢な望みを軽々しく口にしてしまったと後悔しそうになったアルヴィーに、テオドールとサフィールから予想外の反応が返ってきた。


「え……、いいん、ですか?」

「良いに決まってるじゃないか。なあテオ?」

「はい。勉強するのは良いことなんだぞアルヴィー」


 当然のように言う二人に、アルヴィーは嬉しくて言葉が出なくて、なんとか「ありがとうございます」とだけ伝えることが出来た。

 そんなアルヴィーに、サフィールとテオドールは優しく頷き返すのだった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今まで、親の顔色を窺い、その日を生きるのに精一杯だったアルに初めて【したい事】という欲が生まれます。

それは全く悪い事では無くて、同年代の子供が当たり前に持っているもの。それを、ようやくアルにも持つ事が出来る心の余裕が出来たのです。

そして、それを心から応援し受け入れてくれる存在が今のアルにはいます。

アルはこれから、たくさんの欲求を持てるようになるでしょう。


☆やブックマークで応援頂けると、とても嬉しく励みになります。よろしくお願いいたします!

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