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傷ついた僕を救ったのは、風変わりな公爵令嬢でした  作者: 紅緒
第2章『明日への希望と迫る影』
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孤児院に落ちる影

 教会の二階、シスターの自室にてサフィールは気になっていたことを切り出した。


「前に来た時と比べて、随分と周りが様変わりしたようですが」


 その言葉にシスターは顔を伏せ肯定を示す。


「はい……。ここ最近で、この教会と孤児院の周囲を囲むように飲み屋が建ちまして」

「ここ最近で急にですか?」

「はい」


 元々この場所の周囲は、個人の畑であったり、農作業や、山へ狩りへ行く人間の為の作業小屋があるくらいで、とても静かな場所だった。

 それがシスターの話ではこのひと月程で周りの土地が全て買い叩かれ、朝から夜更けまで営業しているような飲み屋が建ち並ぶようになったと言う。


「それに……。これは、サフィール様にご相談して良いお話か分からないのですが……」

「そんなこと言わないでくださいシスター。何かあるのならぜひ聞かせてください」


 言葉を濁すシスターに、サフィールは真っ直ぐと目を見て訴えかける。

 そんなサフィールにまだ少し言いづらそうにしていたシスターだったが、やがて「では……」と静かに切り出した。


「実は……、周囲に飲み屋が出来た頃から嫌がらせを受けていまして……」

「嫌がらせ?」


 サフィールが怪訝に眉を寄せる。

 シスターは「はい」と頷いて、心を落ち着かせるように紅茶の入ったカップを両手で包むように触れた。


「ここや、隣の孤児院に生ゴミや動物の死骸が投げ入れられるということが続いてまして」

「それはまた……、陰湿な嫌がらせですわね」

「ええ……」


 思わず剣呑な気配を纏いそうになるのを留め、サフィールはシスターの話の続きを待つ。


「恐らく……、というか確実に、この周辺が様変わりしたのも嫌がらせの一環だと思うのです」

「どうしてそのように考えたのですか?」

「それは、最初にこの土地を売って欲しいと言われ、それを断ったところから始まったからです」


 そこまで言うとシスターはふうと息を吐き、紅茶に口を付けた。

 心労のせいだろう、その顔は心なしかやつれたように見える。


「この土地、と言うと……、教会と孤児院両方ですか?」

「はい。この区画一帯を買い上げて大きな宿を建てるという話でした」

「宿ですか。ここは大通りからかなり離れているのに、わざわざここに?」

「ええ、私もそう思いました。しかしこの土地一帯を買い上げて開発すればかなりの儲けになると……、両方が同じ話をしていたのです」

「? 両方?」


 サフィールが聞き返すと、シスター自身も腑に落ちない様子で「それが」と続けた。


「土地を欲しがっている商会は一つではないのです。二つの商会から、全く同じ内容の話が来たのです」


 聞けば、王都の中でも有力な商会二つから同時期に同じ話をされたと言う。

 国境の開発の為、ここに大きな宿を建て山を超えて王都へ来る人々の集客を狙って……というのが表向きの理由。


「しかし、実際はただの宿ではないのです」

「というと?」

「実は……、宿の中で娼婦の斡旋や賭博を行うのだと……、関係者を名乗る方から懺悔を受けました」

「……」

「本来なら懺悔の内容を他言することはないのですが、その方自身から『そんな計画に加担したくない。止められる力のある方に話して欲しい』と」


 直接役所などに訴えると自分も責を負うことになるかもしれないと恐れ、教会に来たのだという。


「それにしても妙ですね。二つの商会が同時にというのもですし、急にそんな話が持ち上がるのも」

「ええ。それにも理由があるそうです。これは商会の方から直接聞いたことですが……」


 シスターの話によると、二つの商会の頭取が土地を売って欲しいと話に来た際、どちらも『資金源がある』と、『ある貴族から話を持ち掛けられ、この土地を手に入れた方の商会を全面的に支援すると言われた』と言っていたらしい。


「……」


 そこまで聞いて、サフィールはふむ、と少し下を向いて思考を巡らせたが、すぐにシスターに視線を戻した。


「生ゴミなどの嫌がらせの件は役所に届けましたか? 直接的な被害があるのですから、相談すれば役人が動いてくれるはずですが」

「もちろん、相談しました」


 頷くシスターの表情は暗い。どうやら思うような結果にはならなかったようだ。


「役所の方達が夜中見廻りをして下さり、現行犯で捕まえることができました。しかし……」

「しかし?」

「生ゴミなどを投げ込んだ犯人はどうやらお金で雇われただけの者で、商会との繋がりを立証することが出来なかったのです」

「なるほど。トカゲの尻尾切りというやつですね」

「その通りです」


 犯人が否認しているため、役所は商会を直接叩くことが出来ないのだろう。

 単なる嫌がらせで罰を受けるよりも余程メリットのある金額を受け取っていたとしたら、犯人が口を割らないのも頷ける。


「話は分かりました」


 サフィールは残っていた紅茶を飲み干し、凛とした声で言った。


「私からも出来る限りお手伝いさせていただきます。違法な宿の建設が事実なら、見過ごせませんから」

「サフィール様……!」

「それに、この教会と孤児院をなくすわけにはいきません。ここは悩める人や子供達にとって大事な場所ですもの」


 微笑むサフィールに、シスターは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。


「サフィール様には、出会った頃から良くしていただいてばかりで……」

「いいえ、こちらこそ路頭に迷っていた子達を引き取ってもらったんですもの。お手伝いするのは当然ですわ」


 裏表なく笑うサフィールに、シスターはまるで神々しいものを見るように目を細め、もう一度「ありがとうございます」と祈りのポーズを取り礼を言った。


読んでいただきありがとうございます!


ここから孤児院を巡るトラブル編スタートです。

サフィールの活躍や、新キャラの登場などを予定してますので、続きも読んで頂けると嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします!

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