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傷ついた僕を救ったのは、風変わりな公爵令嬢でした  作者: 紅緒
第2章『明日への希望と迫る影』
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団欒とおやすみのキス

 子供二人はあっという間にオムライスを平らげて、同じように仰け反って大きくなったお腹をさすっている。


「オムライス、気に入ってくれたみたいだね」

「はい! とってもおいしかったです!」


 自分の分を食べ終わり、クロスで上品に口を拭きながらサフィールが尋ねると、アルヴィーは満面の笑顔で頷いて見せた。


「サフィール様のご飯は全部美味しいんだぞ」


 テオドールが身を乗り出して割って入り、「ハンバーグも、カレーライスも、グラタンも……全部美味しい」と熱弁する。

 それに対しアルヴィーもまた、聞いたことのない料理名に興味を示しテオドールにどんな物なのか質問する。

 二人が食べ物の話で盛り上がっているのを見て、サフィールは少し意外な気分だった。


 テオドールは普段そんなに口数の多い子ではないので、サフィールの手料理を美味しいと思ってくれていて、そう言葉にも出してくれていたが、こんなに詳細に聞いたことはなかった。

 どうやら自分が思っていた以上に、この子は自分の料理を気に入ってくれていたみたいだ。

 それが嬉しくて、『これはますます料理の腕を磨かなきゃいけないな』とサフィールは思う。

 料理を振る舞うのもサフィールの趣味だ。それもこんなに可愛い反応をもらえるとなっては俄然やる気が出るというもの。



 食後には、テオドールにはミルクたっぷりのカフェオレ、アルヴィーには昨日飲んで気に入ったらしい蜂蜜入りのホットミルク、サフィール自身は手ずから紅茶を淹れてリビングのソファで歓談した。


 リビングには大きなソファセットが置かれており、サフィールの向かいに子供二人が座っている。

 今日行った店の話や、明日は何をしようかという話……、それに笑顔で相槌を打つアルヴィーを見て、サフィールもまた自然と笑顔になった。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、サフィールは壁に掛けられたアンティークの振り子時計を見て、「さて」と切り出した。


「二人とも、そろそろお風呂に入って眠る用意をしなさい」

「「はい!」」


 揃って元気な返事をする二人に、既に本当の兄弟みたいだと可笑しくなる。

 風呂から上がり、サフィールがアルヴィーを膝に乗せ髪を乾かしていると、アルヴィーはこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。

 今日は初めてのことばかりだったのだから無理もないだろう。


「アル、眠いんだろう? 無理せずもうおやすみ」

「……」

「アル?」


 眠そうにしていたアルヴィーだったが、サフィールの言葉に僅かに表情を翳らせた。


(ひとりで寝るの、さびしい、な……)


 実家ではこんなこと、思ったことなかった。

 でも、自分の部屋を与えてもらって、新しいベッドも用意してもらったのに、これ以上ワガママを言うわけにはいかない。そう思っている、のに。


「アル」

「?」


 そんなアルヴィーの心情を読み取ったのか、サフィールがアルヴィーを抱き締めた。

 ソファに座ったサフィールの向かいに立ったアルヴィーは、抱き締められたままきょとんとサフィールを見上げる。


「こわい夢を見たり、眠れなくなったら私のところへおいで」


 額にちゅ、と口付けてにっこりと微笑むサフィール。


「おやすみのおまじないだよ」


 そう言ったサフィールに、アルヴィーはさっきまでの不安が霧散していくのを感じた。


「オレの部屋にきてもいいぞ。今度、いっしょに部屋であそぼう」

「! うん!」


 テオドールにもそう言ってもらったアルヴィーは、すっかり元気を取り戻して「おやすみなさい」ときちんと挨拶をして二階に上がって行った。


「テオももう上がりなさい」

「はい。ノア様にいただいた本の続きをすこし読んでから寝ようと思います」

「読書をするのはいいけど、あまり夜更かししないようにね」

「はい」


 テオドールは本を読むのが好きな子供だった。といっても、あまり難しい文字や単語は分からないので絵本よりちょっと字が多いくらいの児童書を読んでいる。

 紙は庶民にとって貴重品なので、本は当然高価な品だ。そんな本を、ノアがテオドールに合わせて見繕い何冊もプレゼントしている。

 ノアから贈られた本をテオドールは熱心に読み込んで、その甲斐あってかだんだんと語彙も増えてきた。

 子供の成長は早いな、などと感じながら、サフィールはテオドールの額にもおやすみのキスを落とす。


「おやすみなさい、サフィール様」

「うん。おやすみ、テオ」


 テオドールはぺこりとサフィールに一礼し自室へと向かって行った。


読んで頂きありがとうございます!

本編と全然関係ないけど、ノアの名前の由来は我が家の猫様です。

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