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滅世似  作者: 永田
1/1

神の形

この地に産ること無き未曾有が

基の様よりも遥に小さく脆き肉体と成りて這い出たのだ

生きる事無く 罷る事も無く 澱みに堕ちた生命も

義に生かされ 義に生れる生命も

生死を幾億繰返す路には涯も差別も無く 世の一切は瞬きが生れた刻から死を待つ


暦2000年 東の島國・大和列島

大首都 神洲



名成すなら澱みの大窟

虫の殻のように板金が積れ重なった壁に手を付きながら、屎尿の混じった様なぎしぎしとした油の臭気で目が滲みる裏路地を歩く


虻蝿も逃出す掃き溜め。

性病の乞食、正に今饑死(うえじ)にそうな者、瞳に何の善悪も宿していない、体躯の太い白癡

人間の最底辺がゾロゾロ、ウジウジと(おの)為為(じし)生きようとしている。

其れ等を人の形をした屑塵芥だと形容するならば、掃き溜めに違いは無い

掃き溜めは 新鮮な生者の侵入を拒む意気で俺を出迎えた

だから必然気が滅入ってしまい、壁伝いに手を這わせてゆっくりと歩を進めている次第である

こんな処、子供が入るべき処では無い 自分自身が一番判っている

嬰兒(えいじ)の死体なんて物見てしまったから、思い起こして血の気が褪める 決まって白魚が食えないだろう風貌で、思わず又想起し食道に迄迫り上がる苦味に横隔膜が痙攣した。

この拍子で、今迄俺の精神を支えていた均衡が崩れてしまった。

突然に胃液が込み上げて来て、俺の口は一瞬で膨らんだ吐瀉物袋になる

放出は堪えた。嘔吐は気も体力も削ぐ。

こんな所で吐いてしまえば先ず此の迷路は抜けられないであろう

そう感じ取り、口一杯の(ゲル)状の苦虫を一気に呑み込んだ………

胃液の逆流する、薄いチクチクとした痛みに眉を顰める

一呼吸入れ、脂汗にべとつく額を煤だらけの袖で拭う

寛解した欝がぶり返しそうだ


実際此の通りは…浪速に有る繁華街を真似た、喧騒はおろか人気も無い亜流の通りだった。

無計画な増築の所為で、薄汚い煉瓦造りのバラックが不規則に立ち並び 宛ら迷宮である

でも、何故この場所に塵共が寄り付くのかと言えば 一つの訳がある。


此処は………貧困層、女子供、はぐれ者に分け隔てなく救いの手を差し伸べる 一人の殺人鬼の住処なのだ



其の者とは?

救済であり、暴戻の限りである

無辜の民の為に罪人を屠り

罪人の為に無辜の民を屠る


其の者とは、

北川誠達(きたがわまこだち)


この神洲の暗部で跋扈する巨悪の名

殺人と云う暴挙を以て、掃き溜めに狂気の光明を齎す者

血膿の湧く頭皮を布切れと防護甲(ヘルメット)で隠し、身長は六尺半(195cm)にも登る。

浅葱色の玻璃、銅で出来た(ふち)の色眼鏡を掛け、

本人の身長を越える程の 何の()れよりも目を見張る 血錆のこびり着いた鉄槌。

勧善懲悪だと、そう云われれば聞こえは良いがそんな生温いモノでは無く、寧ろ真逆だ。

()も、善人・悪人の区別無く、埃を払う様に人を殺す其れが如何に狂人であり猟奇的かは、云う迄も無い……

北川誠達は…この掃き溜めは、常識と云う概念を毛程も持たないのだ。


俺には此処までしてやって来る高尚な理由がある

北川誠達への殺人依頼だ

悪政を働く神洲政府の害畜生を

正義を以て消す

それが課された使命であり産れた意味であると 確信し続ける



頭痛がする

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