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転がり落ちる

ゆるっとふわっとした魔法世界のお話です。


 聖獣召喚。

 それはかつて大賢者と呼ばれたウォルミテ・ロユマノワが構築したシステムである。

 魔法使いが魔法陣の上で魔法を唱え、一滴の血を捧げる。

 すると聖獣はその血に応え、聖界から人間の元へ来てくれるのだ。

 聖界での聖獣たちは魂だけの姿で存在しており、人間界に来るときに各々好きな生物の姿を借りて来るといわれていて、ウォルミテ・ロユマノワが初めて召喚したのはオウギバトという大きなハトだったとか。

 今まで本当に様々な聖獣が存在していたそうだが、レアケースでは人の姿に近い聖獣を召喚した人もいたらしい。

 さて私はどんな聖獣を召喚することが出来るだろう?

 そんな期待に胸を膨らませ、魔法を唱え血を垂らす。

 それらに、魔法陣が反応してキラキラと光り輝く。


「あ、あれは?」


 光が落ち着いたと同時に周囲がざわつき始めた。


「なにあの聖獣……」

「初めて見たけど」

「とっても……ずんぐりむっくりしてる」


 周囲の言葉が耳をかすめる中、己が召喚した聖獣と目が合った。


「なにこの生き物!!!?」



 ● ● ● ● ●



 ……さて、なぜ私が聖獣を召喚することになったのかというと、事の発端は数日前まで遡る。


「……なんですって?」


 伯爵家という由緒正しい肩書に、大きなお屋敷、広いお庭。

 穏やかなお母様に少し変わりものだけれど姉思いの優しい弟、サロモン。

 自分で言うのもなんだけれど、容姿にも難はなく学力も魔力も申し分ない。

 私の人生は順風満帆なのだと思っていた。つい最近までは。


「何度も言わせるな! 明日からお前たちの新しい母親が来ると言っているんだ」


 よくよく考えてみたら、私の順風満帆な人生に邪魔な存在が一人いた。

 そう、それは父親だ。


「お母様の葬儀がついさっき終わったところですが?」

「終わったのだからいいだろう」


 馬鹿だコイツ。何か問題でも? みたいな顔をしてやがる。馬鹿だコイツ。


「それからお前たちの兄と妹も来る」

「なんですって?」

「お前たちの新しい母親とその息子と娘が来る。父親は俺なんだからお前たちのきょうだいだろう」

「……いえ、そういうお話ではなくて」

「それからお前たちよりもあっちのほうが優秀なんだ。だから跡継ぎはお前たちの兄、クロイにしようと思っている」


 頭が痛くなってきた。誰だよクロイ。

 父親がろくでもない人間であるということは知っていた。

 どこかに愛人がいることも分かっていた。

 ただお母様やサロモン、そして私に迷惑をかけないのであればそれでいいと思っていた。

 貴族の男が愛人を囲うなんてそれほど珍しい話でもないのだから。

 それがまぁなんだって?

 病気のお母様のことなんか完全に知らん顔して、葬儀が終わった翌日に愛人を連れて来ます? 連れ子も来ます?

 しかも連れ子の片割れは私よりも年上? ってことはお母様と結婚する前から愛人がいたってこと?

 このごみクズ男が! とブチ切れる五秒前、私と父親の間にサロモンが割り込んできた。


「父上、我々とあなたが連れて来る予定の人々とは無関係です。母親でもないしきょうだいでもない」

「何を言っているんだ! お前たちがここで暮らしていく限り俺の再婚相手はお前たちの母親であり」

「俺たちはここで暮らしていかないと言っているんです」

「おま、おま……へ?」


 私の視界にはサロモンの背中しか入っていないので、父親の間抜けな声だけが聞こえてくる。


「俺たちはこの屋敷を出ます。そしてあなたとも縁を切ります。だから俺たちとあなたは今日から他人です」

「そ」

「あなたが誰と再婚しようと誰を跡継ぎにしようと我々には関係ない。これからはもう二度と顔を合わせることもない。嬉しいでしょう?」

「な、なな、何を言っているんだ生意気な! お前たちにそんなことが出来るわけ」

「出来ても出来なくてもあなたには関係のない話です。もう他人ですし」

「そ、そんな手続きはしていないぞ」

「俺がしておきました。王家からの許可証も、ほら」


 私は一切話に入れないまま、サロモンが懐からぺらりとした紙を取り出して父親に見せている。

 そして父親はそれを奪い取ろうとじたばたしている。いい歳したおっさんがじたばたしている様子はとても滑稽だった。


「あぁ、ちなみにこれを破り捨てたところで無意味ですよ。これはただの写しなので」


 サロモンはフンと鼻で笑う。


「俺はあなたのそういうところが嫌いなんですよ」

「あぁ?」

「大切にしないくせに、支配下には置きたがる浅はかさが嫌いだと言っているんです」

「なんだと!」

「母様も言っていましたよ。この結婚は間違いだったと」

「あ、あ、あの女にそんなことを言う勇気などないはずだ!」

「あなたの前では我慢していただけですよ。なぜならあなたが心底面倒だったから」

「なんだとぉ!!」


 売り言葉に買い言葉で、二人の怒りのボルテージがどんどん上昇していっている。

 大丈夫なのだろうか? なんて思いながら私はこっそりとサロモンの背後から彼の横顔を覗き込む。


「我々も思っていたんです。あなたの存在がこの世の何よりも面倒だと」


 我々ということは私も頭数に入れられているのかな? いや確かに面倒だとは思っているけれども。

 なんてことを考えていると、父親の喉からうぐぐぐぐ、という到底人間の物とは思えない唸り声が聞こえてきた。


「もう知らん! 貴様らとの縁などこっちから切ってやる! どうせ貴様らのようなガキが二人でなんて生きていけるわけがないんだ! この先困ったからといって俺を頼ろうと思うなよ!」


 お屋敷中に怒声が響き渡る。

 そんな中、私は見逃さなかった。サロモンの手の中できらりと光る魔石の存在を。

 あの色の魔石は確か、音声記録用の魔石……?


「貴様らの顔など金輪際、一生、二度と見たくない! とっとと出て行け!」


 父親のその怒声を聞いたサロモンの口角がほんの少しだけ上がった。

 そして、彼の手の中にあった魔石から光が消えた。


「行こう、リゼット姉さん」

「あ、ええ」


 サロモンはどことなく晴れやかな笑顔のまま、私の腕を引っ張った。


「リゼット姉さん、俺たちは今から王城に行く」

「王城?」

「そう。縁切りの手続きをね」

「え、でも今」

「俺が単独で縁切りの手続きなんか出来るわけねぇじゃん」

「なんですって?」


 驚く私をよそに、サロモンは楽し気な笑顔で話を続ける。


「さっきあの人が怒鳴った音声、これさえあれば俺たちはあの人と縁が切れる」

「……うん?」

「いいですかリゼット姉さん、俺たちはあの人と縁を切って、とりあえずしばらくはリゼット姉さんと俺と侍従のイヴォンと侍女のティーモの四人で暮らします」

「なんですって?」


 部屋の前に、侍従のイヴォンと侍女のティーモが二人で並んで立っている。大荷物を抱えて。


「諸々の手続きは終えていますからね」


 諸々の、手続きは終えている……? 家出の、ということかな?


「俺たちは今からかの魔法大国、リュビシュタナールへ行くんだよ!」

「なんですって?????」


 ……なんですって!?





 

日々の忙しさを言い訳に文章を書くことをサボり散らかしていたので、リハビリがてらぼちぼち書いていこうと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

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