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自発的学習〜万能薬採集へ

ギルド内で、揉め事が起こされそうなのでバベルは早々に追い出された。

その際、少女も一緒に。

二人はギルドの入口横に腰を下ろした。

バベルはとりあえず事情を聞くことにした。

名前は、アンリと言った。

「わたしのお母さんが病気なの。お金がなくて、病院にも行けなくて・・・。それで、絵本で見たこのレインボーハニーは、どんな病気も治すことができる、お薬だって。だから、冒険者様に依頼をしようと思ったんだけど・・・」

まったく相手にされなかったらしい。

「ふ〜ん」

結構、事情が重い話だったのだが、バベルは何やら本を読みながら、アンリの話を聞いていた。

不安そうに見るアンリをよそにあるページを記述を見つける。

「あった!レインボーハニー!これか?」

「あ、うん!そう、絵本のと同じ色をしてる!」

バベルが読んでいたのは、初日に老婆からもらった本。

『これでわからなかったらゴブリン以下!超基本的!回復術入門書』だった。以下『ゴブ以下書』。

ゴブ以下書には、こう書いてあった。

『自分ができないこと、苦手なことは、まず認めましょう。そのうえで自分ができることで、人を助けられる手段を見つけましょう。回復魔法が苦手なあなた!人を助けることができるのは魔法だけではありません。次のページには、いろいろな薬の材料となる素材を掲載しています。その材料を集めることから始めてみましょう』

と、あり、レインボーハニーの記述もそのページに有った。実際に、万能薬という括りにあり、希少度は最大だった。

星5相当のクエストも頷ける。

「なるほど、レインボーハニーは凶暴な蜂型のモンスター、『バニンビー』の巣からとれるか・・・」

「うん。裏山にバニンビーの大きな巣があるって聞いたことがあって」

それで依頼を出したというわけだ。

「よし!ちょっと、いってみるか」

バベルは立ち上がる。

「え!?取りに行ってくれるの?」

「うん。万能薬ってやつに興味があるから、ちょっと取ってくるわ」

「あ、ありがとう!おにいちゃん!!」


と、アンリに見送られ、一時間弱。

バベルは後悔していた。

「制服で来ないほうが良かったな・・・」

裏山を制服で登り、木の枝や葉っぱで細かい汚れがつきまくっていたのだ。

そうこうしている内に目的地についた。

アンリに細かい場所も聞いていた。

花畑の広場にある一本シュギ。そこにバニンビーの巣がある。

まさにその通りだった。

シュギの木にマグマのように赤いおぞましい物体がぶら下がっていた。

そして、それに群がっている夥しい数の赤い蜂。バニンビーだ。百を超えている。

赤い体に、巨大な毒針を持つ。その針に刺されれば、激痛が走り、患部は赤くただれてしまう。

そんな毒を持ったモンスターが群れをなして襲ってくる。レインボーハニーが貴重な万能薬と言われるのはその入手困難が故のことだった。

そのことを知ってか知らずか、バベルはよく観察しようと不用意に近づく。

バニンビーたちはそんな闖入者に気づき、警戒を始める。

構わず歩を進めるバベル。

バベルの足が完全に縄張りに入る。それと同時にバニンビーたちは襲いかかった。

「《極寒の殺意よ、我が擬笛に宿れ》」

バベルは呪文とともに、魔力を込めながら大きく息を吸った。

そして、解き放つ。

「ブヒュ〜〜〜〜〜!!(フローズン・ウェイブ!)」

バベルの口から放たれた凍気がバニンビーを襲う。

バニンビーたちはみるみる内に凍りついていく。

百を超えるバニンビーは一瞬の内に凍結してしまった。

バベルは障害もなくなり、無遠慮に巣をシュギの木からもぎ取った。

巣を割るとたっぷりの蜜が出てきた。

「おっとっと・・・」

バベルはこぼさないように持参してきた空き瓶に慎重に注いでいく。

注ぎ終わり、蜜の色を太陽にかざしながら確認。

本に載っている通りの複雑だが澄んだ色。

「よし、帰ろう」

といい、その前にゴブ以下書を確認する。

「なになに、バニンビーはその身自体が滋養強壮のもととなり薬にも使われます、か・・・。せっかくだから持って帰ろう」

バベルは凍りついたバニンビーを集めて制服に包み始めた。

バベル、未公認依頼達成。


「はぁ、はぁ」

「おい、待ってくれ!」

三人の冒険者は、とある依頼を受けていた。

星3クエスト、レグベアー、一頭の討伐。

だったはずだが、いざ現場に到着してみれば3頭のレグベアー。

三頭に囲まれてしまっては打つ手なしとクエストを放棄して逃走していたところだったが、一頭のレグベアーに行く手を阻まれてしまう。

「く、くそ!」

襲いかかる爪をかろうじて防御できたが、そのまま弾き飛ばされた。

三人は一箇所に固まる。

厄日だった。

(くそ、ギルドであったガキにムカついて、受けたクエストなのに)

そう、彼らはバベルの暴言に反応し、彼に絡んだ冒険者。剣士、戦士、魔法使いだった。

しかし、内容がまるで違った。クエスト依頼されて受けるまでの時間が開くほど、状況が変化し、難易度が変わることは多々有った。

「おい、ど、どうする・・・」

「魔力ももうないぞ・・・」

「ポーションは・・・、ないか・・・」

三頭のレグベアーがにじりよってくる。

三人は絶望した。

ガサガサ!

「「「!!?」」」

すぐ背後の茂みから、音がして三人は驚く。

まさか四頭目!?

そう思考したが、

「お、知ってる道に出たぞ。よかった、よかった」

バベルだった。

「「「え?」」」

「え?」

バベルの三人の冒険者と三頭のレグベアーに気が付き、

(仕事中か)

状況をすぐ把握して、

「お疲れ様で〜す」

軽く会釈をして邪魔しないようにその場から去ろうとした。

何事もなかったようにスタスタと歩くバベル。

その姿に冒険者どころか、レグベアーたちも呆然と眺めた。

しかし、一頭のレグベアーが鼻を引くつかせ、バベルに近寄っていく。

ヒクヒク。

なんとも芳しい匂いがバベルからするではないか。

他の二頭も気づき、バベルに近づいていく。

獣たちは気付いた。匂いの正体は、好物のレインボーハニーだということに。

チャンス到来だ。定期的に口にしたくなるが、あのバニンビーに襲われてしまってはたまらない。

しかし、今日は弱そうはチビが何故か持っている。痛い思いをしないで、あの芳醇な蜜に舌鼓を打つことができるぞと。

レグベアーたちは、標準をバベルに変えて、我先にとレインボーハニーを奪いに行った。

バキ!!

しかし、その気配を察知したのか、バベルのローキックが一頭のレグベアーに直撃。

「てめえ、これは俺のだよ」

足は不自然な方向に折れ曲がり、激痛によりレグベアーは痙攣を始めた。

続いて二頭目が襲いかかる。

「お前もかよ」

レインボーハニーが入った瓶をしっかりと抱えて、バベルはレグベアーの喉元目がけて蹴りを放つ。

グシャ!

鈍い音がして、そのままレグベアーは失神。

最後の一頭は、一際大きな体躯。

早く帰りたかったバベルは足を魔力を込めながら大きく飛び上がった。

「《灼熱の殺意よ、我が擬槌に宿れ》」

レグベアーの頭上で、バベルの足が炎に包まれる。

「レッキング・ヒート!」

炎の蹴りはレグベアーの頭部を完全に潰し、レグベアーは声を上げる間もなく絶命した。

着地したバベルは持ち物を確認。

「火はまずかったかな・・・」

レインボーハニーの瓶は無事だったが、バニンビーの氷漬けを隅々確認。

大丈夫だった。

バベルは再び歩を進めた。


冒険者たちはあっけにとられた。

一時は死を覚悟したが、あっという間にその状況は逆転し、今は安堵の静けさに包まれている。

「なんだったんだ・・・」

冒険者たちは互いの顔を見合わせて、今一度状況を飲み込めるまで気持ちを落ちかせる。

「グ、グロ・・・」

「グァ、グァ・・・」

致命傷は免れた二頭のうめき声が聞こえる。

その声、その様子に冒険者たちはある考えがよぎる。

三人とも同じ考えに至ったのか、三人ともうなづきあう。


冒険者ギルドは大いに盛り上がっていた。

レグベアー三頭を少人数で討ち取ったパーティーが帰還したのだった。

ギルド職員と手が空いている冒険者に協力要請が届き、その死骸が運ばれる。

「すげえ!レグベアーが同時に三頭も並ぶなんて壮観だな!」

「しかも、一回り大きな個体もいるぞ!こいつの毛皮だけでいくらになるんだ!?」

一際珍しい光景にギルドにいた冒険者たちだけではなく、道行く人たちも何事かと見物に来てギルド前の通りは騒然としていた。

普段は、資材置き場として使っている広場にレグベアーが並べられ、ギルド職員が鑑定をしていた。

サーラだった。

「では、確認しますが、レグベアー(中)二頭、レグベアー(特)一頭の討伐をして頂いたのは、ゲルさんたちでお間違いないですね」

「あ、ああ、そうだ。は、早いところ鑑定を済ませて報酬を寄越してくれ!」

「もう、少々お待ちください」

何故か挙動が怪しい、ゲルこと冒険者の剣士。

同じパーティーである斧の戦士のハイルと魔法使いのライトもどこか落ち着きがない。

サーラは今一度並べられたレグベアーを確認した。

(二頭の致命傷は、喉を鋭い刃物で切られたことによる失血死。これはゲルさんの剣の仕業ね。気になるのは、一頭は左後ろ足が強い衝撃を受けていること。おそらくこれで行動不能になったと思われるわね。順番で言えば、この後にとどめの刺したと考えたほうが自然ね)

サーラは隣のレグベアーも見た。

(このレグベアーも、傷口の周りが不自然に破壊されている。喉元に大ダメージを与えられてから、切りつけられている。もう一頭に比べて、出血が少ないのはある程度、喉の組織が破壊されていたからか・・・)

一番大きな個体を見ると、

(極めつけはこの個体・・・。頭部に強い衝撃と火傷の痕・・・、いや、組織が溶解しているほどの火傷だなんて、どんな魔法を使ったって言うの?)

ゲルのパーティーを一瞥する。

その視線に気づき、一瞬びくっとする。

(怪しい・・・。特の個体に関しては、彼らのスキルではこんな傷跡は残らない)

サーラは完全に三人を疑っているが、言及をしても仕方がない。

「おまたせしました。報酬の準備をいたしますので、どうぞ中でお待ちください」

明らかにホッとした表情を見せるゲルたち。

サーラは割り切っていた。別に、彼らが不正を働いていたとしても、それを追求する手間暇を考えたら、大人しく報酬を渡したほうが楽だ。

依頼を斡旋し、報酬を支払う。これが自分の仕事だと。

「すごい!これが、レインボーハニー!?絵本と同じ!」

そんな声がサーラの耳に入った。


周りがレグベアー討伐に熱狂している中、バベルはアンリに「じゃ〜ん」と今日の成果を見せていた。

「よし!これで、お前の母ちゃんが治るか早速試してみよう!」

「うん!!」

バベルとアンリがその場を去ろうとすると、

「お、お待ちください!!」

サーラが二人を引き止める。

「ん?」

「いきなりで失礼しました。よろしければその瓶を見せていただけませんか?」

バベルとアンリは顔を見合わせて、

「はい」

レインボーハニーを見せる。

サーラはまじまじと見て呟く。

「嘘・・・、この量、品質、極上物ね・・・」

レインボーハニーに見惚れるサーラ。

「もう、いい?これ、こいつの母ちゃんに飲ませたいからさ・・・」

「ご相談がございます!!」

「へ?」

サーラが興奮気味の自分を少し落ち着かせて、極めて冷静に説明を始めた。

「もしかしてお母様がご病気で、治すためにこのレインボーハニーを飲またいとのことで、よろしいですか?」

アンリは小さく頷く。

「確かに、レインボーハニーは万能薬と言われていますが、それはあくまで滋養強壮に効果があると言われるだけで、あなたのお母様が確実に治る保証はありません」

「え・・・?」

顔が曇るアンリ。

「そこで提案なのですが、そちらのレインボーハニーを買い取らせていただけませんか?そのお金で、然るべき医療機関に行き、適切な治療を受けてはどうでしょうか?」

「あ・・・」

そもそも病院に行く金がないという話も聞いていた。

アンリにとっては母が健康になればいいわけだから。

「どうする?アンリが良ければそうするか?」

アンリが考えているのを見るバベル。

まだ決断できないアンリにサーラは更に具体的な話をする。

「あ、失礼しました。ちなみに買取価格なのですが、50万イェンでいかがでしょう?」

「50万!?」

アンリは目を丸くさせて、バベルを見る。

「いいのか?」

アンリは激しく頷いた。

「良いそうだ」

「ありがとうございます。それではすぐに準備してまいります」

「あ、その前に」

「え?」

バベルはレインボーハニーを少量だけ別の容器に移した。

「せっかくだから、少しは飲んでもらおう。感想も聞きたいし」

「うん!!」

アンリも笑顔だ。

その姿にサーラもほっこりしながら、丁重にレインボーハニーを預かり換金に行った。


思いがけない大金を受け取ったので、バベルはアンリを家まで送ることになった。

レインボーハニーも飲んでもらい、顔色が悪かったアンリの母も顔に生気が戻ったようだった。

アンリとその母に何度もお礼を言われ、流石にバベルの照れくさそうにその場をそそくさと離れた。

あたりはすっかり暗くなり、バベルは不思議な気持ちで自室に戻っていった。

ベッドに寝転がると、アンリたちの笑顔が思い浮かぶ。

少しだけ心が暖かくなる気持ちになった。

なんとも充実した気分だった。

(お前も、こんな気持ちだったのか?ソウスケ)

遠い過去に出会った知人の名前を心の中で呼ぶ。

また、心が暖かくなった気がした。

何か忘れている気がするが、バベルは制服を雑に脱ぎ捨てるとそのまま寝てしまった。

今日は良い夢が見れそうだ。


時間は前後し、学園の野外実習場にて。

「なぜだ・・・、なぜ来ない!!」

現在アンリの家に向かっているバベルに、疑問を投げかけるユリウスの姿があった。


そして、

「君も中々、悪どいねぇ」

「なんの話ですか?」

ギルド職員のとある一室で会話をしているのは、受付嬢のサーラとその上司だった。

「レインボーハニーの件さ。君、買取価格を50万にしてたけど、あの量と品質なら、500万が相場でしょ?それを10分の1の価格で買い取るなんて。どんな手を使ったんだい?」

「あぁ」

そのことですかとサーラは表情を変えずに答える。

「何もおかしいことはないでしょう?価値を知らないものからは安く買い取り、価値を知っているものには高く売る。それが商売の鉄則というものでしょう。ただ、わたしが丁寧におすすめしたらご納得いただいただけです」

この件で、ギルドの懐は大きく潤ったのは確かだ。

サーラはその商売の鉄則を笑顔で実践できることに、上司は底しれぬ恐ろしさを感じた。

一方、サーラはワクワクしていた。

(ふふ、おそらくレグベアーを討伐したのは、あのバベルって子ね。レグベアーが大量に現れるのは近くに何か好物があるとき。レインボーハニーとかね。どうやって討伐したかはわからないけど、あの子が冒険者になってくれたら、退屈しなさそう。次に来たら、どうにかして冒険者に登録してもらわなきゃね)

密かに楽しみを見出していたサーラであった。

バベルの本性を知っても、果たして同じことが言えるのだろうか?


続く

この作品では魔法の詠唱は《〇〇の意思よ、〇〇に宿れ》が基本となります。バベルは《〇〇の殺意よ、〜》で詠唱します。詠唱は好きです。

1イェン=1円です。

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