表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/40

街へ〜時間潰し

ユリウスとの決闘まで、二時間。

それまで、バベルは街へと繰り出した。

「おい、こんなことしてていいのか」

バットは成り行きでバベルについて来ていた。

学園から街までは、さほどかからない。大きな馬車道に沿って歩くだけで到着した。

高級そうなレストランやブティックが立ち並ぶ。

貴族の子女たちが通う学園の近くだけ合って、格式高い店ばかりだ。

「時間までまだあるし、ちょうど調べておきたいことがあるんだよ」

「調べておきたいこと?」

「うん。生活費を稼がないとな。兄ちゃんにもらった金も限りがあるし。足りない分は自分で稼げって言われたし。働き口を探さないと」

バベルの目的はバイト探しだった。

「え?お前、働くの?」

「なんかいいのがないかな〜」

と、街に並ぶ店舗を一つずつ覗いていこうとするが、

「だったら、いいところがあるぞ」

バットはバベルを裏道に誘う。

「いいところ?」

「冒険者ギルドだよ」


冒険者ギルドは裏道に入ってから暫く歩いたところに有った。

裏道に入ってからは町並みの様子が売って変わり、集合住宅や露天が立ち並んでいた。

表通りは貴族御用達の店、裏通りは平民たちが利用する店が集まっているのだろう。

その雰囲気を物珍しそうに眺めるバベル。

先程の表通りの高級感が漂う雰囲気よりも、活気あふれる雰囲気のほうが好みだった。

「ついたぞ」

キョロキョロしているうちに目的地に到着した。

レンガ造りの立派な建物だった。壁の劣化具合からみて、だいぶ年季が入っていた。

「冒険者かぁ・・・」

「ん?どうした?」

小さくつぶやくバベルをよそにバットは扉を開いた。


ギルド内は武装した冒険者で賑わっていた。

依頼を受けるもの、依頼を吟味しているもの、報酬を受け取っているもの。

二十人以上はいるが、広いロビーなのであまり圧迫感はなかった。

「こっちだ」

バットはあるカウンターにバベルを促す。

「こんにちは」

ギルドの制服に見を包んだ三つ編みの受付嬢が朗らかに迎えた。

「どーも。仕事を探してるんですけど」

「はい。エピデル学園の方ですね。まずは、学生証を確認させていただきますね」

言われるがままに二人は発行されたての学生証を差し出した。

受付嬢は学生証と二人の顔を見比べて、何やら書類に記入していく。

「エピ学は貴族が通うと言っても、ピンからキリさ。中には、仕送りもままならない貧乏貴族出身のやつもいる。そういう奴らは、たいてい冒険者登録して、依頼を斡旋してもらってから生活費を稼いでるのさ。学生冒険者として登録しとけば、比較的低ランクの依頼を優先してもらったり、レベルに有ったパーティーの仲介もしてくれるんだ」

学生割のようなものが存在するらしい。

「ふーん・・・」

「?」

先程から特に興味がないかのようにバットの話もそこそこに周りを見ていた。

報酬を受け取って喜んでいる者たち。新しい武器の購入を検討している者たち。

壁に目をやる。大きなボードがあり、クエスト依頼の張り紙がところ狭しに張り出されていた。

真剣な目をして吟味している。

その中で一人の少女が目に入った。正直に言えば、あまりこの場に似つかわしくなかった。

冒険者とは思えず、みすぼらしい格好をして、ボードの前でボロボロの紙を持って立っていた。

そこには拙い字で、「レインボーハニーさがしています」とだけ有った。

大勢の冒険者たちがいるが、その少女のことを気にかけるものはいなかった。

「はい。おまたせしました」

学生証を返却され、受付嬢の方を向く。

「私、サーラと申します。それでは簡単に冒険者についてご説明させていただきますね」

カウンターに広げた資料を見せる。

「まずクエストのランクが1つ星から7つ星まであります。星の数が多いものほど達成困難なクエストとなります。次に、冒険者ランクがございまして、これはクエストの達成実績により昇格していき、より高難度なクエストを受けることができます。ランクは1から7まででございます。ちなみに現在、ランク7の冒険者は世界にわずか10人しかおりません。学生の皆さんには、こちらでより達成確率が高いものをご案内させていただきますね」

にっこりと安心させるような笑み。

「だってさ。とっとと、登録して食事にでも行こうぜ」

バットは説明を受け、書類を記入すべくペンを受け取る。

「うん。待ってるから、登録しちゃいな」

「え?」「え?」「え?」

バベルとバットは顔を見合わせる。サーラも目を点にさせる。

「え、お前は?冒険者登録は?」

「え?しないけど・・・」

「なんで!?この流れだったら、普通するだろう!」

「いや、俺はお前についてきただけだし、お前が冒険者になりたいみたいだったから、終わるまで待ってただけだよ」

「何だよそれ・・・」

がっくりとするバット。

「え〜と、他になにかご要件が・・・?」

「バイトを探してます」

「でしたら、クエストボードの隣に募集中の求人がございますので」

「どうも、俺見てくるわ」

そう言って件の求人を見に行く。

一瞬、先程の少女と目が合ったが気にしなかった。

求人情報は隣のクエスト依頼よりも少ないものの中々の数が有った。

「へ〜、色々あるな」

バベルは上から順に確認していく。

ここの求人情報は、冒険者を引退した者向けとされている。

一攫千金が狙える冒険者か、地道に稼げる安定職がいいか、常に考えることができるようにするためらしい。

「お前、働くってこういうこと?」

「終わったのか?」

バットはバベルの背中を追い、隣に立つ。

「普通、ここで働くって言えば冒険者になるのが筋だろう」

「俺は冒険者になりたいわけじゃなくて、回復術師になりたいんだよ。仕事もその知識を得られるもののほうが、いいに決まってるだろ?俺達の本分は学業なんだから」

「まともなこと言いやがる」

バベルは意外と考えていた。

「稼ぎは冒険者のほうが上だろ?」

あくまで収入面をアピールするバット。

「なんていうか・・・」

バベルは求人を見ながらつぶやく。


「冒険者なんて誰でもできるし、しょうもないだろ?」


その一言に周りの空気が凍りつく気配がした。

バットは青ざめる。

「モンスターの討伐やら捕獲するなんて誰でもできるじゃねぇか。それに、クエスト依頼なんて大義名分を持っているせいで人んちの敷地に勝手に入り込むし、そこに有った金目のものを勝手に持って行くし、ほぼ泥棒じゃねえか」

実体験なのか、苦々しい表情で語るバベル。

「正直言って、憧れがないんだよな〜」

そう締めくくると同時にバットはそそくさとバベルから離れた。

その理由は、

「好き勝手言ってくれるじゃねえか!」

「ん?」

バベルは三人の冒険者に囲まれていた。遠目に見ている他の冒険者もバベルのことを睨んでいた。

「おい、坊や!俺達の仕事は誰でもできるって!?どこの貴族の坊っちゃんか知らないけどな、滅多なことを言うもんじゃねえぞ!!」

「学生気分で冒険者の真似事しかできないくせに、生意気言ってんじゃねえぞ!!」

「俺等は世のため、人のためにモンスターと戦ってんだ!平和ボケしてる、お前にガタガタ言われる筋合いはねえぞ!!」

耳元で怒鳴られるも、バベルは無表情で振り向く。

剣士、斧を持った戦士、杖を持った魔法使い。

三人をまっすぐ見据えるバベル。一瞬、その雰囲気に飲まれる冒険者たち。

「世のためだの、人のためだの、その大義名分が憧れないって言ったんだよ」

バベルは少女を指差す。

「こいつの願いを聞くのは、世のため、人のためにはならないのか?」

先程から冒険者たちから無視されている紙を持った少女を一斉に見る。

少女は急に注目され、身を強張らせる。

「お前、知らねえのか?レインボーハニーの採集は星5相当のクエストだぞ。こんなみすぼらしいガキに報酬を払えるわけがない。完全にタダ働きだ。そんな依頼受けるわけ無いだろう」

呆れたように言い捨てる剣士。少女ははっきりと言われ、涙を浮かべる。

「そっか、そりゃよかった」

「はあ!?」

意外なバベルの一言に冒険者たちは声を上げる。

「あんたらが、そんな中途半端な正義で冒険者をやってるってわかったから一安心だ。あんたらが、確固たる正義を持ってこいつの依頼を受けないって言ってるならさ・・・」

バベルは冒険者たちの耳元で、


「その正義ごと、殺さないといけなかったよ」


続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ