初めての剣星礼拝〜回復魔法、覚えられるかな?
「今回の実習の〜、バベルくんの〜、様子を〜、聞かせていただきました〜。熱心に〜、指導員の方の〜、指示やお話を〜、聞いていた反面〜、患者の方に〜、「黙って治療されろ」や〜、「痛いだけだろ?少し我慢しろ」などの発言が〜、目に余るということでした〜。回復魔法には〜、他人を思いやる〜、慈愛、慈悲の〜、精神が必要なのです〜。思ったとおり〜、バベルくんは〜、それらを〜、持ち合わせてない〜、クソ野郎〜、ということになります〜。回復魔法なんて〜、夢のまた夢〜。あなたが〜、覚えるよりも〜、ゴブリンが〜、覚えるほうが〜、先と言われても〜、納得します〜」
「と〜、言うわけで〜、今日の〜、特別補習は〜、毎週恒例の〜、『剣星礼拝』に参加してもらいます〜」
剣星礼拝とは、聖剣教会で毎週『剣星日』に行われる、祈りを捧げる集会である。
この世界では、一週間を7つの『星日』で構成されている。
始まりとされる『黒星日』、それに続き『赤星日』、『青星日』、『緑星日』、『金星日』、『白星日』、そして一般的に休日とされる『剣星日』だ。
もちろん、学園も休みだ。
そんななか、呼び出されたバベル。
「ま、別に補習はいいんですけど・・・。先生はいいんですか?」
「はい〜?」
今日は休日だ。
「折角の〜、お休みなのに〜、補習に〜、付き合わされるなんて〜、溜まったものじゃないです〜。でも〜、学年主任に〜、釘を刺されては〜、仕方ありません〜。貴重な〜、休みを〜、潰すからには〜、しっかりと〜、クソ野郎から〜、普通の人になってくださいね〜」
と、メリルの口調を真似るバベル。
「とか、言うんじゃないかと」
「うふふ〜、モノマネ〜、上手ですね〜。二度と〜、しないでください〜」
「あ、すいやせん」
口調は、いつものように穏やかだが、目が笑っていなかった。
「それに〜、私は〜、毎週〜、参加してますので〜、そのついでなので〜、気にしないでください〜。わからないことがあれば〜、なんでも〜、聞いてください〜」
「お世話になります」
なんだかんだで、面倒見のいいメリル教諭に、頭を下げるバベル。
時折出る毒舌が気になるが、やはり優しい先生なのだとバベルは再認識した。
「それに〜、学年主任が〜、怖くて〜、教師なんて〜、やってられませんよ〜?所詮は〜、年功序列に〜、縛られた〜、名前だけの〜、役職です〜。時代は〜、部下のほうが〜、発言権が〜、有るフェーズに〜、突入してます〜」
「あ、そうなんすね」
つけ食わえられた言葉で、やっぱり少し怖い先生だと再認識した。
二人が向かったのは礼拝堂。
先日の実習の際に、最初に訪れてクラスメイト揃って、お祈りをしたところだった。
その日は平日もあって、人もまばらだったが、毎週剣星日の集会とあって、たくさんの人で賑わっていた。
バベルとメリルは礼拝堂の入口に差し掛かったところ、一人の少年に話しかけられた。
「おはようございます」
「はい〜、おはようございます〜」
落ち着いた声の挨拶にメリルはにこやかに返した。
バベルも見覚えがあった。
「あ、おはよう!」
「おはよう」
「確か・・・、ジョセフだっけ?」
「ああ。君は、剣星礼拝は初めてだな」
「うん。ちょっと、緊張してるよ。これで、俺も回復魔法が使えるようになるかと思うと」
「?」
バベルの言葉に、怪訝そうな顔をするジョセフに、
「気にしないでください〜」と、手を顔の前で振るメリル。
「それより〜、毎週〜、ご苦労さまです〜」
「いえ。これも、教会騎士見習いの努めです」
ジョセフはメリルに会釈し、二人を礼拝堂に促した。
礼拝堂の中にも多くの人がいた。
熱心な信者が多いのか、前列の席はすでに満員となっていた。
「このあたりに〜、座りましょうか〜」
「ういす」
入口近くの後ろから三列目あたりで空席を見つける。
「すみません〜。すこし〜、ズレてもらえませんか〜」
メリルは手前に座っていた黒髪の少女に尋ねた。
「はい。・・・あ!?」
「よう!スミレじゃん」
黒髪の少女、スミレ・スタークラウドはバベルの顔を見て、驚いた。
「お、お前、なぜここに?」
バベルが、この場に似つかわしくないと心の底から感じているスミレ。
「回復魔法を覚えるためさ」
「は!?」
バベルはスミレの疑問をよそに、ズカズカとスミレが開けてくれたスペースに座る。
メリルもバベルも隣に座る。
スミレはバベルが隣に座り、気が気でなかった。
「お前も毎週来てるのか?」
「あ、ああ。私も剣士の端くれ、聖剣に祈りを捧げたいと思うは当然のことだろう」
「ふ〜ん」
バベルは周りをキョロキョロ見回す。
「それにしても〜、今日は〜、いつも以上に〜、人がいますね〜」
「あぁ、それは・・・」
メリルの疑問に答えるスミレ。
「今日は、大司教様が来られるからですよ」
時間は朝9時を回った。
礼拝堂に鐘の音が響き、礼拝堂内で私語をするものいなくなり、静けさが広がる。
「お、始まるのかな」
「「しっ」」
連れの二人に窘められるバベル。
前方の祭壇に豪華な身なりをした小太りな男が現れた。
その姿に、礼拝堂内の信者は「おぉ」と歓声の声を上げた。
「あの人は?」
「大司教のクレイド・ゴマーズ様だ。年に数年、この教会にも来られる」
小太り、クレイドは二人の従者を引き連れて、中央に立ち、歓声を挙げる信者たちを制した。
静けさが戻り、小太りの声が響く。
「暗き夜に赤き太陽が登り、母なる海から命が芽吹く。あふれる草木に人々が宿り、富を巡り争いが始まる。世界が静けさを手に入れ、聖剣は眠り、また夜がくる」
その祝詞のような言葉が響いている最中は、皆黙祷を捧げていた。
「え、なにこれ、なにこれ」
バベルを除いて、
「静かに。私の真似をしろ」
小声で注意するスミレ。
「よし来た」
いつの間にか、解説役はスミレに交代していた。
現に、メリルは口を挟まなかった。
その後は、何やら滔々と大司教からのありがたい言葉が続く。
ある者は真剣にまっすぐと正面を見つめて聞き入り、ある者は両手を組んで祈りを捧げていた。
この大聖堂の中、全員が大司教の言葉を真剣に受け止めていた。
バベルも。
(これが終われば、俺もついに回復術師の仲間入りか〜)
と、あくまで自分本位なことを考えていた。
偉い人の言葉だ。
これらにきっと、ヒントが有るはずだ。
バベルは一字一句聞き逃すまいと、両耳に集中していた。
(今のところ、よくわからん話だけど)
「・・・・・・」
(こいつ、意外と信心深いんだな・・・)
そんな真剣な眼差しをしているバベルを、やや好意的に見つめるスミレ。
当の本人は、必要のないと判断した話は次々に記憶からデリートしていたのだが。
「それでは、最後に世界に安寧を与えてくださる『聖剣』に感謝を込めて。祈りを!」
ゴマーズの言葉に続き、信者一同は何度めかの黙祷を始めた。
メリルはこの時間が嫌だった。
正確には、この時間、この場所、『この状況』だった。
聖剣を信じ、平和をもたらしてくれるものだと教わってきた。
そのことを疑ったことはない。
この剣星礼拝にも欠かさず参加している。
聖剣には、敬意を持っていた。
が、
「!!」
来た。
メリルは密かに眉を歪めたが、はっきりとその嫌悪を示さなかった。
自身の『体』にまとわりつく感触の正体はわかっている。
だからこそ耐えなければならなかった。
時間が経てば、すぐに終わる。
そう思い、体の底から湧き上がる屈辱と羞恥を飲みこもうとした。
が!
「なんで、尻触ってんすか?」
この主、バベルの方を、触られていたメリルと『触っていた』ゴマーズは目を見開いて見た。
「それって、なんか回復魔法が上達できるコツとかっすか?」
「な、んが…!?」
「バ、バベルくん〜!?」
「お、おい!なにを言い出すんだ!?」
バベルの言葉に声を失うゴマーズ。
メリルも驚きのあまり、珍しく声が上ずっていた。
隣にいたスミレもあまりにも場違いな発言にバベルを制しようとする。
その四人を中心に何事かと、周りの人間も騒ぎ出した。
「き、君は、なにを言っているのかな・・・」
明らかにうろたえるゴマーズ。
「え?いや、さっき先生の尻を触っていたじゃないですか?なんで触っていたのかな〜って」
改めて指摘されて、メリルも赤面するしかなかった。
「ご、誤解だ!!ただ私は、この女性の姿勢を正して差し上げてただけだ」
「またまた〜。念入りに触ってたじゃないですか。何か秘密があるんでしょ?」
「いい加減にしたまえ!神聖なる教会の大聖堂で、デマカセを言うんじゃない!」
明らかに『やっていた』ゴマーズは、顔を赤くし否定をするが、
「なんで、怒ってるんですか?この剣聖礼拝に必要なことなんでしょ?」
キョトンとして尋ねるバベル。
「あの人とあの人、え~とその隣の人もか」
おもむろにバベルは前方の女性を数名を指差す。
いずれの女性も騒ぎが気になり、バベル達の方を見ていたが、バベルに指名されるとバツが悪そうに目を逸らした。
「あの人達の尻も触ってたじゃないですか」
バベルの爆弾発言に再び周囲がざわついた。
「ま、まさか大司教様が?」
「そんな猥褻行為を・・・」
「汚らわしい・・・」
真偽を確かめる前だが、周囲のざわつきの声が広がっていく。
「バベル、本当なのか?」
「うん」
バベルはスミレの問いに答える。
「ずっと目を開けてたから」
「黙祷しろよ!」
こいつ本気で回復術師になりたいのかと、疑問に思うスミレだった。
続く




