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新しい実習〜新しい交友

ゾロモン家が襲撃されたという噂は、たちまち消えてしまった。

拉致され街中で目撃されたのは、そっくりさんだったということとなり、人々の興味な失われていった。

冒険者ギルドでの出来事も、副ギルド長の『不正』に抗議に来た勇気ある若者ということとなり、バーレイ副ギルド長はそれがきっかけとなり、副ギルド長の職を解かれることとなった。

そのおかげで、現在冒険者ギルドは統括するものがいなく、混乱中であった。

噂の真偽を確かめる暇などなかった。


ワインズとのひと悶着も落ち着いて、いつもの日々が戻ってきた。

そんな中、バベルは新たな課題に取り組んでいた。


「それでは〜、今月から〜、定期的に〜、この聖剣教会の〜、治療院で〜、治療の〜、お手伝いを〜、してもらいます〜」


担任のメリルに案内されたリリクルー4の生徒たち。

そこは、聖剣教会の治療院だった。

聖剣教会。この世界では三大勢力の一つとされていた。

世界各国にその支部が有り、この王都の支部は市街地の中心にあった。


今回の、というより、今回からの実習はここの施設の一つである治療院で回復魔法の実技訓練のためのものだった。

バベルたちは、数人のグループに分けられ、それぞれの処置室にてそれぞれの回復術師ヒーラーの手伝いをしていた。

「なんか、こうして話すのって、初めてだよな?よろしくな、ミロス」

「あ、あぁ・・・、ゴホ!よ、よろしく・・・」

バベルは同じグループになった小柄で病弱な少年、ミロス・リグレッターに話しかけていた。

ミロスは若干、気まずそうにして答える。

室内でも大きなフードを被り、マスクを被っているので素顔がほとんど見えなかった。

バベルたちのグループは、バベル、ミロス、バットの男子三人組だった。

「・・・おまえさ、フードくらい取ったら?」

バットはミロスの顔を見たことがなかった。いい機会だし、その顔を確認したかった。が、

「あ・・・、その、ごめん・・・。僕、肌、弱いから、ゴホゴホ」

にべもなく断られてしまった。

その頑なな態度に疑いの眼差しを送るバット。

「まーまー、いいじゃないか。顔の一つや二つ。人間は、顔だけで判断するものじゃないから、おいおいでいいじゃないか。俺の兄ちゃんもフードで顔を隠しているぜ。素顔も見たことないし」

バベルの脳天気な意見が炸裂する。

ミロスはフードを整えて、更に顔を隠し、「ハハハ・・・」と乾いた笑いを発し、

バットは「・・・顔、か・・・」と珍しく苦々しい表情を見せ、そっぽを向いた。

三人の間に微妙な空気が流れたところで、三人の指導員のヒーラーがやってきた。


「ちょっと、散歩しといで」


実習が始まって十分、指導員ヒーラーはこの言葉を発した。

他愛もない雑談をしていた中からこんな言葉が飛び出してきたからだ。

「俺、昔、回復魔法の練習をカエルでしてたら、カエルが爆発したんですけど、人間もそうなる可能性はないですよね?」

万が一の可能性を考えて、指導員はバベルを追い出した。

バベルは、

「まだ、手伝える段階じゃないってことか、しょうがないしょうがない」

一応、自身の力量は受容しているため指導員の判断は納得し、教会内をブラブラしていた。

「しかし、広い教会だな・・・。とりあえず、他のグループの様子でも見に行くか。な?」

同意を求めた視線の先には、

「ごほ・・・、うん・・・」

同じく追い出されたミロスがいた。

彼の場合、バベルの発言の後に何事か耳打ちしていた。

その後に、指導員は件の言葉を発した。

ミロスにとって、それはあまり知られたくないことのようだった。

が、

「なあ、『呪い』って、何の呪い?」

「!!?き、聞こえてたの・・・?」

「うん」

バベルの耳は良かった。

「・・・・・・えっと・・・」

いい淀むミロス。それはそうだ。

知られたくないからこそ、彼は指導員に耳打ちをしたのだ。

「ご、ごめん・・・、言えない・・・」

「じゃあ、いつもの咳も振りか?」

「ま、まあね・・・」

「あんまり、しすぎるなよ?ほんとに具合悪くなるらしいからな」

「そ、そうだね・・・」

バベルはそれ以降、特に呪いについての言及はなかった。

ミロスはそんな彼を不思議そうに思いながらともに教会内を歩いていった。


「このスライムから抽出された軟膏があれば、こんな切り傷なんか一発!どう!?試してみない!?」

「い、いや、普通の“ヒール”で・・・」

「もったいないわよ!これはチャンスなのよ?これを体験できるかできないかで今後の人生が変わると言っても過言じゃないわ!!」

アンヴィアンは手に持った容器を持ち、鼻息荒くけが人に迫っていた。


「何やってんだよ?」


そんな様子を目の当たりをしたバベルは素直に感想を述べた。

「あれ?あんたたちこそ、何やってんのよ?サボり?良くないわよ」

「失礼な。追い出されただけだよ」

「なお良くないわね」

「だから、お前の方は何やってんだよ?」

「営業よ」

「実習しろよ」

バベルとアンヴィアンが言い合いをしているうちに、

「終わりましたよ」

と、セリーヌの柔らかい声が聞こえてきた。

二人が言い合いをしているうちに手早く治療を終えていたのだ。

治療をしてもらった患者はそそくさと退室していった。

「あ!!ちょっと、セリーヌ!後少しで顧客を獲得できたのに〜〜〜!!」

「もう・・・、いきなりスライムからできた薬なんて、使うわけ無いでしょ」

「だから、その固定観念を壊すことが、ビジネスチャンスを生むわけで〜〜〜〜〜・・・」

「で、本当にどうしたの二人とも?」

そばでキーキー言っているアンヴィアンをたしなめつつ、バベルとミロスに尋ねる。

「全てはカエル爆発から始まっている・・・」

「諸事情で・・・」

「何にも、わからないな・・・」

まあ、何にせよ戦力外通告を受けたのは間違いないのだろうと、セリーヌは推測する。

「それで、どうするの?私達のグループを見学してく?それともアンちゃんの営業を阻止する?」

「いや、ミリーたちのグループも見たら、自分らのところに戻るわ。バットを置いて来たし」

一応、自分たちが実習の足を引っ張っている自覚はあるので、あんまりブラブラするのも悪いので差し入れの一つでも調達しようとは思っていた。

「・・・・・・あれ、ミロスくん?」

「え・・・、なに・・・?」

二人の会話を聞いていたミロスにセリーヌがある違和感を感じていた。

「なんだか、今日は体調良さそうだね?」

「え?」

前回の実習では、元々セリーヌとミロスは本来チームを組む予定だったのだ。

なので、交流もそこそこあったのだが、その時の印象が違っていたのだ。

「やっぱり、咳はしないほうがいいって。余計気になるもん」

「・・・みたいだね」

「・・・!!?」

何かしら二人の間にある雰囲気に、セリーヌは電撃が走った。


セリーヌ・アンヴィアン組と分かれると、もう一つのチームのもとに向かった。

「おぉ〜、忙しそうだな〜」

処置室にはたくさんのけが人が順番待ちをしていた。

けが人たちを手早くヒールで治療していくのは、クラスでの成績1位、2位のレイニーとハンナだった。

なんとも涼しい顔をして、処置を進めていく。

なんで、リリクルー4にいるんだ?

と、思わせるくらいの優秀さだった。

バベルはふと二人と目が会い、レイニーはニッコリと微笑み、ハンナは訝しげにバベルを見ていた。

「・・・まじで、ずっとここで見学してようかな〜」

二人の手際があまりに見事だったのでそんなふうに思っていたら、


「いつまで待たせてんだよ!!早く治療しろよ!!」


部屋の片隅で怒鳴られているミリーがいた。

「順番をお待ちください」

どうじている様子はなく、淡々とした口調でなだめていたが、

「舐めてんのか、小娘が!!」

冷たい口調が男をさらに怒らせた。

「どうした?ミリー」

バベルが遠慮なく声をかけると、

「あぁ!?なんだてめえは・・・むぐ!?」

「ちょっと、黙ってて」

バベルは男の口を、というか顔面を掴み声を封じる。

男はムー!ムー!と抗議しようとするが、声が出ず叶わない。

「で?ミリーは、治療に加わらないのか?」

「・・・最初はそうしていたわ」

でも、と続く話はこうだった。

魔力が低いミリーでは、ヒールだけでの治療は効率が悪かった。

そこで、自身の『医学』の知識を用いて、足りない部分を補おうと考えて実行していた。

しかし、結局ヒールに比べ即効性もなく、治療も中途半端とされ、また二人に比べて処置が遅い。挙げ句、

「とろとろしてないで、魔法を使えよ!!」

とまで言われ、進んで列の整理を買ってでて、絡まれてるところだった。

「まったく、贅沢は奴らだな。治療ができるなら、何でもいいだろうに」

「いや、そこまで極端なことは考えていないのだけども・・・」

とはいえ、ミリーは医学に興味を持ってくれているバベルの言葉は嬉しかったりする。

「だったらさ・・・、おい、おっさん」

「ブハ!はぁ、はぁ、このガキ・・・!」

バベルは掴んでいた手を離し、恫喝していたけが人を解放する。

「あんた、どこが悪いの?」

「見てわかんねぇのか!?」

男は、赤黒く変色している右腕を見せる。

「・・・俺にわかるのは、痛みを取る一番の方法は、その腕を『切り落とす』ということだけだな」

冷たく言い放ったバベルに男は怯む。

「やめなさい」

ミリーはバベルの無意識の殺意を嗜める。

一緒に働いていることもあり、少しバベルのことに慣れ始めていた。

ミリーは冷静に男の腕を診ていた。

「・・・火傷ですね。見るに火属性のモンスターの“火炎吐息ブレス”の痕かと」

「そうだよ!だから、この火傷をどうにかしてくれよ!」

受けたばかりなのか、その火傷は生々しくただれていた。

「火傷の応急処置はどうすればいいんだ?」

「そうね・・・。患部を冷やすと痛みは緩和されるけど・・・」

と、ミリーが呟いた。

痛みを訴える患者を前にして、冷静というかいつも通りの二人。いいのか、悪いのか。

ミリーの呟きに呼応するようにあるものが投げ渡された。

氷が入った氷嚢だった。

ミリーは氷が飛んできた方向を見ると、少女が微笑んでいた。

レイニーだった。

おそらくレイニーが氷嚢を渡してくれたのだろうが、ミリーは複雑な顔をしてレイニーから目を逸らした。

ミリーは氷嚢を患部に当てて、手早く処置をする。

男も痛みを和らいだことに納得し、治療の順番を待った。

「よかったな。氷をもらえて」

バベルはミリーに声をかけるが、

「あの人、苦手だわ・・・」

眉間にシワを寄せて、レイニーを横目で見る。

先日、自分や叔父の店で横暴な振る舞いをしたワインズの傍らにいて、その様子を傍観していた。

自分や叔父に全く興味がないかのように。

しかも、ワインズの件が片付いたら、何事もなかったようにクラスでいつものように振る舞っていた。

ミリーにも、朗らかに「おはよう」と挨拶するほどだ。

何を考えているかわからない。故に、ミリーはレイニーを忌避するようになった。

「じゃあ、ぼちぼち戻るわ。もうすぐ昼休憩だし」

「あぁ、うん。それじゃ」

「そうだ、ミリー」

バベルはミロスとともに、退出する前にミリーに声をかけた。

「もう少し、大きな声を出してみろよ。お前の『イガク』はすごいんだから。世界の常識は、態度と声がでかいヤツが決めてるって、俺の兄ちゃんが言ってたぞ」

「・・・フッ。善処するわ」

バベルの言葉に不覚にも吹き出し、二人を見送った。


バベルとミロスは、教会にある食堂で昼飯の弁当を調達すると、自分たちがあてがわれた処置室に戻るところだった。

「カレーをお弁当にしてもらったの?」

「うん。好きだし」

バベルのカレー弁当を指摘しながら、二人が通りがかった場所では、激しい剣戟の音が響いていた。

「・・・あ」

「何だここ、うるせえな」

「修練院だよ・・・」

ミロスがバベルの疑問に答える。

聖剣教会には、大まかに二つの施設があった。

大聖堂を含み、すべての民に癒やすための『治療院』。

教会を守護する役目を持つ教会騎士が訓練する『修練院』。

現在二人は修練院に迷い込んでしまったらしい。

とはいえ、治療院の場所はわかっているので、別に困っていない。

二人は、訓練をしている教会騎士たちを尻目に、邪魔にならないように通り抜けようとしていると、

「待て」

声をかけられる二人。

声の主は、バベルたちと同年代の少年だった。

金髪の癖っ毛、整った顔立ち、腰にはダガーを携えている。

「どちらでも構わない。昼食前にもう一汗かきたいんだ。組み手の相手をしてくれないか?」

「「??」」

「?どうした?君らも『教会騎士見習い』だろ?」

「え?違うけど・・・」

「・・・あ!」

少年の言葉を否定したバベルだが、ミロスはなにかに気づいた。

「そうか、邪魔をしたな。強そうに見えたものだから、勘違いしてしまった」

少年はそれだけ告げると踵を返した。

「なんだったんだ?」

「彼を知らないの?」

「どちらさん?」

ミロスは答える。

「彼は、ジョセフ・ショットエッジ。ダリアス1の生徒だよ」

「同級生なのか?」

「そう、しかも『教会騎士見習い』として期待され、魔法と戦闘において学年1と評されているよ」

「へ〜」

興味があるのかないのか。

気の抜けた相槌で返すバベル。

そうして、二人は処置室に戻り、一人で頑張っていたバットにお弁当を渡し、三人で食した。

そして、大して役に立つこともなく、バベルはその1日を終えた。


「なんなのよ!その世界は・・・!?お、男同士でって・・・!」

「ふふ、固定観念は壊れましたか?」

「ねえ?大きな声のアドバイスはいいとして、態度は?私って、態度でかいのかしら?」

「いいか!二度と、カレーを弁当にするなよ!わかったか!?」


実習を終えて、リリクルー4の面々は揃って帰宅をしていた。

バベルもその一団に加わっていた。

「あ、バベルくん〜」

「はい?」

メリルに呼び止められる。

「補習です〜」

「え?急に?」

俺、なにかしたっけ?

バベルの頭はそんな疑問で溢れた。


続く

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