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ワインズの計算違い〜トラウマ・スタンプラリー(チェックポイントは3つ)

「ははっ!」

「ユ、ユリウス様・・・!?」

「おっと・・・」

バベルの妙技でワインズの頭が地面に突き刺さる様子を見て、思わず吹き出してしまった。

ユリウスは口を抑えるが、笑いが込み上げてきてしまう。

しかし、そんなユリウスとは対象的に会場は静まり返ってしまった。

今、目の前の光景は筆舌しがたいものなのだから。


侯爵家の跡取りが公衆の面前で、半裸にされて敗北。


この結果が何をもたらすのか。

それがわからない貴族はいなかった。


「勝者、バベル・ロクハラ!!」

審判のイーゼル教諭が勝ち名乗りを上げてようやく、観客達も事態を飲み込み、ざわつき始めた。

一方、バベルは白目を向いて気絶しているワインズを、じーっと見つめていた。

呼吸しているし、動いている(痙攣している)し、生きている。

打撃は拳ではなく平手にこだわり、ダメージの分散。

体はあくまで脱力し、強さに拘らずに只々なんとなくを意識する。

そのうえで、インパクトの直前では攻撃対象に防御魔法と身体強化魔法を掛けて一時的に防御力を上げてから、攻撃を当てる徹底ぶり。

バベルは自身の現時点で持てるすべての手加減スキルを駆使して戦いに挑んだ。

結果、殺さずにワインズをぶちのめすというバベルの目的は果たした。

(あ〜、しんどかったな・・・)

バベルは幼少の頃から、触れるものすべてを絶命させる力を持っていた。家族を除いて。

敷地内で害を成すと見られる生物は種族を問わず処分してきた。

そんな彼にとって、殺さずに戦うということは至難の業だった。

なので、バベルの感想としては、

(只々、面倒くさかったな・・・。正直、普通に殺すことが出来たら簡単だったんだけど、それはしたくなかったからな。よくよく考えたら、戦う必要はあったかな?ぶちのめしたかったけど、別の方法があったんじゃなかろうか?『ぶちのめす』という、定義を今一度考えてみよう)

と、特に勝利への喜びなどはなかった。

そこに、バットとミリーが駆け寄ってきた。

「お、おまえ、やっちまったな・・・」

「うん」

「いや、うんて・・・」

無様な姿をいまだ晒しているワインズ。

バットはこれから起こるであろう様々なトラブルを思い浮かべながら顔を青ざめていた。

それは、ミリーも同じだった。

冷や汗を流していた。

平民の身分ではあるが、ゾロモン家の影響を知らないわけではない。

今後、バベルの身にどんな災が振りかかろうとしてるのか、想像できないわけではない。

「ミリー」

「え?」

「どうだった?」

そんな心配をよそにバベルはミリーに尋ねた。

「どうって・・・?」

決闘前の会話を思い出した。

ぶちのめしたあとに、きもちをきかせて。

バベルに問われて、改めてこの結果を咀嚼した。

ミリーには、ある感情が湧いていた。

「スッキリした?」

バベルに問われて、ミリーの回答はこうだった。

「す、少しだけ・・・」

バベルの『ネイキッド・クラウン・バスター』なる珍妙な技が決まった瞬間、柄にもなく拳を強く握り、快感に震えたことは事実だった。

ミリー自身も、ワインズの所業の被害にあったことも有り、多少溜飲が下がる思いだった。

「じゃあ、いっか!」

バベルもあまり楽しい戦いではなかった、ミリーが少しでもスッキリしてくたのならば良しとした。

満面な笑顔を見せられて、ミリーも複雑な思いだった。

そうこうしているうちに、

「ぐ、ぐ、お、おい・・・」

半裸の男が言葉を発した。ワインズだ。

「喋った・・・」

バットが驚く。

「そりゃ、喋るよ。手加減したし」

一同は、ワインズに注目する。

「ふ、ふざけたことしてくれたな・・・。この、俺に、こんな恥をかかせておいて、ただで済むと思うなよ・・・」

ワインズの言葉に青ざめる一同と観客達。

ワインズは、戦いの中でバベルの異常さを悟った。もう二度と、戦いたくない。

しかし、自分にメンツがある。

それに、強いとはいえ、ゾロモン家の権力と人脈を駆使すれば、雪辱をはらすことができると考えていた。

「この、学園、いや、この国からも追い出してやる・・・。そうだ、あのボロい店も潰してやる・・・。覚悟しておけよ・・・」

「なんか、つい最近、同じようなことを言われたな」

バベルは周囲の雰囲気を一切解していなかった。

ちなみにワインズの言葉についてバベルは青ざめていなかった。

「ゾ、ゾロモン家を敵に回すとどうなるか・・・」

不敵に笑うワインズ。

「敵に回すと、俺が学園にいられなくなったり、リストン薬店がなくなるってことか。それは困る」

「後悔しても遅い・・・!」

「じゃあ、そうならないようにゾロモン家にお願いしに行くか」

「・・・へ?」

ワインズは首根っこを捕まれ、強制的に起こされる。


「お前んちどこ?」


ワインズは勘違いをしていた。

自分の無様を敗北を大勢の前で晒してしまった。

このことが、自分の人生において最大の汚点になったということ。

それは、間違いだった。

なぜなら、この敗北はただの序章に過ぎなかった。

これから始まる、トラウマ確定の恐怖の“スタンプラリー”の。


ゾロモン家本邸にて、寛いでいるのは当主ワイルド・ゾロモン。

ワインズの父だった。

時間は夕暮れ時、この時間に自室でワインを飲むのが習慣だった。


ドゴォ!!


「!!何事だ!?」

屋敷に響く破壊音。

程なくして、自室の扉が開かれる。

「こんばんは。失礼します」

「な!?」

ワイルドは言葉を失った。

入室してきたのは、見慣れない赤毛の少年。いきなり事前の約束もせずに侯爵を訪ねるなど非常識な男だ。

・・・なんて、思っているわけではなかった。

「ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、・・・」

「・・・パパ、た、助けて・・・」

「ワインズ!?」

少年の右手に掴まれている最愛の息子の姿に唖然としていた。

なぜ、ボロボロなのか?なぜ、怯えているのか?なぜ、この少年に捕まっているのか?なぜ、全裸なのか?

次々と出てくる、疑問が彼の頭を支配していく。

ワインズのパンツはここに来るまでに、どっか行った。

理由も過程も分からないが、ワイルドの疑問が怒りに変わるのに時間はかからなかった。

「はじめまして。私は、バベル・ロクハラと言います」

「貴様何者だぁ!?」

「あ、ですから、バベルです。不躾な訪問、大変失礼いたしました。実は、お願いしたいことがあってまいりました」

「息子を離せぇ!!」

「そうです、侯爵の御子息のワインズくんがですね、私を退学させようと言い出したんですよ」

「衛兵はどうした!?早く、こいつを取り抑えろ!!」

「しかも、私のバイト先すら潰そうとするんですよ」

「ええい、我慢ならん!!儂が直々に排除してやる!!」

「私は、退学もバイト先がなくなることも望んでおりません。なので、侯爵の方からワインズくんに説得をしていただけないでしょうか?」

「貴様、そこを動くな!!」


「駄目だ。話聞いてねぇや」


ワイルドが杖をバベルに向けて魔法を繰り出そうとしていたので、それを平手打ちで制する。

「ブゴォ!!」

手加減バッチリの平手はワイルドを脳震盪に起こす程度に留めた。

「パ、パパァ!!」

侯爵に危害を与えるということは、自分のような跡取りに手を出すとは事情が全く違う。

ワインズはその事実を知っているがゆえに、更にバベルの正気を疑った。

「き、貴様・・・、こんなことをして、ただで済むと・・・」

ワイルドは近づいてくるバベルを牽制しようとするが、お構いなし。

二発、三発と平手打ちが続く。

「こっちは、話を聞いてほしいだけなんだよ。聞く気が出来たら、手を上げて」

痛かったら、手を上げてくださいの感じで平手打ちを続けるバベル。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・」

バシンバシンと乾いた音が続く中、ワインズはかつてない感情が込み上げてきた。


皆さんは見たことがあるだろうか?

自分の父親が、赤の他人に叩かれているところを。

何度も何度も叩かれているところを。


ワインズにとって、父は偉大な男だった。

尊敬、憧れ、目標。

身近にして、一番遠い存在。父のような貴族に成ることがワインズの目下の目標だった。

しかし、今それが蹂躙されていた。

しかも、自分と同じ年齢の少年による所業という事実が更に精神的に来るものがあった。

繰り返される平手にどんどん腫れ上がる頬と、虚ろになっていく瞳。

威厳のある父が、見るも無惨な姿になっていく。

今は、戦争中だったか?いや、ただの平日だ。

だんだん混乱してきたのか、ワインズはこの胸糞光景をみて、なぜ父は叩かれているのか解らなくなった。

ワイルドは痛みに耐えながら、ゆっくりと手を上げた。

そこで、律儀に攻撃を辞めるバベル。

「どうぞ」

「・・・ふぅ、ふぅ・・・、儂に・・・手を出すことがどういうことか、わかっていないな・・・」

「?」

聞きたい言葉ではなかったが、とりあえず聞くことにした。

「儂に・・・、こんなことをして、ただで済むと・・・」

「またかよ・・・。じゃあ、その俺をただで済まさないやつのところに連れてけ」

「・・・へ?」

同時にバベルはワイルドの首根っこを掴んだ。


「こんにちは」

バベルの次の目的地は、すっかりお馴染みの冒険者ギルドだった。

「あ、バベルくん。いらっしゃ・・・・・・、ええええええええ!?」

サーラはバベルの連れられてきた男を見て青ざめた。

ワイルド・ゾロモン侯爵。

自分がおいそれと合うことが出来ない身分の男が、ボロボロの姿で連れ回されている。

何がどうなれば、こうなるのか?

何をどうすれば、こんな事ができるのか?

すっかり顔なじみのバベルを見て絶句していた。

「・・・ぐ、セ、セルドア!助けてくれ!!」

バベルに拘束されたまま、ワイルドは親友の名を読んだ。

助けの声を聞いて、程なく副ギルド長であるセルドア・バーレイが姿を表した。

「何の騒ぎですか!?」

セルドアは、騒然としているロビーを見ると信じられない光景を目の当たりにした。

「ワ、ワイルド!?」

三十年来の親友が見るも無惨な姿に戦慄した。

「あの人?」

「そ、そうだ!!ここの副ギルド長だ!あいつの一声でこの街の冒険者達は、お前に牙を向くだろう!」

バベルはワイルドに確認を取っている間に、

「な、何をしている!早く、侯爵を助けないか!」

ロビー内で、遠巻きで見ている冒険者達にセルドアは命令をする。

冒険者達も事態が飲み込めなくて、只々戸惑うだけだった。

そうこうしているうちに、バベルはセルドアのそばまで一気に距離を詰めた。

「あの、この人がですね、私に迷惑を掛けるっていうんですよ」

掴んでいるワイルドをブラブラさせる。

不敬罪にも程がある。フケホドだ。

「説得してほしいんですけど」

「理由が分からないことを言うな!!何をしている、早くこいつを捉えろ!!」

侯爵救出から、バベル捕縛にまでレベルアップした。

「俺は、あんたに用があるの」

「うご!?」

バベルは空いている手の方でセルドアの顔面を掴む。

一度掴んだら離さない“オリハルコン・クロー”だ。

明らかな敵対行動にセルドアを含め、ロビー内の人物は皆息を呑む。

そして、ギリギリとセルドアの顔面を締め上げた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

声にならない悲鳴が響く。

「俺の話を聞けるようになったら、手を上げてくださいね」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

なんでこんな事ができるのだろう。

ワイルドはいつの間にか自由の身になっているが、未だその場から動けずにいた。


皆さんは見たことがあるだろうか?

自分の親友が、顔面を締め上げられているところを。

ギリギリと締め上げているところを。


痛みに耐えながら、セルドアは恐る恐ると手を挙げる。

「ん?この人のことを、説得してくれるの?」

「ぐ、ぐ、ぐ、私にこんなことをして、ただで済むと・・・」

さんざん聞いた台詞にバベルも辟易していた。

今日中に終わらせたいから。

「はいはい。で、あんたのバックには誰がいるの?」

要領を得たバベルはセルドアに問う。

「聞いて驚け・・・」

セルドアの口から出てきた名前に全員が青ざめた。

「じゃあ、その人のところまで案内して」

無論、バベルは除かれていた。


続く

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