迫る決闘〜沸き立つ学園
「『才能』というやつは、過ぎると人を腐らせてしまうものさ。何もかもがうまく行き、思い通りにすることができてしまう。『なってしまう』じゃない、『することができる』ということが問題なのさ。例え、運命が僕に立ちふさがったとしても、『才能』がそれすらも克服してしまう。僕は思い浮かべたことを実現する能力がある。となると、何が起こると思う?『退屈』さ。常に何かを求めている。刺激をね」
「・・・君達には分かってもらえると思うが・・・。どうだい、レイニー、ユリウス」
己の持論を目の前の二人に披露するワインズ。
レイニーは「そうですね」と一言発するのみで紅茶を口にする。
ユリウスはなんと言っていいかわからないと言った顔だ。
しかし、目の前の男に『才能』という言葉がふさわしいということは理解していた。
ユリウスはワインズとレイニーがテラスでティータイムを楽しんでいるところにお邪魔している形だった。
なぜ、彼女がワインズとともに行動しているのか。気になることは多いが、まずは言って置かなければならないことがある。
「ワインズさん。今日の決闘を考え直すことはできませんか?」
もちろん、バベルとの決闘のことだ。
ワインズは手際よく手配し、今日の放課後、学園内の『闘技場』にて決闘することになった。
学園内の闘技場は、格闘大会や魔術披露会などのイベントに使用する施設だった。
一生徒の私的使用に許可が降りることはまずないのだが、そこはゾロモン家の威光が物を言わせたのだろう。
「これは、僕とバベルくんの問題さ。君の干渉は受けないよ」
にべもなく断られる。ユリウスも予想はしていたが。
「ならば、彼のほうが辞退すれば・・・」
「ユリウス」
ワインズはユリウスの言葉を制する。
「何をそんなに危惧している。もしかして、彼の身を心配しているのかい?一度だけ実習をともにしただけなのに。随分と友情に厚い男だね君は。尊敬に値するよ」
小馬鹿にしたように一笑するワインズ。
ユリウスはそんな態度に気にすることなく続ける。
「これは、名誉の問題です。侯爵家の後継ぎであり、栄誉あるこの学園のデルフィンの筆頭生徒であるワインズさんが、最底辺の生徒であるバベルと決闘すること自体が、誇りを傷つけることかと」
「なんだ、そんなことか。知らないのかい?彼、強いんだよ。僕がこの間、苦労してメイプルリーフコングを捕獲したのは知っているね。フフ、あれも刺激的だったな。なかなか手強かったんだけど、バベルくんもメイプルリーフコングを討伐したんだよ。『たまたま』そこにいたアレンくんたちと協力してね」
先日の件を、『アレンから』報告されたことを話す。
「この時点で、彼も相当の実力があると見ても良い。それに、そんな彼がリリクルー4の生徒として僕と名勝負を繰り広げれば、最低クラスのリリクルー4の評判も上がり、学園全体の評価が底上げされると思わないかい?教師の方々もとても賛成してくれていたよ」
すでに教師陣も丸め込んでいるらしく、ユリウスもこれ以上の意見は無駄だと判断した。
実力。
ユリウスはワインズの強さを延長線上の強さだと思っている。才能の差はあるが、決して己が到達できないとは思っていない。魔術師として常識的な天才。
対して、バベルの強さは己の常識の範疇ではなかった。実際に戦ったところは見ては居ないが、先の実習で高ランクのモンスターを瞬殺したとのこと。しかし、その事実を差し引いてもなにか彼には得体のしれないものを感じていた。
血統?思想?生い立ち?
なんにせよ、バベルのことを詳しく知らずに関わるのは危険だと判断してのことだったが・・・、
「これも『貴族』としての役目さ。貴族としての権威を世に示していかなければならないのさ」
ワインズのこの思考は『貴族屋』そのものだった。
ユリウスは紅茶を飲まずにその場を去った。
「決闘とはどういうことだ!?」
バベルが教室でぼーっとしていたところ、ロゼル1のスミレがやってきた。実習以来だった。
「戦うということさ」
「そんなことは聞いていない!」
スミレはバンとバベルの机を叩く。
「問題なのは、あの『貴族屋』のゾロモンと、なぜ決闘することになったのかと聞いているんだ」
『貴族屋』とは、『通常の』貴族とは違い、選民思想が強く、平民に対して不必要に権力を振りかざし圧政を強いるものの総称である。現在では、心・技・体・知・財の5つを兼ね添えて、人格的にも申し分ないものが爵位を賜るの通常だが、近年では、その精神を失い、己の私利私欲のためだけに領地を統治するものが増加していた。
「それこそ、あの悪帝・ユーノビアス時代の貴族のような思想を持ったやつだ!関わったところでろくなことにならない!今すぐ、辞めるべきだ!」
「そんなこと言われても、約束したからなぁ」
ことの重大さの受け止め方にかなり温度差があった。
「そもそもなぜ、決闘することになったのだ!?」
「ぶん殴りたくなったからかな」
「浅い理由だな!」
「俺にとっては、大事なことなんだよ」
確かに事の発端を知らないものからしたら、しょうもないことで決闘しようとしていると思うだろう。
と、バベルとスミレがギャーギャー騒いでいるのを尻目に、ミリーは少女の前に立った。
「レイニーさん。ちょっと、良いかしら」
「・・・」
レイニーは返事をすることなく、ミリーを見つめた。
「あの、どういうことか説明してもらえるかしら」
レイニーの瞳は氷のように冷たかった。
その温度にミリーは寒気がした。
クラス委員として、彼女はとても人当たりの良い生徒だったが、今は見る影もない。
考えてみれば、あの実習以来だと記憶していた。
ワインズと同じグループになったときからだった。
「・・・そんな義務はないと思うわ」
なぜ、ワインズと行動をともにしていたのか、確認したかったのだが、
「・・・ごめんなさい。今日は、授業は自主休講させてもらうから」
レイニーはそう言い残し教室を出ていった。
その後を追っていくハンナ。その際、ミリーに片手で「すまん」と仕草をした。
そして、同じ教室内で悩める生徒がまた一人。
(止めなくて良いんだよねぇ。『あいつ』も言ってたしなぁ・・・)
バットは昨夜の依頼主との会話を思い出した。
「ば〜か。あいつが貴族屋如きに遅れを取るわけ無いだろ。こっちも忙しいんだ。勝敗の報告はいらない。『結果的』に何が起こったのかだけを教えろ。手に負えないときにまた連絡しろ」
「は、はい・・・」
言い方は高圧的だったが、少し優しく感じた。
同情されたように。
「あ〜ぁ、気持ち的にはゾロモンを応援したいとこなんだけどな」
と、一人言が漏れた。
時間は放課後。
注目の一戦を直前にして、学園の空気が更に沸き立っていた。
学園中の生徒たちが闘技場に集まっていく。
純粋に興味をそそられて見に来る者。
侯爵家主催のイベントということで参加せざる得ない者。
『天才』と言われる生徒の実力を確かめに来た者。
胸騒ぎがして来た者。と、様々だ。
「う〜、何も〜、起こりませんように〜」
「メリル先生、何を祈っているんですか?」
手を組んで頭を下げている担任に声を掛けるのはセリーヌ。
バベルの心配をしているのかと思いきや、
「う〜、侯爵家の〜、反感を〜、買って〜、私の〜、お給料に〜、影響が〜、有りませんように〜」
自身の給与の心配だった。
セリーヌはその祈りの言葉を聞いて、ジト目になる。
が、
(・・・それって、バベルくんが何かやらかす前提じゃないのかな・・・)
「止められなかったか・・・」
己の無力さに項垂れるスミレ。
侯爵家のバカ息子と決闘など、馬鹿げている。
「全く、そんなに後悔するなら、もっと強気で止めればよかったじゃないか」
隣の席で過ぎたことを言い出すルアン。
「それに、久しぶりに会えたんだから、デートの一つでも誘ってみればよかったのに」
「はあ!?」
普段は静かな図書室でも、闘技場の賑が聞こえていた。
「君は行かないのかい、ジョセフ?」
「興味ない」
少年は胸元の剣と剣を重ねたロザリオを弄りながら答えた。
「私も興味あるけど・・・、私が行ったら、み〜んな『毒』で死んじゃうな〜」
自室で外の賑を聞きながら、お茶を楽しむミラベル。
様々な思惑が闘技場に渦巻いていた。
そして、その中心の二人。
ついにその姿を衆目の前に表した。
わあああああああああああああ!!
二人の登場に観客生徒は大いに盛り上がった。
ワインズとバベル。
二人は中央で待機している審判役の教師の元に歩み寄る。
『天才』とそれに挑む『落ちこぼれ』。
その図式だけで、いろいろなドラマを勝手に妄想に、勝手に盛り上がっている。
「お誘いを受けてくれて嬉しいよ。バベルくん」
「いいよ、別に。お前を殴ったら、どうなるか知りたいし」
「いいね、君のその強気。ますます気に入ったよ」
バベルの答えに、ワインズは愉快そうに笑った。
そして、ワインズは闘技場の客席に集まった生徒や教員たちを見回した。
「う〜ん、いい具合に盛り上がっているね。彼らも『刺激』を求めているんだね。彼らにこういった娯楽を与えるのも、僕ら『貴族』の役目さ」
次に、バベルを見据えた。
「まあ、自分から、言い出した決闘で申し訳ないんだけど、僕は結構真面目な性格でね。戦いとなると、『手加減』できないから、気をつけなよ。君は僕の強さに、恐れることになる」
「何?」
ワインズは目の前の『獲物』に自信満々に宣言する。
そして、その『獲物』はというと、
「できないことを、偉そうに言うな!!」
と。
「・・・何の話かな?」
「『手加減』ができないことを、偉そうに言うなと言っている」
バベルの説明でも、ワインズは理解できなかった。
「こちとら、子どもの頃から手加減ができるように訓練に訓練を重ねて来たんだ。そんな俺がお前のような臆面もなく手加減ができないことを堂々と言い放つ奴に負けるわけには行かない!この勝負、俺の手加減を見せつけて、必ず勝つ!わかったか!」
「うむ、わからん」
ワインズはバベルの言葉を聞き流し、開始の合図を待った。
続く




