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リストン薬店の危機〜バベルの感情

それは突然のことだった。

バベルがいつものようにポーションの配達に来たときだった。

ミリーも買い物に行く途中だったので、それに付き合い冒険者ギルドに来た。

いつものように、サーラが笑顔で迎えて・・・、いなかった。

「え?引き取れないって・・・」

「・・・どういうことですか?」

サーラの口からでた言葉は、謝罪と今後リストン薬店との取引を一切行わないという旨だった。

「本当にごめんなさい!急に上司からそういう通達が来て・・・」

サーラにとっても寝耳に水のことだった。

「・・・納得できません」

一方的に取引中止を伝えられ、ミリーは抗議するが、サーラに伝えてもどうしようもないことは薄々分かっていた。彼女も命令されただけの人間なのだから。

「私から、説明いたしましょう」

膠着状態が続く中、声を掛ける者がいた。

副ギルド長のセルドア・バーレイだった。

今回のことを指示した張本人だった。

「リストン薬店様のポーションの品質が基準に満たないのではないかのとの指摘が有り、ギルド内で協議した結果、取引停止の決定に至りました。詳細を記した書類と取引停止の通達は御店に送らせていただきましたので、ご確認ください」

「・・・!祖父のポーションの何が問題なんですか!?『ポーション製造法』の規定は守っています!」

「ポーション 製造法?」

あくまで事務的な返答にミリーは憤り感じた。

バベルは初めて聞いた 単語にはてなを浮かべる。

しかし 、ミリーは今その疑問に答える余裕はなかった。

「失礼。『今後』、品質に問題が生じる可能性がある、というのが正確な表現ですね。ポーション製造を担っておられるハワード・リストンさんはご高齢でしたよね?失礼ながら、ポーション製造にミスが絶対に生じないと言い切れるのですか?」

「でも、今まで、ポーションに問題はなかったはずです・・・」

「私は今後起こり得ることを未然に防ごうとしているだけです。ご理解ください。それに誤解されぬようにお願いしたいのですが、今回の協議でポーション製造法に年齢の規定を折込もうと『法風省(ほうぶしょう)』への進言も考えています。冒険者の方々がより安全に冒険をしていただくための決定ですので」

『法風省』・・・この国の法律全般を司る機関。

その名を出されては、ミリーも何も言えなくなってしまった。

「ポーション製造法って何ですか?」

バベルは完全に置いてけぼりだった。


ギルドを後にして、店に戻ってきた2人は難しい顔をして書類を見ている ハワードに気がつく。

その書類には冒険者ギルドのマークが描かれており、ミリーは嫌な予感がした。

「おかえり 2人とも。その顔だと話は聞いたようだな」

「はい」

ミリーも沈痛な面持ちで答えた。

「あのさあ 、さっきギルドで言ってたポーション製造法って何?」

先ほどの質問をもう一度する バベル。

「はあ・・・。簡単に言えば ポーションを作って販売するための法律よ。ポーションの規格だったり、製造の手順 だったり細かく決められたものよ」

「ほうほう」

説明は 簡単に済ませてミリーは再びハワードの方を見る。

「年齢の事言われちゃあ、何にも言い返せねえな」

諦めたように溜息をつき、頭をボリボリかくハワード。

「おじいちゃんは、いつも丁寧に作業してる。年齢なんて関係ない」

作業を一番近くで見ているミリーの言葉だが、ハワードの表情はすぐれない

「ありがとよ。だが、法風省まで出てこられたら、どうしようもない。潮時というヤツだ」

年齢による衰え。

ハワード自身も実感していたため、こうしてある種の戦力外通告を言い渡されると反対する気力もないようだ。

「おい、バベル」

「はい?」

「聞いた通りだ。お前には悪いが今週いっぱいでこの店を閉めることになった」

「あ、そうなんですね」

バベルは平然とした表情で答える。

その態度にミリーはバベル を睨みつける。

「だから明日からもう来なくていいぞ」

「え、何でですか?」

「いや、だからもう閉店するから…」

「ポーションのことでまだ聞きたいことがあるんですけど…」

「は?」

「店なくなっても、来ていいですよね?」

どうも話がかみ合わない。

廃業しても構わないがポーションについてはまだ学びに来るということ。

まさかそう言いたいのだろうか。

「聞きたいこと、まだいっぱいあるんですよ」

そうらしい。

満面の笑みのバベル。

事の重大さが分かっていない顔だ。

しかし、なんというか・・・、悩んでいることが馬鹿らしくなるほどの笑顔だった。


カランカラン


そんな中、リストン薬店に来客が。

「へへ、邪魔するぜぇ・・・」

「お!強盗!いらっしゃいませ!」

バベルに強盗と呼ばれた来客は以前、この店で恐喝行為をしていた冒険者・チョンマだった。

先日、バベルに折檻された以来の来店だった。

「ご、強盗じゃねえよ・・・。今日は、道案内だ。こちらです・・・」

チョンマに促されて店に入ってきたのは数人の少年少女だった。

そのメンバーに一同は驚いた。

「やあやあ!お邪魔するよ!」

快活な挨拶とともに入店するのは、ワインズ・ゾロモン。

リストン薬店の状況を知ってか知らずか無駄に明るい声だった。

そして、その傍らには彼に寄り添うように歩く少女が一人。

「な・・・!?レイニーさん・・・?」

「あれ?なんでお前が?」

クラスメイトのレイニーがなぜワインズといるのか?

そんな疑問が二人を襲うが、当の本人はフッと二人から視線をそらす。

その様子に勝ち誇ったように口角を上げるワインズ。

そして、それに続くのは複雑そうな顔をしているユリウス。

ワインズの取り巻きたちだった。

「はじめまして、バベル・ロクハラくん。僕は、ワインズ・ゾロモン。デルフィン1の生徒さ」

「ゾロモン・・・?」

ハワードは眉を上げて訝しむ。

「ああ、よろしく。ポーション買ってくか?」

フフ、と一笑し、話を切り出した。

「今日はバベルくんに用があってきたのさ。君の話を友達から聞いてね。ぜひ、お友達になりたいなって思ってね」

「友達?」

「そうさ。自慢じゃないけど、僕はあのゾロモン侯爵家の跡取り、君にはとても魅力的な話だと思うけど、どうかな?」

自慢じゃなく事実としていっている。ワインズはそう言いたいらしい。

「え〜、急に言われてもなぁ・・・」

子どものころから友だちと呼べるものが居なかったので、そんなこと言われてもどうすれば良いのかわからないバベル。

「難しく考えなくてもいいよ。そうだ!お近づきの印と言っては何だけど、このお店、何やら大変そうじゃないか?僕が協力してあげても良いんだけど」

この言葉に反応したのがハワードだった。

「おい!小僧!なんでそのことを知っている!?」

「・・・訂正する時間を差し上げよう。もう一度、言葉を選んで?さあ、どうぞ」

ハワードの言葉にあくまで冷静に受け止めているようだが、逆にその態度がハワードを逆撫でした。

「黙れ!お前ら、『貴族屋』があの副ギルド長と裏で繋がっていることはみんな知っている!この店を潰して、何を企んでいる!!」

「ふぅ・・・、裏で繋がっているという言い方はあたかも何か悪いことをしているみたいじゃないか。むしろ、『表』で繋がっているさ。冒険者ギルドの運営のお手伝いをするためにね。それに、あなたが言っているのはポーション製造法の改正についてかい?それだって、あくまでより質の良いポーションを確実に支給するため。いいがかりだ」

正論を語っているかのようなワインズの物言いに、取り巻きたちはニヤニヤしながらそのやり取りを見ている。ユリウスはハラハラしていたが。

「でも、僕の進言でこの店は特別に取引の対象にすることだってできる。バベルくんが、僕と友誼を結んでくれるならね」

「へ〜、随分簡単に変えられる決まりなんだな。ポーション製造法って」

「大した変更じゃないさ。こんな店、あってもなくても大した問題じゃないしね」

その言葉は許せなかった。


パシ!


飛び出したのはミリーだった。

ワインズの頬に平手打ちを見舞った。

祖父たちの店に対する侮辱は許せなかった。

「・・・冗談じゃすまねえぞ?」

ワインズの目の色が変わり、その視線にミリーは鳥肌が立った。

と、同時に、


バキ!


ワインズは杖でミリーの左頬を殴打した。

「あぐ!」

「ミリー!!」

「な!?」

悲鳴を上げて倒れ込むミリーに、ハワードが駆け寄る。

取り巻きたちもその光景には流石に動揺を隠しきれなかった。

「身の程を知り給え。君のことも知っているよ?ミリー・シュガーくん。才能もない、爵位もない君と視線を合わせて上げてる僕に、随分と無礼だと思わないかい?」

口から血を垂らして、痛みに震えているミリーに冷徹に言い放った。

「君もそう思うだろ?バベルくん?」

目の前にはバベルはおらず、いつの間にかミリーの傍に居た。

その手にはいつの間にか水とポーションが。

「はい、水。口の中をよくすすいでから、口の中全体に含ませるようにポーションを飲む。だったよな?」

バベルの言うとおりにポーションを飲み込み、痛みが引くのを感じるミリー。

「お前が、教えてくれたことだよ」

ミリーをハワードに任せて再びワインズと対峙する。

「で、どうかな?僕と友だちになってくれるかな?」

「やめとく」

未だにそんな交渉をしているワインズも大概だが、それ以上に侯爵令息の頼みを断るバベルにも戦慄が走った。

「おや?もしかして怒っているのかい?」

ワインズはミリーを一瞥しながら聞くが、

「殴る、殴られるはお前たちの問題さ?・・・そんなことより、教えてほしいんだけどさ」

バベルはうーんと考え込んでからゆっくりと口を開く。

「怒ってるわけじゃないと思うんだけど、お前がミリーをぶったのを見てさ、何かモヤモヤしてさ。一発、お前を殴りたい気持ちがでてきたんだよな。変じゃないか?別に、俺がなにかされたわけじゃないのに・・・。なんつーか・・・」

何を言いたいのか、この場にいる全員がわからないと言った顔をしている。


「ミリーのために、お前をぶちのめしたい。この店のために、お前をぶちのめしたい」


自分の中にある感情をゆっくりと取り出した。

「誰かのために、誰かを傷つける。これって、『善意』になるのかな?昔、言われたんだよ『俺を守るために、誰かを殺しても俺は嬉しくもなんともない』って。そいつが望まないことをすることが善意になるのか?この気持ちに従えば、俺は回復魔法を使えるようになるのか?」

「あ〜、ストップ、ストップ!」

バベルの溢れ出す疑問を制止するワインズ。

「君が、何に悩んでいるのかわからないが・・・、僕も気になることがなるんだ。なんというか、君の言葉だとまるで僕をぶちのめすことができるって、言ってる気がしてさ」

「え、うん」

ワインズの疑問には、淀みなく答える。

「ふふ、はははははははははははは!」

それはそれは愉快そうに大笑いされたワインズくん。

「面白い!!面白いよ、バベルくん!!今まで、僕にそんな口を聞いたのは君だけだよ!」

文字通り、腹を抱えて大笑いをするワインズ。

「そうだ!面白いことを考えた!決闘だ!決闘ってやつをしよう!」

「決闘?」

「そうさ!僕、決闘をしたことがないからさ!一度やってみたいと思ってたんだ。君となら良い勝負ができると思うんだ!どうだい!?」

「・・・いいよ。こっちもお前をぶちのめしたらどうなるか確認したいし」

両者合意のもとで決闘が決定した。

「じゃあ、明日放課後に。詳しくは明日伝えるから覚悟しといてくれ!さあ、忙しくなってきた!」

そう言うと、再び高笑いをしながら退店していった。

その際、ミリーはレイニーと目が合い、睨みつけるが、レイニーは特に相手をすることなくワインズに続いた。


一気に静かになった店内。

「ミリー、大丈夫か?」

「え、えぇ・・・。それより・・・」

「ああ、明日は決闘に行くから、バイト休むかも。いいっすか?」

ミリーの心配をよそに明日の欠勤を宣言するバベルだった。

「今回は忘れないようにしないとな」


続く


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