ターコイズホシヒカリゴケを求めて〜『恥』はその人次第
「て、言うか・・・、お前ら、前の実習で何してたんだ?これって、要はやり直しみたいなものだろ?何やったら、こうなるんだ?・・・いや、何をしなかったら、か?うん?あれ?」
自分の質問がわからなくなったバベル。
「自分のことを棚に上げて、失礼なことを聞かないでよ!まずはあんたが何してたのよ!?」
無神経なバベルの質問に青筋を立てるアンヴィアン。
「俺はたくさんポーションを配ったよ!でも、評価項目にはないってことになっただけで、何もしてないわけじゃないの!お前は?」
「あたしは、営業をしてたわ!」
「え、えいぎょう?」
「そう!あたしがいたチームには、将来有望な人材がゴロゴロしてたの。だから今の内に我が『コルネオ商会』の名前を売るのは当然でしょ!」
「ヒーラーとして当然なのか、それは?」
アンヴィアンは堂々と発言するも、流石にバベルも突っ込まざるを得なかった。
「回復魔法はハンナに任せてたわ」
「災難だな、あいつも」
こいつは駄目だと、結論付けて、バベルはミリーにも聞く。
「で、お前は?」
アンヴィアンと共に注目すると、
「私は何もしてないわ」
「へ?」「は?」
「私は何もしてないわ」
短く答えるミリー。
まるで機械のように淡々と同じことを繰り返す。
「うん・・・、そうか・・・」
「そうなのね・・・」
表情を一つ変えずに答えるさまは、ある種の威圧感を放っていた。
会話はそこで終了してしまった。
サエン洞窟に向かう馬車の中で、暇つぶしで始めた会話だったが、三人とも口をつぐんでしまった。
「・・・私は、何もできないから・・・」
その呟きは、他の二人には届かなかった。
馬車に揺られ、一時間ほどで目的地のサエン洞窟に到着した。
洞窟内はヒンヤリとしていて、一般的な薬の材料となる藻や苔などが生えている。
初級冒険者や一般の平民も採集に来ている。
そのためか、洞窟の入口や内部もある程度舗装されていた。
「ここって、冒険するって感じじゃないよな。ここに来る冒険者って、冒険者って言えるのかな?」
バベルがそう呟くほど、きれいな道で歩きやすかった。
しかし、
「なんか、薄暗くない?」
アンヴィアンは足元の暗さに怪訝な顔をする。
「洞窟なんて、暗くてナンボだろ?ランタンもあるし、明るいほうだろ?」
「ターコイズホシヒカリゴケ・・・」
ミリーが周りの壁を見て呟いた。
アンヴィアンは同調するように頷く。
「普段なら、このあたりでもターコイズホシヒカリゴケがたくさん生えていて、コケの光で周りが明るいのよ。でも、ターコイズホシヒカリゴケがこのあたりに全然生えてないわ。なぜか、ね」
ミリーも湿った壁に触れた。
「最近、採集された形跡があるわ」
壁にヘラなどで削られた痕を見つけた。
「え〜・・・、そんなに人気があるのか?ターコイズホシヒカリゴケって・・・」
対象の採集が今回の再実習。
しかも、採集用で与えられた袋にいっぱいにしてこいとのこと。
現在地周辺には、コケがほとんどないので、これを一杯にするにはどうしたものかと考える。
「しょうがないから、もう少し奥の方まで行ってみましょう。奥の方なら、たくさん生えているはずだし」
アンヴィアンの提案に頷くしかなかった。
この洞窟なら危険なモンスターの報告もないし、奥まで行っても問題ないと二人とも判断した。
少し、足場の悪い地面に足を取られつつも、アンヴィアンは先頭を歩いていった。
ミリーもそれに続く。
「コケ残ってるかな?なんか、奥に大勢いるみたいなんだけど」
バベルは眉をひそめた。
三人は奥に進むが、中々コケを見つけることができなかった。
正確には、多少コケは生えているのだが、取りすぎは禁止されているので採集はできなかった。
しかたなく、更に更に奥に進むこと十分。
ようやく、採集ポイントを見つけることができた。
そこは、舗装された階段で降りたところだった。ちなみに、洞窟内で舗装されているのはこの階層までだった。地面は、湿気により滑りやすくなっており、耳をすませば地下を流れる川の音も聞こえてくる。
バベルたちが降りた階層は広い空洞になっており、周りには更に奥に進む洞穴がいくつもあった。
そして、その洞穴から緑を含んだ青い光が見えた。
「それじゃ、手分けしてコケの採集をしましょう。効率重視」
アンヴィアンはそれぞれ別の洞穴に入り、コケの採集を提案。
確かにそれぞれの洞穴は狭く、人が並んで入れるほどの幅はギリギリ有るか無いかぐらいだった。
採集できる量も限られているのでそっちのほうが早く終わりそうだ。
「さ、ちゃっちゃっと終わらせましょう」
「あいよー」
「・・・・・・」
アンヴィアンは、一番大きな洞穴へ、バベルはその隣の穴、ミリーは階段に一番近い穴に、それぞれ入っていった。
「坊っちゃん。あいつら、計画通りに分かれて行動を始めました」
「OK、お前ら、ご苦労だったな」
三人の動向を見ていた一団が居た。
その中心に居たのは、赤毛の少年、アレンだった。
彼と共にいるのは解体屋『ウォーカー』の従業員たち。
モンスターの解体を行う上で必要な鍛えられた体、荒っぽい冒険者と対等に交渉ができるように見た目もあえて厳つくしていた。
しかし、見た目だけではなく、その素行の悪さも見た目通りだった。
依頼してきた冒険者との揉め事は日常茶飯事で、採集した素材の横領、鍛冶屋に武器を注文する際は無理難題を押し付けるなど、多方面にわたって評判が悪かった。
そして、彼らを率いているアレンは所謂、雇用主の『御曹司』ということで彼らを小間使いにしていた。
カリカリカリ。
「・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・無心になれるな・・・」
バベルはひたすら、壁に生えているコケを削り取っていた。
案外、こういう作業も楽しいかも。と、思い始めていた。
採集する際は、間隔を開けて採集するようにと言われているのを律儀に守り少しずつ削っていった。
カリカリし続けて、遂に行き止まりまでに達した。
あらかた採集し尽くして、コケが入った袋を見るとまだまだ欲しいところだ。
「隣の穴に行くか」
腰を上げたところで、
「へへ、よう」
バベルの背後から、声をかけたのはアレンだった。
「ちょっと!なんなのよ!あんたたち!!」
アンヴィアンはコケを採集しているところに人の気配を感じて、後ろを見るとそこには強面の男が四人。
アンヴィアンを舐め回すような視線を送り、彼女は本能的に危険を察知し、採集道具を放り出して、逃げるように洞穴の奥に駆けていった。
当然、男たちはそれを追っていく。
アンヴィアンの選んだ洞穴は、洞窟の奥に更に進むルートでもあった。
地面のぬめりに足を取られながら、アンヴィアンは大きく育った鍾乳石を掻い潜りながら逃げていく。
「はぁ、はぁ、なんで、こんな目に・・・」
いわれのない追跡に怯え、そんな声もでてしまう。
「きゃっ!!」
遂に地面に足を取られ転倒してしまう。
「追いかけっこはここまでだな、お嬢ちゃん」
その様子を見ていた男たちは下卑た笑みを浮かべ、アンヴィアンに近づいていった。
地面に伏してしまったアンヴィアン。
この男たちの目的や、男たちに何をされるのかを考える・・・よりも一旦、
(・・・あれは、鍛冶屋『デラール』製のブーツ。スパイク付きで氷上でも滑ることなく活動ができることが売りのベストセラー・・・。なるほど、良い仕事してるわ・・・)
男たちの武装を観察していた。
「・・・・・・何か?」
ミリーは背後から来た男たちを警戒した。
「へへへ、悪ぃなァ、お嬢ちゃん。特に恨みはないがよォ、ちょぉっと付き合ってもらうぜェ」
「大人しくしてたほうが身のためだぜ」
男たちは、わずかに怯えたミリーに無遠慮に近づいていく。
ミリーは、危険を感じつつも、ここは大人しくしていたほうがいいと判断した。
「おう」
バベルは、アレンの呼びかけに対し、特に驚いた様子もなく応じた。
アレンの背後には複数の男たち。
洞穴の出口を塞ぐように立ちはだかっている。
「ふん!強がっているようだけどよぉ、逆にカッコわりぃぜぇ」
「強がる?なにをね?」
アレンはバベルの自然な様子を強がりと判断し、嘲笑を浮かべる。
当のバベルは「?」と首を傾げている。
「て、言うか、お前何やってんの?学校は?後ろの奴らは?」
いきなり声を掛けてきたアレンたちに質問攻め。
「へっ、お前・・・、状況わかってんのか?」
アレンは自身の腰に携えている愛用の武器を握り、構える。
刃渡り60センチほどの『ノコギリ』だった。
モンスター解体用のノコギリだ。
刃は硬い鱗も切り分けることができるほどの鋭く硬い素材でできている。
無論、人に向けるものではない。故に、アレンは武器として使っていた。
「それにしても、笑えるくらい引っかかるもんだな。こうも、洞窟の奥まで誘い込まれたことも気づかずによ」
「どういうこと?」
「教えてやるよ。お前ら、入口近くにコケがないからここまで来たんだろ?入り口付近のコケは、ウチの従業員たちが先回りしてあらかじめ取り尽くしておいたのさ!」
アレンは勝ち誇ったように声を高らかに種明かしをした。
「マジで?」
「どうだ?今の気分は?」
「暇なの?っていう疑問の気分」
あくまでも動揺することのないバベルの態度と、「暇なの?」の言葉にアレンもいい加減腹が立ってきた。
得物のノコギリをバベルに向ける。
「そのスカした態度がいつまでも続く思うなよ!食堂でかかされた恥、ここで返させてもらうぜ!」
啖呵を切るアレンに続き、その背後の男たちもナイフやこん棒など得物に手をする。
戦闘態勢が整ったアレン陣営に対し、
「後でいい?今、忙しいからさ」
「は?」
「ちょっとごめんね。通るよ〜」
唖然とするアレンの横をすり抜けるバベル。
バベルの目的は、あくまで再実習だった。他のことは二の次だ。
そのバベルの二の腕を掴むアレン。
流石に、キレた。
「いい加減にしろよ、てめぇ・・・。ここまで、舐められたのも初めてだよ。丁寧に、解体してや〜〜〜〜る〜〜〜っ、って、おい!こら、止まれ!」
バベルは腕を掴まれても気にせずズンズン進んでいく。引きずられるアレン。
「いま、忙しいんだってよ。大体、お前さ「止まれ、ガキ!」、間が悪いんだよ。「坊っちゃんを引きずるな!」間がさ。俺が「止まれっつってんだろ!」なんかやってるときに来てさ。「何だコイツ!」恥だの、舐めてるだの、「お前ら、力入れろ!」そんなもん、お前が勝手に感じてる「おい!応援呼べ!」だけだろ?俺のせいにすんな」
他の男たちからも腕や足を捕まれるが、お構いなしに進軍していくバベル。
まるで、歩いている馬を掴んでいる感覚だ。いくら力を込めて押さえつけようとしても、馬を止めることができないみたいな。
そのうえ、狭い通路だ。無理にバベルを止めようと掴むが、壁にこすりつけられて、
ガリガリガリガリ
ゴリゴリゴリゴリ
ズリズリズリズリ
「いててて!」「と、止まれって!」「おい!!」
ダメージを負う男たちから、苦情が起こる。単純に手を離せばいいのに。
しかし、プライドが許さないのか、手を離すことはなかった。
気がつけば、階段が有る大きな空洞へ到着。
「あれ?」
体中に男たちをぶら下げたままバベルは、目の前の光景に首を傾げる。
「はぁ、はぁ、へへへ・・・」
バベルの腕を離し、アレンはニヤッと嘲笑う。
そこには、十人ほどの強面の男たちと、
「・・・・・・」
腕を掴まれ、拘束されているミリーだった。
いつも通り、無表情だった。
続く




