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再実習に向けて〜知られざる悪名

「はい〜、これ〜、どうぞ〜」

バベルはメリルから一枚のプリントを受け取った。


受け取ったのは再実習の内容がかかれたプリントだった。

そこで、再実習を受けるバベル、ミリー、アンヴィアンは昼休みに食堂に集まり、食事がてら打ち合わせをすることにした。

アンヴィアンはバベルから誘われた時、胸を隠しながら渋い顔をしていたが、「まぁ、いいから、いいから」と雑に押し切られ、食堂のテーブルに着いていた。

ミリーは、断る理由はないので、素直に頷き同じテーブルに着いていた。

そこには再実習を受ける三人と、もう一人。

「お前、なんでいるの?」

バットだった。

「いや、食事しに来ただけだ。気にすんなよ。四人席だし」

昼食のサンドイッチをかじっている。

もちろん、食事だけではなかった。バベルの動向をチェックしに来たのだ。

場合によっては、この再実習を監視しなければならないので。

「まあ、いいか。さて・・・」

バベルたちはもらったプリントに目を通した。

内容は、都市外の洞窟、『サエン洞窟』にて薬の材料になる『ターコイズホシヒカリゴケ』も採集だった。

追記でその洞窟には星1のモンスター『マッドリザド』の巣があるとのこと。しかし、小型のモンスターで普段は壁や鍾乳石に張り付いてじっとしていて、こちらから攻撃しない限り害はない。

無駄な戦闘をせずに、採集に専念し、なおかつ奥の方に進まなければそこまで難しい内容ではなかった。

「ターコイズホシヒカリゴケって、何の薬の材料になるんだ?」

「主に、火傷の薬ね。患部に塗布するタイプ」

バベルの疑問に、淡々と答えるミリー。

「それにしても、サエン洞窟って、結構遠くない?馬車はでないんでしょ、面倒臭いな〜」

アンヴィアンはうんざりするように唸る。

追試のようなものだから、馬車を手配されることはなかった。移動の賃金はもらえるのでどうやって行くかは自由だった。

日時は、今週末。午後の授業は公欠扱いにしてくれるらしいので、昼食が終わり次第出発することにした。

移動手段、持参するものなど、三人の話し合いはまだまだ続きそうだが、脇で話を聞いていたバットは、それほど問題が起こるとも思えず、尾行は必要ないかなとも思っていた。

しかし、そんな四人のテーブルに近づく一団があった。

「へへ、よう・・・、」

その先頭に立っていた茶髪の少年がバベルに話しかけるが、

「あとにしろ」

バベルは少年の方を見ることすらせずに言い捨てた。

「うお!?えっ・・・!」

移動手段、役割分担、決めることはまだまだたくさん。

相手にしている暇はなかった。

と、思っているのはバベルだけだったので、他の三人は茶髪の闖入者に面を食らっていた。

威圧的な態度にではなく、出鼻をくじかれていろんな感情が混じった表情をしていた。

「おい!こっち向け!」

しかし、何を言われたかようやく理解に至り、顔を赤くしてテーブルを強く叩きながら大声を出す。

バンッ!!

ゴスッ!!

「終わるまで待ってろ」

茶髪はテーブルに叩きつけた掌に衝撃を感じた。

見ると、指と指との間に突き刺されていたのはスプーンだった。

スプーン。

先端が丸いものがこんなにもテーブルに突き刺さるものかと、バベルと同席しているバット達、茶髪の少年、周囲の者も、感動すら覚えた。

スプーンがテーブルのオブジェと化した間にも、バベルは黙々と話し合いで決まったことをメモしていく。

いろいろと次々と決まっていった。

こころなしか、ミリーもアンヴィアンも早口だった。早く終わらせたいという気持ちの現れだった。バットも一切の邪魔のならないようにずっと黙っていた。早く終わってほしいという気持ちの現れだった。

四人がそれぞれ協力する形となり、再実習の当日の打ち合わせはスムーズに終わった。

「ふぅ、終わった・・・。ありがとな、二人とも。飯にしようか」

バベルはオブジェのスプーンを引っこ抜き、頼んだカレーを一口頬張った。

冗談じゃない、他の三人はテーブルから離れようとしたが、

「フザケてんのか、「で、何か用か?あ、ごめん」・・・!・・・こ、のやろう・・・」

茶髪は改めて怒声を上げたが、運悪くバベルの言葉と被り、三度出鼻を挫かれてしまった。

「あ、どうぞ、どうぞ」とバベルは茶髪を促した。

ちなみに同席している三人は離席するタイミングを逸していた。

茶髪は眉間を引くつかせて、

「お前・・・、俺が誰だかわかってないようだな・・・。俺はデルフィン1のアレン・ウォーカーだ!聞いたことあるだろ!?」

「な!?」

「え!?ウォーカー・・・」

反応したのはバットとアンヴィアン。

明らかに動揺しているが、

「え?知らないけど・・・」

問われたバベルはキョトンとするだけだった。

「はぁ!?」

バベルの答えに顔を赤くするアレン。

いい加減、堪忍袋の緒が切れそうだった。

三度も出鼻をくじかれ、名前も知られておらず、話もまったく進まない。

積み重なったイライラとモヤモヤの総数が表情に現れている。

見かねたバットがバベルに教える。

「この辺でウォーカーって言えば、『解体屋』のウォーカー一家のことだ」

解体屋。

モンスターの死骸を解体し、素材を剥ぎ取ることを生業としている職業だ。

剥ぎ取られた素材は武器や防具、薬の材料に使われているのでその技術は重宝されていた。

その素材を利用することで武器や防具を強化させることができるので、冒険者にとっては必要な技術者だった。

「腕は良いけど法外な報酬を要求したり、構成員たちの素行が悪いってことで有名なのよ・・・」

アンヴィアンが付け加える。

「ふ〜ん。そうなんだ」

はむはむとカレーを食べながら説明を聞くバベル。

「は!?ウォーカー一家の名前も知らないなんて、どんだけの田舎から出てきてんだよ!わかったら、面貸せよ!!」

「食い終わるまで待って」

「いい加減にしろよ!俺はウォーカー一家の人間だぞ!?」

アレンはバベルの肩を掴む。

「だ〜か〜ら、いちいちお前みたいなご当地悪党のことなんか知るかよ。俺がお前のことを知らないのは、全部『お前のせい』だろ。悪名が売りなら、この国で革命でも起こしてみろよ。そしたら、嫌でも覚えるから」

無茶苦茶なことを言っている。

「それに」

バベルは自身の肩を掴んでいるアレンの手首を掴み、握りしめる。

「ぐあ・・・!?」

握りしめられた手首からは一瞬で血流が止まり、力が抜け、痺れていき、自然と肩から手が離れた。

「大体、ここは食堂だろ?ここにいる以上、何を置いても飯が優先されるはずだ。お前の指図を受ける筋合いはない」

それだけいうとバベルはあっさりとアレンの手首を離した。

「・・・くそっ!」

痺れが戻らない手首を握り、アレンは食堂を後にした。

バベルは何事もなかったように、再びカレーを食べはじめる。

「さっきまで、ここで会議してなかったか?」

「メインは昼飯だから良いの」

さっきまで会議優先だったことをバットに突っ込まれながら。


「あ〜、あ〜、痛そうだな・・・。手の痕がついてるよ」

ワインズはアレンが顔を真っ青にして自分のもとに来たものだから、その姿に思わず笑みを浮かべてしまった。そして、アレンの手首を見て、更に愉快そうに笑った。

「わ、笑い事じゃないですよ・・・」

アレンは手の平を握って開いてを繰り返しながら、事の経緯を話した。

「で、どうだった?どんな奴だった?」

ワインズはアレンに尋ねる。

彼が、バベルにちょっかいをかけろと命令していた。

「ムカつくやつでしたよ・・・。あの野郎・・・、舐めやがって!!」

先程の食堂の件が思い返され、屈辱も蘇ってきた。

「それにしても、ウォーカー一家のことも知らないんだって?なんか妙だな・・・」

ワインズはとある書類に目を通した。

それは、入学時に提出された『バベル・ロクハラ』に関する書類だった。

それを見る限り、彼の出身地でもウォーカーの名前は知らされているはずなのだが・・・。

「ワインズさん!俺にやらせてくださいよ!このままじゃ、腹の虫が収まらねえ!!」

「あははは!気合入ってるねえ!下品な物言いだけど」

ワインズは先程のアレンの話を思い出し、

「サエン洞窟だっけ?ちょうどいいじゃないか。お前の強さを見せてやれよ」

「もちろんですよ。ウォーカー一家の恐ろしさを教えてやりますよ」

二人はサディスティックは笑みを浮かべる。

「ふふ、いいねぇ・・・。俺も、『奥の手』を準備をしといてやるから。思い切りやりな」

バベルの知らないところで、何かが動いていた。

今度の再実習もひと悶着起こるだろう。

不運なのは、これに巻き込まれる女子二人であることは言うまでもない。


続く

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