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バイト開始〜バイト初日

「う〜ん」

「この依頼なんて、どうですか?難易度の割には、報酬もいいですよ」

報酬で釣ってみた。

「う〜ん」

「この依頼は、モンスターに苦しめられている方々の悲痛な叫びなんです。誰かがやらないといけないんです!!」

情に訴えてみた。

「う〜ん」

「もし、この依頼を受けてくれたら、お姉さんがデートしてあげる」

色香で惑わせてみた。

「なんか、良いバイト無いですか?サーラさん?」

「・・・・・・」

この3ラリー程した会話を無駄にしたのは赤毛の少年、バベル。

色々な意味でプライドを傷つけられたのは、冒険者ギルドの受付嬢・サーラ。


場所は冒険者ギルド。

バベルは以前知った、求人案内のボードの前に立って、バイトの情報を見ていた。

その姿を見つけたサーラは、彼に依頼を勧めていた。

サーラはレインボーハニーの一件で、なんとかしてバベルを冒険者として登録させようと考えていたのだ。

実は、レインボーハニーを入手した過程で彼はレグベアーを三体も討伐した疑いがあった。

それを確認しようと、件のレグベアーを持ち込んだパーティーに尋問すると、赤毛の謎の少年が目の前でレグベアー三体を瞬く間に駆逐したことを吐いた。

これで、バベルの強さに確信を持ち、彼の姿を見るたびにこうして声をかけるようになった。

「あとさ、俺、冒険者になるつもりはないって」

「そんなこと言わずに、とりあえず一つ依頼を受けてみない?バベルくんが思っているより楽しいかもよ」

「モンスター、ぶっ殺して何が楽しいんっすか・・・。服は汚れるし、死骸の処分もあるし、面倒臭さの方が大きいよ・・・」

「・・・・・・」

彼の言葉からは、何か怖さと言うよりも本当に面倒臭いというニュアンスしか感じ取れなかった。

なにより、面倒臭い理由がリアルだった。

まるで、飽きるほどモンスターを殺してきたかのように・・・。

もしかしたら、もう少し彼のことを調べてからスカウトしたほうが良いかも知れない。

そう直感したサーラは今日はここで折れることにした。

「あ〜ぁ、もったいないなぁ・・・」

レインボーハニーを買取した際、正規の買取価格から大分低く提示し、目出度く中抜きに成功した。

ギルドの利益につながるので同様なことを続けていきたいとサーラは考えていた。

近い未来、彼女は、そのような不正を続けていた結果、同僚から『守銭奴』や『中抜きのサーラ』。また、『絶対にヌイてくれる受付嬢』などの、あだ名をつけられてしまうことになるとも知らずに。

「バイトですか〜。具体的には、どんなのが良いんですか?」

とりあえず、今日のところは親身に相談に乗る受付嬢に徹することにした。

「う〜ん、なんか回復魔法を覚えるきっかけが得られるような・・・」

「え〜・・・」

そんなリクエストされたことがなく、求人情報を上から下まで確認するサーラ。

(だったら、冒険者登録をして、パーティー組んで後方支援してれば良いんじゃない?)

身も蓋もないことを思い始めるが、サーラはバベルが回復魔法自体が使えないことを思い出した。

「何か、別の条件無いですか?」

「え、う〜ん・・・。あ、そうだ」

なにか思いついたバベル。

「この間、学校の実習でポーションを使ったんですよ。それで、結構色々勉強になったていうか・・・。まだまだ、知らないことも多いな〜って、思って・・・」

「ふむふむ」

「だから、ここは視点を変えて、ポーションについて勉強するのも悪くないかな〜って」

バベルの言葉を聞いて、サーラは一つの求人に目が行った。

「でしたら、これなんか如何ですか?」

サーラから差し出された求人票にはこう書かれていた。

「リストン薬店?」


紹介された店は、『リストン薬店』。

ポーションの製造、販売までを行う小さな商店だ。

冒険者ギルドにも販売用のポーションをおろしている。

業務内容としては、販売や配達、製造用の薬草の採取などがあった。

経営をしている老夫婦が高齢なため、求人していたとのことだ。

販売ならまだしも、配達は辛くなってきたらしく、薬草採取に至っては、冒険者に依頼していては利益が雀の涙ほどだった。

経営も苦しいためか、給料も僅かなものだったが、

「報酬は気にしないんですよね?」

「はい」

あっさりとこのバイトに決めた。

「あ、ここだ」

リストン薬店は裏通りの一角にある小さな店だった。

二階建てのレンガ造りの家屋だった。

バベルはドアを開けると、カランカランと音が鳴る。

中は薄暗く、薬草独特な匂いが漂っていた。

「こんにちは〜」

店の前には『営業中』の札がかかっているのだが、人の気配はなかった。

店には人の姿は見えず、奥に見える階段からも誰かが降りてくる気配もなかった。

「こんにちは〜・・・」

再び声をかけるが、反応はなかった。

「・・・一回帰ろうかな・・・」

初めてのバイトで、実は少し緊張していた。

人がいないことで怖気づいてしまった。

そこで、もう一回声を掛けて誰も出てこなかったら、出直そうと決めたバベル。

「こんに「はいはい」・・・ちは〜」

のんびりとした声が奥からきこえてきた。

二階に続く階段から降りてきたのは、背中を丸めた白髪の老婆だった。

「よいしょっと・・・。いらっしゃい、なにかご入用で」

カウンターにある椅子に座る老婆。

「あ、俺、ギルドにあった求人を見てきたんですけど・・・」

「あらあら、そうなの。助かるわ〜」

バベルの言葉に、ただニコニコするだけの老婆。

つられてニコニコするバベル。

なんか奇妙な時間が流れる。

「え?これ、採用で良いんですか?」

「あ〜、そうよね。ちょっと待って、おじいさんに聞くから」

老婆は立ち上がり、床のある一角まで向かい、地下室があるのか床に取り付けられた扉を叩く。

「おじいさ〜ん、お客さんですよ」

その言葉から、程なくメガネをかけた店主らしき老人が地下から上がってきた。

「いらっしゃい。すまんね、地下で作業してたもんでな」

店主は眼光は鋭くバベルを値踏みするように見た。

「あの〜、ギルドの求人を見てきたんですけど」

二回目の説明をするバベル。

「あ〜、良いのかい?ウチで。給料安いぞ」

「別に、大丈夫っす。ポーションのことを勉強しようと思って」

素直に動機を答えると、店主は再び、バベルの見た。

「まあ、いいか。採用する」

「あ、ありがとうございます!」

バベルは安堵の言葉を出す。

「やめたくなったら、いつでもやめてもいいからな」

店主はぶっきらぼうにそう言うと、

「そんなこと、言わないの。彼も働いてくれたら、あの子もきっと助かるわ」

「あの子?」

バベルが老婆の言葉に反応するやいなや、

「お〜い!ちょっと来てくれ!」

店主は地下室に向かって声をかける。

まだ、誰かいるようだ。

返事はないが、かすかな足音が聞こえる。

「あれ?お前・・・」

足音の主が姿を見せると、バベルは驚いた。

『彼女』も驚いた。

「・・・なぜ、あなたが?」

初めて、無表情が崩れたような気がした。

そこにいたのは、クラスメイトのミリー・シュガーだった。


聞けば、この店はミリーの母方の祖父母の店らしい。

去年まで、夫婦で切り盛りしていたが、老婆のほうが腰を痛めてしまった。

そこで、ミリーが定期的に手伝いに来ていたのだ。

「・・・それで、もらったお金はここに。領収書が必要って言われたら、ここの棚に入っているから」

「はい!」

バベルはミリーとおそろいのエプロンをつけて説明を聞いていた。

二人がクラスメイトと聞いて、店主の老人・ハワードがミリーを教育係に抜擢した。

無表情だが、拒否のオーラが出ていた。

しかし、断れなかったので渋々了承し、今に至る。

「なにか、わからないことある?」

「わからないことしか無いから、何を聞けばいいかわからない。だから、その都度聞いても良い?」

「・・・構わないわ」

面接をしたのが数分前。

なぜか、早速働くことになったバベル。

緊張から一転して、少しワクワクしていた。

「商品の値段は、値札で確認して。基本的には、値引きはしてないから」

と、商品の説明から、店内の案内まで割としっかり教えてくれたミリー。

一通り説明が終わると、ミリーはエプロンを外した。

「説明は以上よ。とりあえず、店番お願い」

「あれ?お前は?」

「買い物よ。私は、この家の家事も手伝っているから。この時間は、晩御飯の食材を買うことになってるの」

それだけ言うと、ミリーは店から出て行ってしまった。

急に一人にされたバベル。

いや、一人ではなかった。

「おい、坊主」

「へい!バベルっす!」

地下室からハワードが顔を出す。

「ミリーは?」

「買い物に行きましたよ?」

「そうか・・・」

ハワードはちらりと壁にかけてある時計を見る。

「じゃあ、あいつが戻ってくるまで店番頼む・・・」

「は、はい!」

バベルは初めての労働にまた緊張し始めた。

「・・・無理はするなよ」

「はい?」

「何かあれば儂を呼んでもいいし、衛兵の詰め所も少し歩いたところにある」

「?何の話っすか?」

「・・・なんでも。やめたくなったら、いつでもやめてもいいからな・・・」

さっきも言われたセリフだが、意図がわからなかった。

「儂は下で、ポーションの調合をしてるから」

ハワードはまた地下へと降りていった。

再び、一人になり静かになる。

バベルは突っ立てるのもなんだしと、店内を改めて見て回った。

ポーションの棚を見ると、赤、黄色、緑の三種類があった。

緑のポーションを手に取ると、瓶もこの間の実習に使ったものと一緒だった。

赤と黄色はまた瓶の形が違った。

ふむふむと隅々見てから、違う棚を見てみた。

そこは、毒消しや麻痺治しなどの状態異常を治す薬が並んでいた。

「色々あるんだな〜」

生まれてこの方、薬というものを飲んだことはなかった。

どんな外傷も毒も、バベルの体内の魔素が作用し、回復させてきたから。

なぜこんな物が必要なのか考えたことすらなかった。

一つ一つ瓶を持って観察していると、カランカランと来客を知らせる鐘が鳴った。

「あ、え〜と・・・、いらっしゃいませ!」

そこには、五人の武装した男たち。冒険者のようだ。

ドカドカと大きく足音を鳴らし、何か楽しいことがあったのかゲラゲラ笑いながら入店してきた。

「あん?何だ、お前?見ねえ顔だな」

「あ、今日から、ここで働くことになりました!」

客だ!客だ!と、バベルは若干はしゃぎながらカウンターにたった。

程なく、男達は赤いポーションを十本、バベルの前にゴトッと置いた。

「おい!これだけしか無いのか!」

「はい!在庫は出てるだけっす」

赤いポーションは最上級の『ハイ・ポーション』。裂傷から骨折、頭痛、歯痛までも効果がある。

「おい!さっさと、会計しろ!こっちは今から、モンスターの討伐に行くんだからよ!」

「はいはい」

やっぱり冒険者のようだ。

「え〜と、一本三千イェンだから、合計で三万イェンです」

「おらよ」

「ありがとうござ・・・ん?」

支払われたのは、三千イェンだった。

見間違いかと思い、バベルは支払われた紙幣を眺めたが、やはり千イェン札が三枚。

その様子を見た冒険者たちはクククと笑い出した。

「あの〜、足りないんですけど・・・」

「あ〜ん??そんなはずはねえよ。確かに払ったぜ〜」

「いや、紙幣の種類もわからないんなら、冒険者なんてやってる場合じゃないだろ?ちゃんと自分が『馬鹿』って理解しなきゃ、この後の人生苦労するのは目に見えてるぞ?」

「舐めてんのか、てめえ!!」

わりかし本気で心配してあげているバベルだが、バカ呼ばわりされて黙っているほど、彼らは『賢く』なかった。

「合計で三万イェンです」

バベルはなにかのすれ違いがあるかもと思い、改めて金額を伝える。

そんな思いは伝わるはずもなく、男たちはバベルに対し一斉に凄む。

「おれたちゃ、いつもこの値段で買ってんだよ!新入りが、生意気言ってんじゃねえぞ!!」

「俺等のこと舐めてんだろ!」

「俺達は、この街を守ってる冒険者だぞ!これぐらいサービスしろや!!」

「俺等の手にかかりゃあ、こんな店、秒で潰せんだぞ!!」

「ぶっ殺すぞてめえ!!」

五者五様の恫喝に対し、バベルはしばし沈黙。

「ふん!なんだ?ビビってんのか!?」

眉を歪ませ、最大限の侮蔑の表情をバベルに見せるが、

「え〜と、じゃあ、順を追って・・・」

バベルは恫喝の言葉を放った男たちを順番に目と目を合わせて答えた。

「『いつもの値段』なんか知るわけ無いだろ?新入りだって言ってんだろ。次、紙幣の種類も分からない奴は舐められて当然だろが。次、前も言われたんだけど、そのセリフ。冒険者は語彙もないのか?だから憧れないんだよ。次、この店を秒で潰すなんて俺でもできるわ。威張んな。次、ぶっ殺すっていうんなら、今すぐ殺してみせろ」

律儀に順番に言い返すバベルに、呆気にとられる男たち。

「それじゃ、最後にもう一回だけ言うぞ」

思わぬ口撃に戸惑っていると、再びあの言葉が。

「合計三万イェンです」

「ぶっ殺す!!」

先頭の男がブチギレ、剣をバベルに振り下ろした。

が、

「・・・な?」

バベルの人差し指と中指が男の両目に迫り止まる。

バベルは目潰しを寸でのところで止め、男はバベルの指が自分の睫毛に触れているのがわかり、冷や汗が流れる。

「わかった。おまえら、強盗だな?」

バベルは表情が一転し、鋭い目つきになる。

「俺は新人だから、強盗の対応はまだ習ってないからな、どうすればいいかまだわからないからさ・・・」

他の冒険者たちもバベルの雰囲気が変わったのを察知し、息を呑む。

「とりあえず、実家での対応に倣って、排除ってことで」

バベルは突き出した指を素早く動かして、正面の冒険者の額を弾いた。

デコピンだ。

バコッ!!

音は完全に、殴られた音だった。

実際に、他の連中も殴られたとも思った。

だって、デコピンされた彼は入口まで吹っ飛んだもんだから。

「合計三万イェンです」

とりあえず、もう一度言ってみた。

「このやろう!」

それをきっかけに、他の冒険者は一斉に襲いかかる。

彼らは、『故に』低級冒険者だった。

目の前にいる『生物』に秘められた脅威を感じることができないのだから。

いや、むしろ、脅威を感じても感じなくても、戦いを挑む姿は冒険者の鑑とも言えるかも知れない。

バベルは正面から殴りかかってきた男にハイキック。脳を揺らされ、男は沈黙。

次に左右の手刀で二人の男の意識を刈り取る。

最後の男は次々に倒れていく仲間たちを認識する暇もなく、バベルの頭突きで白目を向き倒れる。

「これだから憧れないんだよ、冒険者には」

排除が完了し、カウンターに並べられたハイ・ポーションを脇に備えられている手ぬぐいで一本一本綺麗に拭き、陳列されていた棚に戻していった。もちろん棚板も綺麗に拭いた後に。

最後に少し埃が舞ってしまったカウンターを綺麗に拭き上げて、

「これで良し!」

改めてお客さんを迎える態勢を整えて、バベルは気合を入れた。

強盗、もとい冒険者たちは転がったままだが。


「・・・・・・な、なんじゃ、あいつは・・・」

その一部始終を見ていたのは、店主のハワード。

物音がした店内の様子を見に来てみれば、伸びている冒険者を尻目にせっせと店内清掃と陳列をしている姿が。

バイト初日で、なぜあのような事態になるのか、見当もつかなかった。


続く


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