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小話①〜帰り道

実習も無事終わり、今は帰りの馬車の中だった。

バベルは窓の外の景色を見ていた。

他の男子二人は、並んで寝ていた。

その様子を、乗り物酔いをしながらも何故か鼻息荒く見つめているセリーヌ。

「あ〜、ごほん!あ〜、その、なんだ・・・」

スミレはわざとらしく咳払いをし、話を切り出す。

「ずいぶんと打ち解けたようだな・・・」

三人の様子を見て素直な感想を言った。

バベルも視線をスミレに移し、

「まぁね、昨夜も遅くまでトランプしてたし」

「そうか・・・、我々も誘ってくれても良かったのに」

「はは!そうだな。お前らは何やってたんだ?」

スミレは一瞬、逡巡し、

「あ〜・・・、セリーヌが何やら難しい話をしていたな・・・。ユリシュレが熱かったとか・・・」

「?」

「その、お前はクラスメイトのバットとかいう男と付き合って・・・?いや、なんでもない」

「・・・セリーヌは、『不浄師ふじょうし』ってやつなのか?」

「・・・かもな」

転界人によってもたらされた概念『不浄師ふじょうし』。

同性同士の恋愛に非常に興味を示す女性の総称で、元々は『腐った女子』という意味合いもあったらしいが、「レディに腐ったとは何事か」と言うことで今の呼び名が定着したとのことだ。


一方、バベルたちを乗せた馬車を見つめる一団の姿があった。

「よし!お前ら準備はいいか!」

「「「「へい!!」」」」

五人の武装した男たちが気合を入れていた。

「ふぅ、ふぅ・・・。約一月ぶりの仕事だ!ふぅ、ふぅ・・・、いいか、この仕事をなんとしても成功させて、ブルザット盗賊団の復活の狼煙を上げるぞ!」

鼻息荒く部下たちを鼓舞させているのは、先日壊滅したブルザット盗賊団の団長、ブルザット。

むしろ、自分に言い聞かせていた。

王都から、ダッシュで逃げ帰った後は、しばらく隠れ家から出ることも叶わなかった。

その原因は、赤毛のイカれた少年だということは言うまでもないだろう。

経験したことのない恐怖は彼の精神を蝕み続けた。

だが、日が立つに連れ、一人、また一人と隠れ家に同じく逃げ切れた部下たちが戻ってきたのだ。

「俺は・・・、俺は、一人じゃなかったんだ」

その事実が、ブルザットを立ち直らせ、集った四人の部下たちと新たにブルザット盗賊団を立ち上げることを決意させたのだ。酒の席で。

そして、盗賊団の再出発を飾る獲物を件の馬車に決めたのだった。

「あのがきはいないあのがきはいないあのがきはいないあのがきはいるわけがない・・・」

そう呟きながら瞳を閉じ、手を組むブルザット。

ブルザットはあの日以来、欠かしたことがない神への祈祷。

いわば、精神統一。いや、精神安定のために。

部下たちもそれに習い、祈りを捧げる。すっかり、盗賊団の習慣となっていた。

「・・・いくぞ!!」

ブルザットは職人の目を宿し、武器を握りしめた。


馬車の進行方向に突如現れる五人の武装集団。

「ま、待ちぃな!そこの馬車!!命が押しければ、有り金全部置いていきな!!」

久々の仕事に若干声が裏返ってしまったが、御者は男たちを見ると馬車を止めた。

まずはファーストステップはクリアと言うことで、一旦呼吸を整える。

(焦るな、焦るな。一つずつ、今までの手順を踏むだけだ)

ブルザットは、すーはーとゆっくり体の中に空気を取り込んでいく。

風の魔素を体中に取り込むことはリラックス効果があると聞いたことがあった。

もはや、リハビリ。

妙な間が空いていることに御者も怪訝な顔をする。

「おらぁ!!何度も言わせるな!まずは、馬車から出てこい!殺されてぇのか!!」

(よし!)

会心の恫喝が発することができたので、心の中でガッツポーズをするブルザット。

(いけるぞ!これならいける!おれたちはまだいける!もう一度羽ばたくんだ!)

成功を確信する。

セカンドステップ、クリア!

ここから先は、どのようにして己の残虐性を見せるかだ。

プランはあった。一番最初に顔を見せた運のないやつを見せしめとして殺すことだ。

(これは、ビビるぞ〜)

「これは、ビビるぞ〜」

まだ、情緒が安定していないのか、心の声がちょっと漏れた。

部下たちは、その様子に一抹の不安を感じたが、団長のやる気に水を差しかねないのでスルーした。

しかし、ブルザットは気付いていなかった。

もう、あの頃の自分を取り戻すことはできないことに。

彼らは、略奪の際、必ずと言っていいほど『馬車の馬』を先に殺していたのだ。

逃走防止のためと、逃げられないという絶望を与えることを目的として。

しかし、それはしなかった。できなかった。考えなかった。

脳裏に浮かぶのは、馬車を牽かされたあの忌まわしい記憶。

いくら、心の中で鼓舞したとしても、根底にある恐怖を取り除くまでに至らなかったのだ。


「急に止まって、なんかあったんすか?」

ガチャリと馬車の戸が開かれ、赤毛の少年が・・・。

「ひあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

その顔を見た瞬間、ブルザットは体は凍るほどに寒気を感じ、脳からは燃えるように恐怖の記憶が噴き出した。

そして、悟る。

(かみなんかいないじゃないか)

「きゃみなんきゃいないびゃいじゃばいか〜〜〜〜!!!!」

やっぱり、心の声を漏らしながら、ブルザットは踵を返しあさっての方向に走り出した。

部下たちもそれにつづいて、逃走した。

後に、ブルザットは語る。

あの日ほど、全力で走ったことはなかったと。

自分はあんなに速かったのだと。

その経験と再発見を活かし、後に興した運送業は大成功を収めた。

『ブルザット運輸』は業績を伸ばし、彼らは順風満帆な人生を送ることになった。

盗賊団の経歴がバレて、捕縛されるまでは。

投獄されたブルザットは、再び神に祈るようになった。

穏やかな暮らしを夢見て。

そして、この世界に伝わる格言を嫌でも思い出した。


“神は善人よりも悪人を見るほうが好きなのだ”


続く

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