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王都までの道〜馬車の中の一時

王都に向かうため馬車に乗り込んだバベル。乗客とのふれあいを楽しみながら目的地を目指す。ユダからもらった書類を無くさずに無事到着できるかな?

「あら、そうなの〜。王都の学園に入学なんてすごいのね」

「へへ、ありがとうございます」

王都に向かう乗合馬車の中。

馬車の中には、老若男女10名の乗客が乗っていた。

その中の老婆と会話をしているのはバベル。

兄からもらった入学許可書が入っている封筒を、大事そうに抱えているバベルに朗らかに話しかけたのが始まりだった。

「がんばってね。あそこから、何人もの優秀な騎士様や賢者様、有名な冒険者様も卒業されてるのよ。あなた、体が丈夫そうだから立派な騎士様になりそうね」

「あ、俺、ヒーラー志望なんすよ。神官科ってところに通うんですよ」

「あら……、意外ね」

老婆の言葉に気を悪くするわけでもなく、バベルは笑みを崩さず答えていると、

「ぷっ」

向かいの座っている屈強な男が噴き出したのが聞こえた。

「悪い悪い」

バベルと老婆が彼の明らかな嘲笑に反応したのに気づき、それでも男はバベルに侮蔑の視線を送っていた。

「いや、何。わざわざヒーラーを目指しているなんて口にするとか、ちょっと、おかしくてよ」

「なんで?」

「ヒーラーなんてのは、普通、男が目指すもんじゃねえよ」

「そうなの?」

「そりゃそうさ。男が、根性のある本物の戦士が目指すもんは、先頭に立って剣を振るう職さ。俺のようにな」

男は自前の剣を持ち上げて勝ち誇る様にニヤリと笑った。

「おっさん、何やってる人なの?」

「冒険者さ。今日も一仕事終わった帰りさ」

「ふーん」

あからさまに興味が無さそうな声を出すバベル。

「ま、確かに男のヒーラーはいることはいる。でも、そいつらは食うために仕方なくその職に就いているだけさ。大体は大けがを負って戦えなくなったものがそうしてる。男として、戦った結果だ。お前みたいに、戦う勇気や人を殺す覚悟がない意気地のない奴は笑われて当然なんだよ」

男が言い放ち、馬車の中は静まり返る。

「質問いい?」

「あ?」

バベルは気にした風もなく、男に疑問を投げかける。

「戦う勇気や人を殺す覚悟っているの?」

「は?」

「戦うことや人を殺すのに、『勇気』や『覚悟』って必要なの?」

ただただ純粋な疑問だった。

「「!?」」

その瞳には一切の曇りがなかった。

ゆえに、老婆と男は息をのんだ。

目の前の青年は、勇気と覚悟もなく人を殺すことが出来る、と思ってしまったから。

男は背筋が凍った。バベルの目を見たら。

純粋な目をしているからこそ、その不気味さを感じた。

脂汗も出てきた。

しかし、得体が知れないとはいえ、年下の小僧になめられないとし、声を上げようとしたところ、


ガタ!


馬車が大きく揺れた。

冒険者の男はつんのめって、バベルの方に倒れ込んだ。

「おいおい、大丈夫か?」

「ひっ!!」

男は情けない声をあげて、素早い動きでバベルから離れた。

バベルはそんな男に気にすることもなく、

「ばあちゃんは大丈夫?」

「ええ…、ありがとうね」

隣の老婆の安否を確認。

「なんだろ?」

バベルが外を見ると、そこには武器を持った男たちが馬車の周りを囲んでいた。


盗賊団の頭は、馬車をひいている馬が仲間の矢に射殺されたのを確認すると高らかに叫んだ。

「乗合馬車をご利用のお客様にご案内いたします!!只今、目的地に到着しました!お降りの際はお足下にお気をつけ、金目のものは、我々ブルザッド盗賊団にお渡しくださいませ!!!!」

頭のふざけた口上に部下たちは、ぎゃははと笑い飛ばした。大して面白くはないが。

「おい、乗客を全員下せ」

「は、はい」

盗賊団の頭であるブルザッドは御者に命令した。

御者は震えながら、盗賊に襲われていること、抵抗しなければ殺される確率は低いこと、伝えようと馬車のほろの中を覗こうとするが、

「あれ?もう着いたんすか?」

ひょっこりと顔を出した赤髪の少年、バベルだ。

周りは森。まだ到着していない。

「休憩すか?」

馬車から降りて伸びをするバベル。

脅えきった御者の顔が気にならない少年は、のんきに尋ねる。

「なんだ、このガキ」

手下の一人が刃物をちらつかせながら、バベルに近づく。

「聞いてなかったのか?ここで終点だ。金を出して、後は歩け」

「ここ森じゃん。王都じゃないじゃん。金はもう払ったし」

ねえ?っと、御者の男を見る。

うんうんと頷く。

「おまえ、状況わかってるか?周りを見て見ろ」

世間知らずの馬鹿を嘲笑するかのように、下卑た笑みを浮かべている。

「……馬車が通れないから、どいたら?」

「どいてほしかったら、だすものだしてもらおうか」

「何を?」

「金だよ」

「なんで?」

「無事に通りかったらだ!」

「運賃は払ったて」

「だから!」

バベルとの問答にいらいらし出した手下その一。

「お、なんだそれ」

バベルが大事そうに抱えている封筒に目をやる。

この状況で肌身離さず持っているものと言えば、余ほど貴重なものだろうと。

手下その一、ハリス。

ブルザッド盗賊団に入って、約五年。そこそこの中堅である。

幹部からの信頼も厚く、新入り達からもアニキと呼ばれるほど慕われている。

そんな男が世間知らずのガキに手間取っている姿を見せてしまっては、沽券にかかわると。

「あ、これ関係ないから。触らないで」

手を伸ばしたが、距離を取られ、空振り。

「いいから、よこせ!!」

一回避けられたことで、頭に血が上る。

殺して奪えばいい。その思考に至るほどに。

今度は手を伸ばすのではなく、剣を振りおろした。

が、刃がバベルに到達することはなかった。

後方の大木に何かがたたきつけられる音が響く。

「…がは」

その何か、ハリスはその衝撃で気を失った。

「え?」

周りの盗賊たちは呆気にとられた。

仲間の身に何が起こったかを冷静に理解しようとした。

前方にいた頭と数人の部下は見ていた。

バベルが放った前蹴りがハリスを宙に浮かせたのだった。

世間知らずのガキの所業とは思えなかった。

蹴りの体勢を直すと、バベルは深く息を吐いた。

「あのさ~」

その声に盗賊団一同、震えあがった。

「俺は、兄ちゃんから金の無駄遣いはするなって言われてるから、これ以上馬車の運賃を払うつもりはない。この書類は、俺が通う学院の入学の許可書やら手引やらなんやらだから金目のもんじゃないの。お前らに全く関係ないものなの」

それだけ言って、周りを見渡すバベル。

「で、そんな俺に、まだなにかようなの?」

すこし、いらいらしているのか真顔の少年に恐怖を覚えた盗賊団。

「このガキ、ぶっ殺せ!」

ブルザッドの号令で部下たちは、バベルに立ち向かった。

そこには自分たちから湧きあがった恐怖を誤魔化すように。

いままで奪う立場だったはずの自分たちが、今、命の危機が迫っているのは感じながら。


「このガキ、ぶっ殺せ!」

「ひっ!!」

馬車の外から聞こえてきた声に馬車の乗客たちは悲鳴を上げた。

全員が理解していた。この馬車は盗賊に襲われていることを。

なのに、

「あああ、あの子、大丈夫かしら…」

先ほどまで隣に座っていた少年の安否を案ずる老婆。

馬車が止まったので「俺、見てきます」と馬車を降りて行った。

その後、盗賊団とのやり取りが聞こえてきて、生きる心地はしなかった。

「くそ、あのガキ。下手に刺激して、こっちまで迷惑かけるんじゃねえぞ…」

「あ、あなた、確か冒険者様って言ってたわね。お願い、あの子を助けてあげて!」

「冗談じゃねえ。ブルザッド盗賊団っていえば、ここら一帯を縄張りにしている武装盗賊団だ。しかも、見る限り二十人以上いる。多勢に無勢だ。大人しくやり過ごすのが吉だ」

「そんな!」

冒険者の男は、目立たない様に腕を組んで大人しくしていた。

老婆は非難するが、行動としてはこの男の方が正しい。危険と感じれば、立ち向かわずにやり過ごす。普通の人間なら、当然だ。

しかし、普通じゃない少年が居たものだから、普通の人間が責められ始めた。

理不尽だ。

見ると、他の乗客まで自分を見ている状況だった。

「ちっ!わかったよ!様子を見るだけだぞ!」

男は居心地悪そうに席を立つと、自前の剣をつかみ、ゆっくりと後方から外の様子見る。

(ん?後ろの方には、誰もいない…。囲んでたんじゃねぇのか?)

逃走防止に後方にも見張りがいると踏んでいたが誰もいない。

罠の可能性もあるのであくまで静かに慎重に辺りを見回し、ゆっくりと馬車を降りた。

男は奇妙に思った。

馬車の側面側にも盗賊の類はいない。この馬車は囲まれていない。

先ほどの揺れや馬の鳴き声からして、おそらく馬を殺して馬車が動かなくなったところを取り囲んだと予想したのだが。

音と言えば、そういえば馬車を降りた辺りから、外から物音がほとんどしなくなっている。

(どうなってんだ)

静かだからこそ、必要以上に足音に気をつけながら前方に向かう。

ボスのブルザッドや部下たちが集中しているはず。て、いうか他にいないのだから、前方に集中しているということだ。

下手に手を出せば、確実に袋叩きだ。

せめてこちらも、交渉が出来やすいように心を落ち着かせ、威厳がありつつも、話のわかる物分かりがいい実力者という雰囲気を醸すことにする。

「よし」

呼吸を整え、意を決して前方を覗き込んだ。

「……え?」

「え?」

男は目を疑った。

赤毛の少年、バベルが盗賊団の一人を喉輪で締め上げている場面だった。

周りに仲間と思われる盗賊団が一人残らず地面に倒れている中で。


続く


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