実習終了〜下される評価
「な〜んだ、じゃないよぉ!!めちゃくちゃ心配したんだからね!」
四人が宿屋に戻ってきた際、談笑しながらその姿を見せた。ハラハラしながら待っていたセリーヌは、開口一番、怒りと安堵とともに抗議の声を上げる。
ヘラヘラしながら戻ってくるな!
それがセリーヌの心中だった。
「あ〜ん、よかったよ〜!!」
ユリウス、ルアン、スミレは激しい戦闘の跡も見られ、疲弊しきっていたので、それ以上攻めることはしなかった。
が、バベルは傷一つ負ってもいないし、何だったら自分たちと離れたままの姿で返ってきていた。
スミレを背負っていたものの、こいつはなにか役に立ったのかな?と疑うほどだった。
「平気って言っただろ?それより、毒消しが荷物の中にあったろ。それ出してくれない?」
「あ!ちょっと待ってて」
ルアンとスミレの様子を見て、状況を把握してすぐに荷物の中から毒消しを探す。
その間に、バベルはスミレをソファーに寝かせ、ユリウスもルアンを腰掛ける。
「ありがとな」
「う、うむ」
ルアンに礼を言われ、なんとなしに顔を背けるユリウス。
「ユリウス様!」
一段落したところでシュレンがユリウスに駆け寄る。
「ご無事で何よりです。私は信じていました」
「心配掛けてすまなかったな」
「あの高ランクのモンスターを討伐したなんて、さすがユリウス様!」
「あ、あぁ。まあまあ、うんうん・・・」
討伐の件はユリウス自身も腑に落ちない点(飛んできたポーションの謎)もあったので曖昧な相槌しか出来なかった。
「今回のことはこれからのあなたの栄光の一歩だと私は確信しています。私はどこまでもあなたに従いていきますよ!!」
鼻息荒くユリウスに迫るシュレン。
そして、その様子を凝視しているセリーヌ。
「あった?毒消し」
「あ!ご、ごめん、ごめん!」
バベルに指摘され、止まっていた手を再び動かし始めるセリーヌ。
そして、ようやく毒消しを見つけ、二人に投与し、二人の状態が安定するのを見届けた。
しかし、その間もチラチラとユリウスとシュレンを見ていたのをバベルは気付いていた・・・。
「じゃ、実習の続き行くか」
「「「「「え!?」」」」」
軽く食事をした後、バベルが唐突に言った。
だが、薄々みんなには予感があった。
トラブルが発生したために実習が中途半端に終わったなという認識はあった。
みんなが思っていた。
だからこそ、この赤毛はきっとこの終わり方に納得していないのだろうと。
しかし、体は動かない。疲弊しきっていた。
行きたくないな・・・。
情けない話だが、そんな思考でいっぱいだった。
なんと答えようと考えていると、
「その必要はない」
六人の前に現れたのは長身の30代半ばの男性。
この実習グループの引率教師だった。
「トラブルの内容は、セリーヌ・アップルの報告から把握している。全員無事に帰還出来たことは評価に値する。それに、ピッケウルフの討伐も一定数達成していることも加味し、このグループの実習は現時点を持って終了とする」
その宣言に、一同ホッとした表情を見せる。
「みんなよくやった。今日はこのまま体を休めると良い」
教師はそれだけを言うと、その場を去っていった。
急に訪れた終了の言葉。
皆の体に蓄積された疲労感は達成感へと変わり、段々と心地の良いものへと変わっていった。
「じゃあ・・・、終わろっか」
バベルが一言添えて、実習は終了した。
引率教師、イーゼル・ハインド教諭は改めて実習が行われた現場に来ていた。
まずは、グループがピッケウルフを討伐していた地点。
生徒たちの証言通り、二体のメタルピードの死骸を視認する。
黒焦げになった二体。触れることはできなかった。
今もなお、大量の雷の魔素が含まれていた。
「報告では、討伐したのはバベル・ロクハラか・・・」
周りには雷魔法の被害はほぼない。
一気に大量の雷魔法が放たれた証拠だ。
リリクルー4の生徒の所業とは思えなかった。
しかし、今回ここに来た目的はそれを検証するわけではない。
メタルピードが、なぜ出現したのか。それも五体も。
ここに来る前に周辺の調査も行ったが、地域の生態系、含まれる魔素の種類などを考えると、メタルピードが生息していた痕跡はなかったのだ。
少なくとも、目の前の二体の大きさから考えると、生まれてから五年以上は立っているはず。
ならば、毒や鉄の魔素があたりに充満していてもおかしくないが、結果は否だった。
イーゼルは改めて顎に手を当て、考えにふける。
(セリーヌ・アップルの証言によると、彼女のグープスには突然出現したように見えたのことだったな・・・。突然出現・・・、確かにその表現がぴったりだな)
なぜ、現れたのか。どうやって、現れたのか。
結論は出なかった。
しかし、必ず答えを出さなければならなかった。
なぜならば、『同じケース』が他の実習グループでも発生していたからだ。
「おい!これ、どういうことだよ!」
バベルは目の前の書類を見て叫んだ。
同じ部屋にいたユリウスとシュレンは何事かと目を向ける。
「この実習報告書は何だよ!」
「勝手に見るなよ、無礼者」
それは先程ユリウスとシュレンが書き終えた報告書。それをたまたま見てしまったバベル。
「なんで、おれの評価が全部『役に立たなかった』、なんだよ!?」
ユリウスは頭を掻きながらバベルの方を向く。
「仕方ないだろ。お前たち、リリクルーは回復役なんだ。自然と評価の項目が『回復魔法の精度は?』とか『使われた回復魔法は適切だったか?』のような回復魔法メインのものになるのは当然だろう」
「だから、ポーションを持ってきたじゃねえか!」
「だから!そんな事は評価の対象になってないと言っているだろう!」
回復魔法を使っていない回復術師の評価の仕方があるなら教えてほしいものだ。
ユリウスの心中はそうだった。
しかし、それでもバベルは折れない。
「じゃあ、言わせてもらうけどよ!レストランを評価する時は料理の味だけじゃなくて、給仕の立ち振る舞いや提供の所作さえも評価の対象って言うじゃねえか。だったら、ポーションを運んできた行為も評価の対象になってもおかしくないだろうが!!」
どこで得た知識なのか、得意気に反論するバベル。
「は〜・・・。その理屈だと、お前のレストランには料理すら出てこないことになるな。そんなレストランも評価しろというのか?」
「・・・論破されてしまった」
「わかってくれて嬉しいよ」
がっくりと肩を落とすバベル。
「まあ、気を落とすな。お前の功績は我々が覚えているそれでいいじゃないか」
シュレンは落ち込んだバベルを気遣う。
バベルの強大な力を目の当たりをした数少ない人物の一人だった。
「成績に反映してほしいよ」
ボソリと呟くバベルだが、ユリウスは釘を刺す。
「まったく、少々活躍したからと言って調子に乗るなよ。たしかに、お前の強さはなかなかのようだな」
シュレンから一通りのことは聞いていた。
「だが、それぞれのクラスの筆頭の実力者も相当なものだ。あまりでかい顔をしないほうが身のためだ」
ケース1
ギガマンティス出現の件。
ギガマンティス。巨大な体躯に鋼の鎌を持つカマキリ型のモンスター。
レイニーとミリーはその鎌がすぐ傍にある大岩を両断しているのを目の当たりにした。
今は同じ実習グループの仲間たちと近くの洞窟にその身を隠していたが、
「やれやれ、ちょっと散歩をしている内に中々の大物が現れたものだ」
その声は、同じグループの少年のものだった。
ギガマンティスはその少年に気づき、大鎌を振り下ろした。
少年は華麗にそれを避け、腰に携えていた二本の杖を左右の手にそれぞれ持った。
「《極寒の神の意思よ、我が右杖に》」
右手に持った杖が青く輝く。
「《灼熱の悪魔の意思よ、我が左杖に》」
左手に持った杖は赤く輝く。
再び、襲いかかる鎌に対し、
「《宿れ》!」
魔法を解き放つ。
右の杖から放たれた氷魔法は、ギガマンティスの鎌ごと右半身を凍らせた。
そして、
「“IF・ハイ・プレッシャー”!」
左の杖から放たれた炎魔法は、身動きが取れなくなったギガマンティスを焼き尽くした。
少年は勝ち誇ったように、ギガマンティスの死骸を見て、
「哀れだな。駆逐されるだけの虫けらというものは」
少年、ワインズ・ゾロモンは完全に沈黙しているモンスターの頭を踏みつけた。
デルフィン1の生徒であり、多重詠唱を得意とする。
杖を二本持つスタイルにより、“二杖流”のワインズとも言われている。
ケース2
ジェットーカスト出現の件。
ジェットーカストはバッタ型のモンスターで凄まじい脚力を持ち、はるか上空まで跳躍することができ、獲物を頭上から襲う特性を持つ。
ジェットーカストは確認できるだけでも八体。
それぞれが間断なく飛び跳ねて、出くわした実習グループの生徒たちを取り囲んでいた。
「ちょっと!なんとかしなさいよ!」
「うるせえな!今考えてるだろ!」
醜く言い争いをしている、アンヴィアンとハンナ。
結局この二人が同じグループになっていた。
そんな二人を尻目に、一人の少年が静かに前に出る。
「下がっていろ」
少年は、帯刀していた短剣を構えた。
「《主よ、駿足の加護を、我が身に与え給え》“アクセル”」
少年の両足が光り輝く。
「《屈強の加護を、我が身に与え給え》“ストレングス”」
両腕が輝く。
「《斬殺の使命を、我が身に与え給え》」
短剣が光り輝いたところで、少年の姿が見えなくなった。
「「!!」」
一体のジェットーカストが両断され、地上に墜落した。
それを皮切りに、次々と首を斬られ、左右に真っ二つにされ、いずれも鋭利な刃物で攻撃されていた。
攻撃の主はもちろん、短剣を持った少年。
目に止まらぬスピードでジェットーカストを切り裂いていった。
ジョセフ・ショットエッジ。
「“セインティング・ダガー”」
ダリアス1の生徒であり、聖剣教会騎士見習いの肩書も持っていた。
ケース3
スピンビー出現の件。
スピンビーは、手のひらサイズほどの蜂型のモンスター。バニンビーとは同系統のモンスターだが、バニンビーは火属性を持つのに対し、スピンビーは風属性を持つ。自身の体を錐揉み状に回転させて、弾丸のように獲物を攻撃する。
スピンビーが現れて数秒後、スピンビーは全て地面の上で痙攣していた。
そして、無数のスピンビーとともに倒れているのはバットと彼と同じグループのメンバーたち。
最初に、甘い匂いがしたと思えば、視界が歪み、体から力が抜けていった。
(クソ・・・!!)
バッドは薄れゆく意識の中で悪態をつく。
(あのバカの監視をしなきゃいけないってのに、なんでこんな目に・・・)
ぼやけている視界の中に一人の少女の姿が映る。
(畜生・・・、聞いてねぇぞ・・・)
薄く笑う少女から漂う魔素は『毒』。
(学園に、『猛毒令嬢』がいるなんて・・・)
リリクルー1、ミラベル・トルメンティア。
毒魔法のエキスパートであり、『猛毒令嬢』と呼ばれていた。
「とにかく、この学院にはお前以上の実力者はいくらでもいる。お前は大人しく回復魔法の勉強でもしていろ」
「大人しく勉強してるんだけどなぁ」
バベル、ユリウス、シュレンの三人は部屋の中央でババ抜きをしていた。
シュレンは早々に上がっており、二人のやり取りを見守っていた。
ゲームに勤しんでいる二人は雑談をしながら、ジョーカーを含む三枚のカードになるまでカードを取り合った。
そして、
「よし!僕の勝ちだな」
正確にはシュレンの勝ちだが、最後を一組を誇らしげに見せる。
「よ〜し!」
しかしなぜか、バベルも嬉しそうに笑っていた。
「・・・なぜ、笑っている」
今度は、バベルが手元に残ったジョーカーを誇らしげに見せる。
「一番強いカードが俺の手に残ったからに決まっているだろ」
「・・・」
「・・・」
どうやら、一人だけローカルルールで遊んでいたようだ。
続く




