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バベルとスミレ〜実力の一端

ガキン!

何度目かになる剣戟が、硬い外殻に弾かれる。

時には攻撃を避けて、時には体を引きずられて、ついには頂上まで追い込まれることになったスミレ。

今、二匹のメタルピードと対峙するスミレ。

「ふぅ・・・」

剣を弾かれる度に腕が痺れる。

圧倒的に不利な状況だが、スミレの頭は不思議と落ち着いていた。

剣を振るうと同時に観察を怠らない程に。

ひと呼吸おいて、刀を鞘に収める。

スミレは狙っていた。

一匹のメタルピードが大きく跳ねて、スミレに飛びかかった。

「星雲流・・・」

スミレは上体を低く構え、解き放つ。

斬涼身ざんろうしん!」

滑らかで鋭い居合の刃がメタルピードの体躯を両断する。

メタルピードは腹部にも硬い殻があるが、背中側の外殻と比べて幾分、硬度は劣る。

殻と殻の隙間を狙った斬撃。

その上、風魔法を付与させ鋭さを上げた。

メタルピードとの戦いの中で、この一太刀を組み立てた。

星雲流。

スミレの先祖である転界人が持ち込んだ剣術の流派。

現在では、その技術に魔法を取り込みさらに進化したと言える。

「ようやく、一匹か・・・」

斬られたメタルピードには一目もくれず、素早くその場を離れた。

もう一匹がムチを撓らせるようにその尻尾を叩きつけた。

間髪避けたスミレは再び構えた。

正直、体力は限界だった。

山を登りながらの戦闘。一撃避けるだけでも、体力の消費は激しかった。

障害物の多い山中では剣を十分に振るえなかったのもあり、いつも以上に精神を擦り減らされた。

メタルピードは体をひねり、素早くスミレの正面を向く。

「くっ・・・」

スミレは自分が立っている位置に焦りを感じた。

自身の背後は崖になっている。

後ろに気を取られることなく、目の前の敵に集中する。

そう心掛けスミレはメタルピードを睨みつける。

なんとか場所を移動しようと、メタルピードの動向を窺う。

メタルピードの牙がキシキシと動き、不快感が増す。

ダラダラと垂れる毒液。

体に倦怠感が包まれる。スミレは疲労の所為かと思ったが違う。

メタルピードの毒液が噴霧状になり、あたりに撒き散らされたせいだった。

呼吸も粗くなり、目も霞み始め、一瞬だけ、足から力が抜ける感覚が走る。

メタルピードには知性はないはず。

本能もままに獲物を襲うだけのはず。

しかし、偶然なのか、この時そんなスミレの常識を超えたと思える行動を取る。

スミレの僅かな隙を狙ったかのように攻撃の一手。

ブシュウ!!

毒液を噴水のように、スミレに目がけて噴き出した。

「!!」

スミレは体をよじって辛うじて避けるが、いかんせん態勢が悪すぎた。

メタルピードの撓る体当たりが迫る。

バシン!!

今度は避けるすべもなく、脇腹を強打され、そのまま崖まで吹き飛ばされる。

浮遊感に襲われ、スミレは青ざめる。

死。

その言葉がよぎってしまった。

(死ぬのか?わたしは。まだ、目的を達成していないのに)

父の生前の姿を思い出す。

(まだ、あの男にたどり着いてもいないのに)

憎き漆黒の鎧の剣士の姿を思い浮かべる。

(・・・あいつとの約束も・・・)

赤髪の同級生、バベルの顔も何故か浮かんだ。


「お、ちょうどよかった」


スミレは崖の下に激突する前になにかにぶつかり落下が遮られた。

「!?バベル・・・!」

スミレは空中で自身を抱き止める人物に驚いた。

力強く抱きとめられ、疲労と毒で朦朧としている頭は混乱していた。

そして、

「ほれ」

「うごぉ!?」

バベルはスミレにアレをねじ込む。

ポーションだ。


バベルは達成感に満足げだった。

ここに来るまでに、ユリウスに手渡すことが出来、遠くにいたルアンにも投げ渡すことが出来た。

キャッチできたかどうかはわからないが。

そして、ここでスミレにポーションを渡すことも出来た。

正確には、強制的に飲ますことになったが結果は同じだろうと、バベルは自分の中で完結した。

「げほっ。げほっ」

当然、咽るスミレ。

バベルはゆっくり着地し、スミレも下ろす。

「大丈夫か?ゆっくり飲みな」

「・・・お前のせいだろ・・・」

口から垂れたポーションを拭いながら、ギロリとバベルを睨む。

が、それも一瞬。

メタルピードが襲いかかってきた。

「早く、逃げろ!」

若干、回復できたのでバベルを庇い、臨戦態勢を取るスミレ。

「まだ、ポーションが残ってるぞ。とりあえず、この『安全地帯』でゆっくり飲んどけ」

無理やり飲まされたせいか、ポーションは瓶の半分ほどしか減っていなかった。

万全な状態になるのを確認するまでが、回復術師の仕事だと、バベルは理解していた。

「『安全地帯』?」

今まさに、危機に瀕しているというのに、その言葉に違和感を感じるスミレ。

「うん、俺の傍」

なんとなしに放たれたバベルの言葉をよそに、メタルピードの毒牙が迫る。

「《灼熱の殺意よ、我が擬刀に宿れ》」

バベルの右手が炎の刃に変わり、メタルピードを迎え撃つ。

「“ヒート・ザ・リッパー”、レッド・リバー!!」

炎の刃がメタルピードの頭部を捉え、そのまま綺麗に尻尾の先端まで真っ二つに分かれていった。

二つになったメタルピードの体はそのまま炎に包まれ絶命した。

「な!?」

「早く、飲めって」

一瞬の出来事で、ポーションを飲む暇もなかったのが正解だ。

あまりにも鮮やかで、美しかった。

幼い頃、母親が魚を捌く所を興味津々で見ていたことを思い出した。

そして、今度こそポーションを飲み干したスミレ。

「ふぅ・・・」

未だ倦怠感と痺れは取れない。

「なんか、まだ、顔色悪いな・・・」

バベルはスミレの顔をまじまじと見つめた。

間近で。

プイッと、顔をそむけて、

「ま、麻痺毒も回っているせいだ。ポーションは体の傷を癒やすが、体内に入り込んだ毒は消すことは出来ない。当たり前のことだろ」

「えっ!?」

バベルは驚いた顔をする。

「知らなかったのか・・・?」

「は、恥ずかしながら・・・」

言葉通りに恥ずかしそうに笑うバベル。

「でも、今日はポーションのことをだいぶ学べた気がするよ。やっぱり、実践経験って大事なんだな」

『実戦』ではなく『実践』。

バベルにとっては今日のことは戦いのうちには入らないようだ。

目の前の少年を改めて見るスミレ。

(こいつは、本当に回復術師のことしか考えていないのだな・・・)

バベルの戦闘を思い出す。

メタルピードの硬い外殻をものともしない、高熱の刃。

あれ程の攻撃力を持った魔法を使える者は限られていることを知っている。

(しかし、これほどの実力があるのに、回復魔法が使えないと言っていたのが気になるな・・・。なにか秘密があるのか?)

「さて、そろそろ実習に戻ろうか」

スミレの思考はバベルの言葉で中断させられた。

「そうだ!早く、他のメンバーと合流しなければ!残りは三匹だ。奴らも苦戦しているはずだ」

「もう、倒したぞ」

「はぁ!?」

信じられない言葉だった。

しかし、バベルの実力を考えれば、きっとそうなんだろうと何故か納得してしまった。

「うぅ・・・」

ちょっと大きな声を出してしまったのと、脅威が去った安心感で体がよろめいて片膝をついてしまうスミレ。

「大丈夫か・・・?毒って、厄介だな」

「ああ、少し休めば、回復すると思う・・・」

「おお、休んどけ、休んどけ。おれの背中で」

「ああ、そうさせて・・・、え?」

さり気なく言われた言葉を、聞き返す暇もなく。

スミレの体は宙に浮いた。

バベルは軽々とスミレの持ち上げて、自身の背中に収めた。

いわゆる、おんぶだった。

「回復術師は仲間が回復したのを確認するのも仕事のうちだからな。このまま、運ぶからゆっくり休んどけ」

「な、な!?おい、降ろせ!こんな、みっともない格好出来るか!」

スミレは抵抗を試みるが、毒のせいで体に力が入らない。

しかし、それを差し引いたとしても、

(な、何だ、コイツの力は・・・!?)

足を完全にロックされ、下半身は動かない。

上半身は自由に動けるが下手に暴れたら、後ろに反り返ってしまい、よりみっともない姿を晒してしまう。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

頭も本格的にクラクラしてきたので、スミレは抵抗をやめて大人しくバベルの背中に見を預けた。

(これは、毒のせいだ・・・)

スミレはそう思うことにした。

せめて誰にも見られませんようにと願いながら・・・


「よう」

「お、お前か・・・」

あっさり、ユリウスとルアンと再会した。

ルアンはユリウスに肩を借りて歩いていた。

「おい、スミレはどうかしたのか?」

「毒にやられてるんだ。毒消しが荷物にあったはずだから取りにいかないと」

ルアンはじーっと、スミレを見つめる。

目を瞑って寝ているようだが。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

スミレの顔は徐々に赤くなっていった。

その様子を確認したら、ルアンは何も言わずスミレから目を外した。

(友達だからな)

と、ルアンは心の中でつぶやいた。

「そっちはどうしたんだ?」

そんなルアンを指差すバベル。

「ルアンも麻痺毒にやられてるんだ。応急処置はしているが、こちらも急いで毒消しが必要だ」

「応急処置?」

「ああ、ポーションを浸した布を巻いただけだがな」

馴染みのない処置にバベルの頭の中は、?で埋まる。

「意味あるのか?」

その言葉にユリウスは眉をひそめる。

「はあ?直接飲むよりも、こうしたほうがポーションの成分が、毒の進行を遅らせるし、症状の緩和をさせるだろ。常識だろ?」

「なんだと・・・?」

「お前、回復術師志望って言ってなかったか?」

バベルは本日二回目のポーションの隠された効能に驚く顔を見せた。

この世界では常識らしい。


「ま、言っても、モンスターの体液まみれのポーションを飲む気になれなかったのが本音だけどな」

ルアンが付け加えた。

一同は、な〜んだと笑いながら、和やかな雰囲気で宿屋へ向かった。


続く

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