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バベルの実習〜明日がほしければ

「はぁ、はぁ」

「ぜぇ、はぁ・・・、つ、次、右です!」

セリーヌとシュレンは、拠点にしていたベースを離れて昨夜泊まった宿屋に向かっていた。

バベルは行方知れずとなった仲間たちを探すことにし、二人は宿屋に戻り、引率教師に報告。

その場で待機することになった。

またモンスターに襲われるかも知れないのでそれが得策だった。

セリーヌがグープスを駆使し、大小問わずモンスターの反応があれば、徹底的に避けて目的地を目指した。

「ア、アップルさん・・・」

「は、はい?」

走りながら移動し、息も乱れているがモンスターにも遭遇せず、目的地も後わずか。

少し余裕が出てきたのか、シュレンがセリーヌに話しかける。

「本当に大丈夫だと、思いますか?」

「スミレさんたちのことですか・・・」

件の行方不明となったスミレ、ルアン、ユリウス。

シュレンとしては、慕っているユリウスの安否が心配だった。

「正直、あの落ちこぼれが一人でどうにかなるとは思えない。すぐに、救助隊を・・・」

落ちこぼれことバベルは、探しに行くといって速攻で消えていった。

行方不明が四人になった瞬間だった。

「う〜ん・・・」

シュレンの言葉に素直に頷かないセリーヌ。

しかし、なんとも複雑そうな顔だ。

「その〜、私としては、もうモンスターの脅威はあんまり感じてないんですよね・・・」

思い浮かべるのはクラスメイトのバベル。

クラスでのバベルの動向に加え、先程もメタルピードを瞬殺した事実がそうさせていた。

「もし、これ以上なにか事態が悪化するとすれば、原因はバベルくんになりそうで・・・」

「・・・・・・」

確かに、とシュレンも思ってしまった。

僅かだが、バベルの尋常ではない行動を見てきたので、確かにその可能性はありそうだと納得してしまった。

話している間に宿屋が見えてきた。


「あ、いた」

「ひぃ!・・・お、おまえか・・・」

セリーヌたちと分かれてから僅か、バベルは洞穴の中でうずくまっているユリウスを見つけた。

バベルに声を掛けられた瞬間、飛び上がるほどに驚いた。

見苦しいところを見られ、周知で顔を赤らめる・・・、余裕はなく青ざめたままだった。

ユリウスの体は、ところどころに傷が見られた。

メタルピードに不意打ちされた時のものと、無我夢中で逃げ回り枝や葉っぱで切ったのだろう。

「ポーション飲んどけ」

その様子を見てバベルはポーションを投げ渡すと、ユリウスは一気に飲み干した。

むせながらも一滴も残さない勢いだった。

「はぁ、はぁ、もっと、ないか・・・?」

「あとは、スミレとルアンの分だよ。おまえは、傷は治っただろ?」

むしろ、喉の乾きが原因のようだ。

「はぁ、はぁ」

ユリウスの傷は見てわかるように癒えているのでポーションは必要なかった。

だが、ユリウスの表情には覇気がなかった。

「もう動けるなら、お前も宿屋に戻ってろ。俺は、残りの二人のとこにポーションを持っていかないといけないから」

「・・・・・・はぁ、はぁ」

ユリウスは息が整わないままその場で座り込んだままだ。

「・・・・・・」

バベルはただ様子をじっと見ていた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「・・・・・・」

ただただ見ていた。

「はぁ・・・。なんだ、その目は・・・」

ユリウスはバベルの視線に耐えきれず、言葉を振り絞って出した。

バベルはそんなユリウスの状態すらも見逃すまいとじっと見ていた。

「ポーションってのは、確かに傷を癒やすが、それは体の傷にしか効かないみたいだな〜と思ってさ。実際、お前は体は万全の状態なのに、動けずにいる。それは回復したと言えるのか?」

バベルは腕を組み、考える。

「魔法の代わりにポーションで人々を癒やそうかと思ったけど、そこまで万能じゃないか〜。やっぱり、なんとかして回復魔法を覚えないとな・・・。ソウスケは、何ていうか心ってやつも癒やしてた気がするな」

良く言えば冷静に、悪く言えば呑気に。

どちらにせよ、現状において相応しくない態度だった。

少なくともユリウスは思った。

「・・・状況がわかっているのか」

「実習中だろ?」

「そればかりだな、貴様は・・・。実習どころじゃないだろ!あんな凶暴なモンスターが現れたんだぞ!僕たちに何が出来ると言うんだ!おまけにメンバーが二人も連れて行かれた!」

「知ってる。怪我をしてるかも知れないから、ポーションを届けないと」

ユリウスの顔は苦々しく歪んでいく。

「出来るわけ無いだろ・・・!ぼ、僕たちはまだ学生なんだ・・・。今日は、ここでやり過ごして、救助隊を待とう。今日は、しょうがないさ・・・。明日は、次はきっと、うまくやれるさ・・・。そうさ!明日はきっと・・・」

ユリウスは膝を抱え蹲ったまま自分に言い聞かせるように呟く。

圧倒的絶望の中で己の無力さ。

仲間の安否よりも自分の安全を優先してしまっている狭量さ。

自分が普段から声高に唱えていた誇りや自信が崩れ去る。

震えは止まらない。

ユリウスは明日も自分のままでいられるのか?

そんな疑問すら覚え始めた。

「あ〜、あれだ!転界人の言葉で『明日になったら本気を出す』って、やつだろ。それ」

「・・・え?」

バベルはか細く放たれたユリウスの言葉を拾った。

「まぁ、好きに生きればいいさ。俺は、多分無理だけど」

話が飲み込めないユリウスをほっといてバベルは続ける。

「俺は回復術師になるために、明日じゃなく今日から本気を出している!」

何の宣言なのか、ユリウスはただ聞くしか出来ない。

「今日を本気で生きていないやつに、明日はこないんじゃないかな。おまえは今日も明日も変わらないんじゃないの?」

「!!」

バベルの言葉にユリウスの中で何かが灯った。

怒りだった。

なんでこんなやつにこんなことをいわれなければいけない!

自分の中で自問自答していたことを他人に言われる筋合いはない。

理屈がどうとかではない。

ムカつくものはムカつく。

バベルと出会ってから腹が立つことばかりだった。

「お?ポーションが後から効いてきたのか?」

「く!」

何か良い返そうとしたがバベルの言葉に遮られた。

立ち上がり、顔は紅潮し、瞳に光が戻る。

ポーションのおかげではない。怒りに寄るものだ。

バベルへの。

いや、ポーションのおかげにしよう。

ユリウスはそう思うことにした。

体も動くようになり、先程よりも余計なことを考えることも無くなった。

「じゃあ、俺は本格的に次に行くわ」

バベルが背を向け行こうとすると、

「待て」

ユリウスが呼び止める。

「僕が逃げ・・・、山中を駆け抜けている最中に戦闘音や破壊音が聞こえた。その音は頂上に向かっていった。おそらく、一人はそこにいるだろう・・・」

「あ、本当?じゃあ、行くわ」

それだけ言うと、バベルはさっさと行ってしまった。

そのフットワークの軽さには呆れるとともに感心してしまった。

「今から頂上に向かうのか・・・」

あいつなら、きっと間に合うだろうな。

奇妙な信頼感が生まれていることにユリウスは気がついていなかった。

まずは元いた場所を目指すことにした。

もしかしたら、もう一人の方を見つけることが出来るかも・・・。

なんて慎重に茂みの中を覗き込みながら、進んでいると、

「ぐあ!!」

聞いた声が、いや、悲鳴が聞こえた。

ユリウスは戸惑いながらも悲鳴の先に向かった。

程なくして、メタルピードに襲われている少女の光景を見つける。

ルアンだった。

見ると右足首が変色していた。麻痺毒の症状で満足に動かすことが出来ずにいるのだろう。

ルアンは石壁を背にしてメタルピードの攻撃を受けていた。

明らかに危機だった。

ユリウスの頭の中は目まぐるしく動いていた。

(どうする?どうする?一旦宿に戻って助けを求めるかいやいや間に合わない。ていうかあの落ちこぼれめなぜここに気づかない?もしかして僕が頂上に迎えって言った所為か?僕の所為か?どうする?どうする?)

不思議な感覚だった。

頭の中で結論が出なくても、体が動いていた。

何をすべきかを体が、心が理解していた。

「そこまでだ!この害虫め!」

「お、お前!?」

ユリウスの姿を見てルアンが驚く。

「我が名は、ユリウス・ナジェータ!我が家名の誇りにかけて、これより貴様を駆除する!!」

ユリウスの声にメタルピードは反応し、ゆっくりとその赤い瞳をユリウスに向ける。

その瞳に見据えられ、ユリウスの体はこわばる。

が、

「《穿つ意思よ、かの石塊に宿れ》」

呪文の詠唱を始めるユリウス。

(怖い、怖い、怖い!死ぬかも知れない!)

魔力を集中させ、発動まで時間がかかる。

その間に、メタルピードがユリウスに飛びかかる。

恐怖で足が動かなかっただけなのか。

ユリウスは魔法の発動に集中しその場に留まる。


今日を本気で生きてないやつに、明日は来ないんじゃないかな。


(うるさい!落ちこぼれめ!!)

死を目前にしても集中を切らさなかった。

モンスターの体を撃ち抜くイメージはあったが、

「間に合わねぇ!!」

ルアンの指摘通り、ユリウスに牙が迫る。

ユリウスも死を覚悟した。

だが、後悔はなかった。自分の誇りに従ったのだから。

ヒュン!

後方から空を斬る音が。

「え!?」

その音をユリウスが知覚した瞬間、メタルピードの頭部が弾け飛んだ。

衝撃で体がよろめくメタルピード。

だが、ムカデのモンスターであるためか、体はまだ動いていた。

ウネウネと目標を見失ったように蠢かせている。

ユリウスは一瞬、呆気にとられたが、このチャンスを見逃さなかった。

「“スパイク・ストーン”!」

放たれた鋭く尖った石の塊。

狙うは一点。先程の謎の攻撃によりむき出しになったメタルピードの体内。

外殻は鋼鉄の硬度。自分の能力では、それらを突き破る威力はない。

自分の能力を理解した上での、最善の一手。

狙い通り、石の塊は体内に入り込み、さらに傷口を広げ、中腹に至るまで突き破った。

そうして、メタルピードはようやく沈黙した。

ユリウスは、メタルピードが完全に死んだことを十分に確認したところで緊張が解けた。

強いモンスターを倒した。その事実が少しずつ達成感に変わり、ユリウスに浸透していく。

何かが変わる気がした。

「?これは・・・」

ほうけてるユリウスは奇妙なものを見つける。

それは、地面にやや斜めに突き刺さった瓶。

「ポーション・・・?」

ユリウスはそれを引き抜き観察をした。

紛れもなくポーションが入った瓶だった。しかも、それは先程自分が飲んだものと同じものだった。

ユリウスは改めて瓶が突き刺さった角度や、メタルピードとの位置関係を確認した。

自分が魔法を発動する前に、メタルピードが受けた攻撃はこれだったのか?

と、いう考えに至った。

「まさかな・・・?」

しかし、例の落ちこぼれの顔も同時に浮かんだ。

そこで、ユリウスは真偽についての思考をやめた。

時間の無駄のような気がした。


続く

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