実習開始〜迫る異変
「はい、いいよ!いいよ!声だしていこう!!」
スミレ、ルアンを前衛で構え、ユリウス、シュレンは後衛に控え、呪文の詠唱をする。
「相手の動きもキレてるよ!よく見て、よく見て!」
迎え撃つは三匹のピッケウルフ。
「後衛!魔法を討つ前にアクションして!前衛と息合わせて!」
ユリウスとシュレンの攻撃魔法に怯んだところをスミレが一気に間合いを詰めて斬りつける。
「向こうも連携あるよ!防御した後の行動もイメージして!」
襲いかかってきたピッケウルフの攻撃を受け止めるルアン。動きが硬直した直後に後ろからスミレが斬る。
「よーし!向こうビビってるよ!一気に行こう!」
ユリウスとシュレンのダブル攻撃魔法で残った一匹を撃退。
「はい、油断しないで!周りをよく見てから、回復とかしよう!ポーションいるー!」
後方で陣を取り、さっきから檄を飛ばしているバベル。
(うるせえなぁ・・・)
みんなの思いは同じだった。
実習開始前、スミレは改めてみんなの前で深々と頭を下げて謝罪をした。
最後まで、実習に渋っていたユリウスも自分よりもランクの高い者が頭を下げている。彼も実習に前向きに参加することを了承したのだった。
いよいよ実習開始となり、意気揚々と出発しようとするバベル。
それを制する一同。
一旦、実習内容を確認することにした。
ピッケウルフの討伐となっているが、周辺に何匹いるか不明だし、出現ポイントも大まかなことしか書かれていない。
まずは、ピッケウルフを探すところから始めなければならない。
さて、どうやって探そうかと頭を悩ませているときに、意外にもセリーヌが手を上げた。
「東の方角に、また二匹いますね。まだ、距離はあるから、一旦体制を整えてから向かいましょう」
セリーヌは掌に収まるほどの長方形の板を見ながら皆に進言する。
みんなはその言葉にうなづきながら、水分補給をしてる。
「ポーションは〜?いらないか〜?」
バベルはポーションを持ちながら、ウロウロしていたが誰からも必要とされていなかった。
「助かったよ、セリーヌ。君が、『グープス』を使えて」
「い、いえ!後方支援も、仕事だから!」
スミレに礼を言われて、笑顔を見せるセリーヌ。
昨日は、まるで路傍の石のように関心を持たれていなかったので嬉しさもひとしおだった。
『グープス』
転界人が持ち込んだ概念であり、技術の一つ。
もともとは『スマホ』や『タブレット』と言われたものだったが、それらを使うには『デンパ』や『ジュウデン』が必要となり、この世界では使うことに制限があった。
しかし、限られた回数でその利便性を目の当たりをした技術者はどうにかして、この世界でも恒久的に再現は出来ないかと研究を始めた。
転界人たちは、連絡手段として使ったり、絵や文章を保存したり、地図を作成したりしていた。
現時点で、再現できるのは後述の二つ。
動力は、持ち主の魔力そのもの。
セリーヌは周辺の地図を映し出し、ピッケウルフの出現ポイントを調べていた。
周辺の魔素を分析し地図を作成。魔素は植物や地面にも含まれているため、それを解析し、グープスの本体である特殊な水晶で出来た板に映し出している。
また、生物も感知するので、地図上にはピッケウルフの居場所も映し出されていた。
移せる範囲は持ち主の魔力次第で、セリーヌは半径200mほど。
表示される情報の精度も持ち主次第、彼女も非常に精密な地図を描いていた。
それはひとえにセリーヌが『結界術師』であることが起因していた。
こうして索敵能力を買われ、セリーヌはグループ内での役割を得ることが出来たのだが、バベルに至っては今のところやることがなかった。
とりあえず、実習に参加している雰囲気を出すため、後方でセリーヌとともに構えたベースポイントでエールを送るだけとなっていた。
「いつでも怪我してもいいよー!」
と、最初は言っていたが、流石にそれはないと、セリーヌに窘められて、前向きな言葉を掛けていた。
「ふふん!やはりはお前は、何の役にも立たないな」
若干、手持ち無沙汰なバベルをあざ笑うユリウス。
「良いんだよ・・・。おれの仕事は、お前たちが怪我をしてからなんだ・・・」
しみじみと未だに使われていないポーションを見つめるバベル。
「だから、早く怪我しろ」
「最悪だな、お前!!」
バベルとユリウスがワチャワチャと言い合いをしていると、
「え?あ、あれ?」
セリーヌが声を上げる。
なにか慌てたようにグープスに指を当て、何やら操作を始めた。
「どうした?」
それに気付いたバベルはユリウスをほっといて、セリーヌに近づく。
「それが、ピッケウルフの反応が消えたの・・・」
先程まで、映し出されていた二つの反応が消えていた。
「その代わりに、違う反応がたくさん出てきて・・・」
それの解析を始めたセリーヌ。
「『土』と『火』が複合しているから、『鉄』属性のモンスターが五匹・・・かな?。結構、大きいよ。こっちに近づいてる」
こっちに近づいてる。
そのセリフに緊張が走る。
「ピッケウルフじゃないんだろ?ほっといて良いんじゃないか?」
実習に関係ないとして、バベルが意見するが、
「貴様・・・、役立たずの上に臆病とは、同仕様もないな」
ユリウスは言い捨てた。
「詳細は知れないが、モンスターが現れたとなったら静観するわけにはいかないだろう!今、この場で迎え撃つ!それが、民を守る貴族の役目というものだ!」
実習が順調なので気が大きくなっているユリウス。
周りに同意を求める。
「・・・確かに実習外のことに、首を突っ込むのはどうかと思うが、ここでその謎のモンスターを視認して情報を得る必要はあるな」
リーダーであるスミレはバベルとユリウスの両方の意見を半分ずつ取り入れた形で、モンスターを迎え撃つが深追いをしないことに決定した。今後のためにも。
不測の事態への対応も実習の一環ということでバベルも納得する。
体制を整えようとしたとき、不意にそれは来た。
「「「「な!?」」」」
森から飛び出した『それ』は、長い体躯をしならせ、攻撃役の四人を弾き飛ばした。
「ぐあ!」
「く!」
その姿を一同、目の当たりをする。
「メタルピード!?」
ムカデ型のモンスター、『メタルピード』。
鋼鉄並みの硬度を持つ外殻と、猛毒を吐き出す口、レグベアーでさえ動けなくする麻痺毒を持つ足。
星5ランクのモンスターで、上級冒険者でも手を焼くと言われている。
「そんな!?この森での生息の記録はないのに!?」
セリーヌは信じられないと言った顔をするが、しかし、それは目の前にいる。
スミレはいち早く態勢を整えたが、側面からもう一匹現れ、鋭い牙を向ける。
ガキィ!!
刀でその牙を受け止めるが、その圧力に押され、森の茂みまで押し込まれてしまった。
「スミレ!」
ルアンが助けに入ろうとするが、足を絡め取られてしまう。
「や、やめろ!!」
そのままメタルピードが現れた方の茂みに引きずり込まれてしまう。
三匹目だった。
「な、なんで、メタルピードがこんなに・・・」
狼狽えるシュレンを見つめるのは、四匹目と五匹目。
セリーヌの見立て通り、メタルピードは五匹出現した。
「ひ、ひ・・・」
絶望的な状況に、ユリウスは全身を震わせながら、後退りする。
モンスターに囲まれたシュレンは腰を抜かしてしまい、そんな彼と目が合う。
たすけて。
言葉にこそならなかったがそう訴えていた。
が、
「うわああああああああああああ!!」
シュレンとは逆方向に走りだし、逃走をしてしまった。
その姿を見たシュレンは、絶望に顔を歪ませる。
「・・・あ、あ、あ」
毒液をまとった牙が近づく。
死が近づく。
「はい、ごめんなさいよ」
ガシッと、牙を掴む少年が現れる。
バベルだった。
一匹めのメタルピードが現れた際、
「はい!来たよ、来たよ!冷静に対処していこう!」
さっきと同様にエールを飛ばし始めたが、みるみる内に仲間たちが倒れ、分散されていく。
「メタルピード!?そんな!?この森での生息の記録はないのに!?」
セリーヌは隣で何やら驚いている。
「さてと、これが終わったらちょうど昼時だな。宿から、弁当ももらったけど、近くに川があったよな?魚でも取るか?」
「呑気なこと言ってる場合じゃないよ!」
緊急事態時に昼ご飯の相談を始めるバベルにセリーヌは突っ込む。
「いやいや、虫ぐらいで大げさだな・・・」
「何言ってるの!星5ランクのモンスターだよ!みんな、やられちゃうよ!!」
「やられるって・・・、死ぬって意味で?」
うんうんと頷くセリーヌと、モンスターに囲まれ尻もちをつくシュレン。
「あれ?誰か死んだら、実習って・・・」
「そんなの終わりに決まってるでしょ!」
「だめじゃん。はい、ごめんなさいよっと」
一瞬でモンスターとシュレンの間に割り込み、毒をまとった牙を掴む。
「え!?」
「えぇ!?」
一瞬で目の前から消えたバベルに驚くセリーヌ。
一瞬で目の前に現れたバベルに驚くシュレン。
「はい、ポーション。とりあえずこいつら抑えているから、向こう行って飲んでこいよ」
空いている方の腕でポーションを渡すバベル。目を丸くしているシュレンを尻目に。
「そ、それが、腰が抜けて・・・」
「え、じゃあ、ポーションを先に飲んで・・・、いやいや、安全地帯でポーションを飲むために、ポーションを飲んでから移動するって、なんかおかしくないか?卵が先か、ワイバーンが先か的な・・・」
何言ってるの?
この非常事態に、どうでも良いことに頭を使い出したバベル。
うーんと、首をひねっているバベルだが、その場に動けずにいるシュレンと、バベルに掴まれて動けずにいるメタルピード。そして、いつの間にか、残る一匹も触覚を掴まれて動きを封じられていた。
しばらく硬直状態が続き、バベルが思いついた。
「あ、そうだ」
といって、二匹のメタルピードを引きずって歩き出した。
「ここを安全地帯にすれば良いんだ」
身の丈以上のあるモンスターを片手で一匹ずつ引きずって歩く姿はシュレンとセリーヌに新たな戦慄を与えていた。
シュレンから十歩ほど離れたところで、
「よし。おーい、もう安全だから、ゆっくりポーションを飲んでてくれ」
バベルが声をかけるが、すぐ目の前に危険なモンスターがまだいる。
なにをもって、安全と判断すれば良いのか。
しかし、シュレンを介抱すべく、セリーヌはシュレンのもとに向かい回復魔法を施す。
未だに緊張状態が解けないシュレンとセリーヌ。
「《轟雷の殺意よ、我が擬鎧に宿れ》」
バベルの全身から稲光が発生し始めた。
「“マスター・ローリング・サンダー”」
激しい光と音があたりを包む。
バベルから放たれた電撃に二匹のメタルピードは、ブスブスと焦げた匂いをさせて、そのまま沈黙する。
黒焦げになったモンスターから手を離し、何事もなかったように二人に近づく。
「タオル持ってる?」
バベルは毒液まみれになった手をセリーヌに見せる。
「そ、それ、平気なの・・・?」
「平気なわけ無いだろ。汚いし、ベトベトするから、手を早く拭きたいんだけど」
思わぬ回答が返ってきたが、とりあえずタオルを渡す。
毒という名の汚れを拭き取るバベル。
きれいに拭き取れて満足げだが、タオルの方は毒に侵されて変色したり、ボロボロになっていた。
バベルの手はピッカピカ。
ちょっと、色々追いつかなかった。
ともあれ、
「さて、とりあえず、バラバラになったあいつ等を探しに行くか」
バベルが言い出す。
「え!本気なの?」
「先生に知らせたほう良いのでは・・・?」
セリーヌとシュレンはバベルの言葉にハラハラしているが、
「怪我しているかも知れないから、ポーションを届けないと」
バベルの言葉はあくまで本気で、絶対に覆らないと悟った。
「今日の俺は、《ポーショナー》だからな!」
続く




