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スミレの過去〜復讐者の刃

「な、何だったんだ・・・」

一部始終を見ていたユリウス。

いや、見ているしか出来なかった。

「さて、飯も終わったし、部屋に戻るか」

「言うと思ったよ!それどころじゃないよ、これ!!どうするの、これ!?」

バベルの言葉にセリーヌも流石にこれこれ物申した。

スミレと大男たちが乱闘したため、テーブルと椅子、食べ物飲み物が散乱し、目も当てられない状態になっていた。

「どうするのって言われても、当事者のスミレは部屋に戻ったしなぁ・・・。後で、あいつに話聞いといてくれる?」

と、バベルはルアンの方を見て言うが、

「ちっ!それどころじゃないって言ってるだろ!」

ルアンはそんなバベルに悪態をつく。

背後で物音がする。

みると、失神していた大男が立ち上がっていた。

「くそ!覚えてろよ!」

と、吐き捨てると外に出ていってしまった。

部下と思われる男たちも次々と出ていく。

ちなみにスキンヘッドの男は未だに意識を取り戻しておらず、抱えられて店外へ。

一番重症のようで、バベルが蹴り飛ばした男だった。

全員が出ていったところで、

「解決したぞ」

「どこがだ!」

「あいつ等のことが気になってたんじゃないのか?」

ユリウスは全員の代わりに心中を語る。

「重要なのは奴らが、あのキルブライトと名乗ったことだ!確かに胡散臭くはあったが、我々にその真偽を確かめる術はないということだ!」

ユリウスは苛立つように頭を掻きながら続ける。

「仮に本物のキルブライトとしたら、僕たちは必ず殺される。偽物だったとしても、悪名高いキルブライトの名を騙るぐらいのイカれた考え無し達だ!どのみち僕らの身が危険ということだ!!」

「大丈夫じゃない?」

本物はこんな喧嘩程度の恨みで殺しはしないし、偽物なら自分が始末してもいいし。

とは、口には出せないので、端的に答えると、そのお気楽さが更にユリウスを怒らせる。

「もう良い!行くぞ、シュレン!」

「ユリウス様、どこへ?」

「帰り支度だ!実習どころではない!」

そう言い残すと、デルフィンの二人は揃って、自室に戻っていく。

ルアンも溜め息を一つ吐き、自室に戻っていく。

彼女はさっきまで暴れていたスミレと同室なのだから、戻りづらくもあるだろう。

残されたリリクルーの二人。

「あれ?そんなに不味いのか?」

「それはそうだよ・・・。こうなったら、多分実習は中止。単位ももらえないよ、はぁ・・・」

深い溜め息を吐き、セリーヌも自室という名の納屋に戻っていく。

一人残されたバベルは思考した。

実習が中止→ヒーラーとしての経験が積めない→ヒーラーになれない

「不味いな、これは」

彼にとっては経験云々の話ではないが、積められる経験は積んでおきたい。

というわけで、バベルは外に出た。


「クソガキが!!」

自称キルブライトの大男は思い切り蹴られた鼻を抑えながら悪態をついた。

宿屋から離れた森の中で、傷の治療を行っていた。

大男は鼻を、子分の四人のうちの三人はスミレに斬られた傷を。

「おまえら!ちょこっと斬られたぐらいでビビってんじゃねえよ!!」

「すいません・・・、親分。いきなりだったもので・・・」

斬られた傷よりも、それに驚いて転んでできた瘤のほうが痛かった。

ちなみの残りの一人は、まだ気絶していた。唯一のバベルの被害者。

「それにしても、いかれたガキでしたね」

「ああ、鬼の形相だったな・・・。親の仇かっての」

「あれは、エピデール学園の制服だったな・・・」

子分が先程のことをくちにしている。

「キルブライトの名前にビビってなかったなぁ・・・」

親分はひとり呟いた。

悪名は高く誰もが知っているがその全貌が明らかになっていない『キルブライト』。

ここ数年、キルブライトの名を騙り、強請り、恐喝などを繰り返して、それに味をしめていたところだ。

あの宿屋はもうだめだ。こんな失態を見せてしまっては、二度と同じ手は使えない。

別の土地で、キルブライトを名乗るか。ここはちょうど気が弱く、事なかれ主義の連中が多かったのでやりやすかったのだ。

別の土地に行くのも面倒くさい。

どうしたものか考えていると・・・、


「ちゃちゃ〜んちゃちゃん、ちゃちゃ〜んちゃちゃん♪」


「あ?」

調子の外れた歌が聞こえてきた。

ここは森の中。今は日没間もないが、あたりは暗い。

男たちは歌が聞こえる先を警戒した。


「ちゃ〜ちゃちゃちゃちゃちゃ〜♪・・・よう!」

バベルだった。

男たちは呆気にとられた。

(追ってきたのか?)

学生服を来たその少年が異様に見えた。

学生に見えるが、冒険者?賞金稼ぎ?

男たちは警戒を強める。

「俺さ、いつもいきなり声をかけるからさ、みんなを驚かせてしまうんだ」

「・・・?」

「だからさ、今日は歌を歌いながら声を掛けてみたんだけど」

滔々と話をするバベルは時間が立つにつれて、男たちには異様度が増していく。

「どう?驚かなかった?」

そんな質問はしたこともされたこともなかった。

「で、ちょっとさ、お前らに話があってきたんだけど・・・」

「うるせえ!!何だお前は!!俺達を誰だと思ってんだ!!」

あまりの恐怖に声を荒げる大男。

獲物の鉈を構え、震えながらもバベルを威嚇。

部下たちも剣やら斧を構えた。

「お、おれたちはな・・・!!」


「人の話を聞く態度じゃないな」


「すいません・・・、でした・・・」

バベルに速攻で殴られ蹴られ叩かれ投げられ絞められで戦意を喪失してしまった。

「あ、あんた、冒険者か?それとも賞金稼ぎか?俺達、実は・・・、キルブライトじゃないんだ・・・。だから、勘弁してくれよ・・・」

スミレとは違った異常性を持ったバベルに大男は涙目で許しを乞う。

「?冒険者と賞金稼ぎって、何の違いがあるの?そんなことより、お前らがキルブライトって名乗ったから、みんな明日の実習をやらないって言い出したんだよ。だからさ・・・」

バベルが事情を語るも、大男は理由がわからないという顔で聞く。

「みんなに謝ってくれない?キルブライトじゃありませんって」

「は?」

「だから、みんなの前で謝って、誤解を解いてくれよ。そしたら、明日の実習出来ると思うからさ」

勘弁してくれ・・・。

体中は痛みで動かないし、恐怖で頭はぐちゃぐちゃ。なんでそんなことをしなければいけないのか。

大男の一味は全員が思った。

「あ、明日でいいですか・・・」

だが、逆らう勇気もなく、その言葉だけ振り絞った。

「だめだめ。みんな、明日の朝帰るって言ってるんだ。今日じゃなきゃ間に合わんだろ」

無慈悲に却下される。

「いや、もう、体が動かなくて・・・」

「実習が中止になるって言ってんだろ?わかんないやつだな」

はい、もうわかりません。

この言葉は飲み込んだ。

中々首を縦に振ろうとしない大男たちにバベルも少々手を拱いている。

そこで、右腕の袖をまくり、

「『灼熱の殺意よ、我が擬刀に宿れ』」

ボソッと、呪文を唱えるバベル。

「《ヒート・ザ・リッパー》」

炎が右腕をまとい、鋭い刃の形になる。

突然の魔法に、大男たちに緊張が走る。

「世の中にはさ、天秤にかけちゃいけないものがあるよな」

バベルは炎の刃を大男たちに向ける。

「俺にとっては、夢とプライドだな・・・。回復術師になることが俺の夢。人を治せるようになりたいって言ってるんだ。だから俺は、人を殺すことをしないということを決めた。これが、俺のプライド・・・」

バベルの瞳は至って真剣だ。

「夢とプライド。どっちかを捨てなければならないのなら、俺は迷いもなくプライドを捨てる」

「ひぃ!!」

「お前ら全員の生首でもあれば、みんな安心して実習をすることが出来るよな?」

大男たちは全身の力を振り絞り、謝罪の承諾をした。


「大変申し訳ありませんでした!!」

大男たちはバベルに連れられ、再び宿屋に赴いた。

ユリウス、セリーヌ、シュレン、ルアンは急に集合させられ、異様な光景を見せられていた。

「え、え〜と・・・、私達は、キルブライトとは何の関係はございません!驚かすようなことを言って、不安にさせたことを心よりお詫びします!!」

言葉遣いから、誠心誠意謝罪していることはわかるが、言葉が丁寧すぎて逆に入ってこなかった。

学生一同が不審に思っている中、さらに不審な存在が。

「あとね・・・」

バベルだ。

大男に耳元でボソボソ何かを言っているようで、

「え、え〜、なので、じっしゅう?ですか、実習は予定通り行っていただきたいです。是が非でも!」

その言葉にバベルはウンウンと頷いていた。満足しているようだ。

「というわけで、これで予定通り実習が出来るな!さあ、明日に向けてそろそろ寝ようぜ」

と、この場を締めようとバベルがみんなに声をかける。

他の複雑そうな顔をしているが、

「ま、面倒ごとが収まったなら、予定通り実習するか・・・」

ルアンは腑に落ちないものの、成績と評価のことを考え明日の実習に賛成する。

「そういえば、スミレは?」

スミレの不在にバベルが尋ねる。

「あいつは部屋にもいなかったよ」

それだけ答えるとルアンは部屋に戻っていった。

ユリウスとシュレンも複雑そうな顔で部屋に戻っていった。

「お前らもじゃあな」

「あ、はい・・・」

大男たちに声を掛けてバベルも納屋に戻る。セリーヌも後に続く。

ちなみに大男たちは普通にお縄についた。

抵抗する気力もなかったようだ。


「もう、何がなんだかわからないよ〜」

セリーヌは納屋に戻るやいなや、簡易ベッドに突っ伏した。

藁俵にシーツをひいただけのものだったが、意外に寝心地は良かった。

同級生の奇行・凶行、強面連中の突然の謝罪などなど、一日で色々ありすぎた。

「なあ、トランプやろうぜ」

奇行担当のバベルは荷物からカードを取り出して提案する。

同年代でお泊りすることなど初めての経験なので少し浮かれていたバベル。

「実は、みんなでやろうと思って持ってきたんだ。他の奴らとは別の部屋になったからさ。なにする?」

「ご、ごめん・・・。明日は実習本番だからさ・・・。もう休ませて・・・」

ぐったりするセリーヌ。

「う〜ん、そっか・・・。そりゃそうだよな。明日に響いたら、いけないもんな」

あっさり引き下がるバベル。その声は心底残念そうな声だったが、セリーヌは気にする余裕はなくそのまま眠りについた。

セリーヌの寝息が響くほど静寂になり、バベルも寝ようかと思ったところだったがある気配を感じた。


風を斬る音が聞こえたバベルはそれを辿った。

森の奥に開けた場所があり、そこで刀を素振りしている少女がいた。スミレだ。

一心不乱に刀を振る姿は先程のような鬼気迫るものがあり、声をかけるのも憚れる。

「お〜い、スミレ〜」

が、そこはバベル。何の気負いもなしにスミレに話しかける。

バベルに声を掛けられ、素振りを辞める。

バベルの姿を見ると、苦い顔をして顔を背ける。

「実はさ、さっきの連中が謝りに来てたんだ。キルブライトってのは、嘘だったんだ。だから、明日は安心して、実習に行けるぞ」

「!?・・・」

キルブライト。

その名前が出たとき、スミレの顔が一瞬こわばる。

「・・・そうか」

スミレはか細い声でそれだけ答える。

「うん、そう。じゃあ、明日は実習だから、早く寝ろよ」

といい、バベルは早々に宿に引き返そうとする。

「何も聞かないのか?」

「何をよ?」

スミレの問にキョトンとした顔で答えるバベル。

全く興味がないと言った顔だ。

「・・・お前は、キルブライトをどこまで知っている?」

少し、ドキリとした。

「その正体は知られていないが、その悪名だけは誰もが知っている謎の一族だ」

「・・・だな」

「・・・私は、その一人に会ったことがある」

刀の柄を握っている手に力がこもる。

「父の仇だ」


あの日のことは忘れたことはなかった。

雲一つ無い満月の夜のことだった。

私が九歳の頃だった。ある王国の護衛剣士として派遣されていた父が、変わり果てた姿で戻ってきた。

私の前に現れた男。黒衣の鎧を身に纏い、身の丈ほどのある大剣を携えていた。

その男は私に二つのものを寄越した。父の首と、胴体だった。

剣の師でもあった父が惨殺されたことを受け入れることが出来ず、その場でただ泣きわめくことしか出来なかった。

男は静かに、しかし、はっきりとした声で私に言った。

「この男は確かな正義を持って俺に立ち塞がった。故に切り捨てた。俺が憎いか?ならば、いつでも来るが良い。仇討ちがお前の正義ならば」

そして、

「俺の名はーーー」


「『タイラント・キルブライト』。そう私に名乗った」

苦々しい記憶を掘り起こし、眉間に歪ませるスミレ。

「私はその男を探したが、何も情報は得ることは出来なかった。そもそもキルブライト自体が謎に包まれた存在だからな。奴らはまるで亡霊のようだ。その名前は知られているが、その姿は明かされておらず、だが、恐れられている」

刀を握る手が震える。

先程の一件。

キルブライトと聞いて、スミレはただ闇雲に刀を振るったに過ぎなかった。

そこには誇りや正義などはなく、怒りや悲しみでもなかった。

恐怖だった。

スミレは自身の恐怖を振り払うように剣を振るった。

醜い剣だった。

『頭冷やせよ』

そんな中、バベルに掛けられた言葉で冷静さを取り戻すことが出来た。

バベルとは出会ったばかりだが、なぜかその言葉は響いた。

「先程はみっともないところを見せてしまった。済まなかった」

改めてスミレはバベルに頭を下げた。

当のバベルはと言うと、

(仇って、『兄ちゃん』のことだったのか・・・)

スミレの話を聞いて、ピンときていた。

特徴や兄の活動時期を考えて、そういえば同じ時期にそんな話をした覚えがあった。

(う〜ん、正直に言うわけにもいかないしなぁ・・・)

割と重い話をされたが、バベルには興味がなかった。

ここでそれは自分の兄だと言ったところで、また話がややこしくなるのも億劫だった。

「だが、いずれその男と対峙することが出来たのなら、私は迷いなく刀を振るう!父の正義や私の信念に恥じぬように、怒りや恐怖に身を任せずに、復讐を果たして見せる」

「良いじゃないか。じゃあ、明日の実習もその意気で頑張ろうぜ!」

スミレの決意表明にそう返すバベル。

「・・・復讐は間違ってるとか、言われると思ったんだがな」

まさか肯定されるとは思わなかったので、面を食らってしまった。

「なんで?復讐は誰にでもある権利だろ?したければすればいいし、お前が決めれば良い。問題はお前の刀が、にい・・・、その、タイラントに届くかどうかだ。結局お前次第だろ?」

それだけ言うと、「帰ろうぜ」とスミレを促す。

「・・・」

スミレはバベルの後ろ姿を見て、

「・・・復讐は誰にでもある権利、か。危ないやつだな・・・」

素直に思った。

なぜか、口元は緩んでいた。


続く


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