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3つのひと悶着〜凶行

セリーヌの心配をよそに、実習前でさえ、ひと悶着がいくつも起こる。


ひと悶着目。

部屋割編。

「ええ〜!!」

セリーヌは宿のロビーでとんでもないことを言われた。

「言ったとおりだ、手配されている部屋はロゼルとデルフィンで使う。リリクルーのお前らは、宿屋の納屋がある。そこで寝るが良い。宿屋の方には話をつけている」

もともと、男女で分かれて使う予定なのだが、ユリウスがそんなことを言い出す。

他のルアンやシュレンは、ニヤニヤと二人を見ているだけだった。

スミレは興味がないのか、我関せずと言った感じでそっぽを向いている。

流石にこんな差別的な扱いを受け、抗議の声を上げようとするが一人ではそれも出来ないセリーヌ。

隣にいるバベルをチラチラ見て、その視線に気付くバベル。

「ん?俺は別にどっちでも良いよ。大事なのは明日の実習だろ」

「えぇ!そういう問題じゃないんだけど・・・」

年頃の男女が狭い部屋の中で一晩。セリーヌはそっちの心配をしている。

同じ女子であるスミレとルアンはそういったことは指摘をしようともしない。

自分のことは本当に関心がないのだと、セリーヌは愕然とする。

「まあまあ、ユリウスも『わざわざ』宿の人に確認して、納屋を使えるようにしてくれたんだ。ここは、ユリウスの顔を立ててやろう」

「いらんことを言うな!!」

バベルとしてはユリウスに今度こそ恥をかかせまいと気を使ったつもりだが、『わざわざ』の部分にカチンと来ていたユリウス。

バベルの言葉に「う〜ん・・・」と少し悩んだ後に、渋々だが了承した。

「ま、大丈夫か。バベルくんには、バットくんがいるし・・・」

という、言葉を残しながら。


二悶着目(ひと悶着 その二)

作戦会議編。

部屋に荷物を置くと、実習に向けての作戦会議をすることになった。

全員が男子の部屋に集まる。

「どうだ?お前たちの部屋は」

「広いよ」

ユリウスは皮肉混じりにバベルに尋ねるが、実際に意外に納屋が広かったためバベルは特に困っていなかった。

「始めるぞ」

二人のやり取りは、無視してリーダーとなったスミレが開始の号令を出す。

まずは、実習の内容についてだ。

畑を荒らすピッケウルフの討伐。ピッケウルフとは、狼型のモンスターで体毛が硬く鋭い針のようになっている。素早い動きと鋭い牙と爪を持ちながら、体毛は防御と攻撃の両方を兼ね備えている。

「セオリーで行けば、後衛が魔法で牽制をして、前衛がとどめを刺す。前衛はもちろん、ロゼルの私達が務めよう。後衛は・・・」

「無論、僕たち、デルフィンに任せてもらおう。僕の得意魔法は、『土』属性でね。ピッケウルフの防御を見事、無効化してみせよう!」

ユリウスの宣言にシュレンはパチパチと拍手を送る。

「では、任せる。ピッケウルフの防御力なら、私の刀とルアンの斧で十分に倒せることが出来る」

「今回の実習は楽勝だな!」

作戦の方針も決まり実習の成功を確信するロゼルとデルフィンの面々。

「で、お前たちはどうする?」

完全に蚊帳の外になっているリリクルーの二人に話を振る。

セリーヌは急に話を振られ、ビクッと体を震わせる。

バベルはなぜか教本を読み込んでいた。

「ふむふむ、『ヒーラーは安全地帯を確保しておくことが重要である。特に自身が回復に集中できる環境を作っておくのもヒーラーの役目である』か」

作戦会議中にふむふむと教本を読んでいるバベルに注目が集まる。悪い意味で。

「よし!!俺達の仕事だったな」

一応、話は聞いていたようだ。

「とりあえずデルフィンより後方でベースを作って、待機してる。回復が必要なら声を掛けてくれ。負傷者が出たときは回復を優先したポジション変更を、攻撃役が更に話し合っておいてくれ。場合によっては、撤退を想定した経路もこちらで確保しておくから」

バベルからまともな発言が出され、全員面を食らう。

「ふ、ふん!話を聞いていたのか?この実習は我々がいるだけで十分なんだ。後方で待機だと?お前は、ピクニックにでも行くつもりなのか?」

意外と建設的な意見が出されたのでユリウスは驚くが、ただ納得するのも癪と考えたのか嫌味を言ってしまう。

「おいおい、ピクニック気分で実習に向かうつもりか?」

これはバベルの言葉。

「いくら簡単な内容とはいえ、そんな心持ちだと足元を救われかねないぞ。それぞれがそれぞれの課題に真摯に向き合うことが一番大事なんじゃないのか?」

「んが・・・・!?」

またも正論で返され、言葉を失うぐらいの、行き場のない怒りの感情がユリウスを支配する。

他の面々もバベルに言われることに少々腑に落ちないが、

(まあ、確かに)

と、納得し、遺恨が残ったのはユリウスのみだった・・・。


三悶着目(ひと悶着 その三)

そして、それは起こった。


時間は、夕方六時。

日も暮れ、あたりがオレンジ色に染まる頃、バベルたちは明日の備え、食堂で食事を取っていた。

小さい宿だが学園が手配していたためか、豪華なメニューが並んだ。

舌が肥えている貴族たちも、「まあまあだな」と言うような視線を送りながら、スプーンとフォークを進めていく。

スミレ、ユリウス、シュレンは貴族らしくマナーを重んじながら礼儀正しく、ルアンは豪快に、セリーヌは少し濃いめな味付けが好みだったようで舌鼓を打っている。

バベルはというと、

「もぐもぐもぐ・・・」

ただただ、普通に食べている。

うまいとも、不味いとも何も言わずにひたすらに。

このバベルの態度を不審に思ったせいで、テーブルでは会話はなかった。

何かと騒がしい男が、目立ったリアクションをしないことが何故か不気味に感じてならなかった。

ユリウスも気になり、なにか一言嫌味でも言ってやろうかとも思ったが、バベルに声を掛けても結局腹を立てるだけなので、今は沈黙をしている。貴族は、食事時だからこそ、平静を。

そんな空気を察しているのかいないのか、上機嫌なセリーヌがついにバベルに声をかけた。

「バベルくん、これ美味しいね」

ニコニコしながら、鶏肉の煮込み料理頬張っているセリーヌ。

バベルもちょうど同じものを口にしていた。

「へ〜、美味しいのか・・・、これ」

セリーヌとのテンションの差に皆が注目する。

「あれ?口に合わなかった?」

「ていうより、俺、味覚音痴ってやつだからさ」

つまらなそうに答えるバベル。

「ふん!昔から、ろくなものを食していなかっただけだろ?我々とは、育ちからして違うという証明だな」

と、ユリウスが・・・、ではなく、その取り巻きのシュレンが言った。

どうやらユリウスの心情を量り、代弁したということらしい。

(そうそう、それそれ)

と、ユリウスが視線を送り、シュレンは笑顔と会釈で返した。

「まあ、昔から味覚を遮断するように訓練してきたからな」

「え?」

意外な返答が帰ってきた。

「食べるってことは人間にとって大事なことだろ?でも、味覚が発達すればするほど、逆に抵抗が出てくることない?」

貴族連中は、思い当たるフシがある。

確かに、外食する際は必ず実家の高級料理と比べてしまい、それと劣るものは食べる価値がないとさえ思うときもある。

「緊急時にその思考に至ってしまえば、生き残ることが難しくなってしまう。子どもの頃から、食物からだけでなく、ワームのように泥を食っても栄養が取れるように『改造』されてきた。そのためには味覚が最大の枷だったからな・・・」

食事にこだわりがないようで、つまらなそうな口調で語るバベル。

「これ、食べる?おいしいよ」

セリーヌはそっと特製ドレッシングがかかったサラダをバベルに差し出す。

「え?あ、うん」

モソモソと頂くバベル。表情は変わらなかった。

「まあ、飯よりも俺はこの後に楽しみがあるからな」

ニヤッと笑うバベル。

誰かが、なんのことを言っているのか聞こうとしたが店内に響く大声が遮った。


「おい、おやじ!酒だ、酒だ!!」

ぎゃははははと下品な笑い声とともに五人の男たちが入ってきた。

ボサボサ頭の大男を筆頭に剣や斧を携えており、冒険者というより山賊という印象だ。

無遠慮にドカッと椅子に座り、大声で会話を始めて食堂内が騒がしくなった。

「ふん、下品な連中だ」

ユリウスは吐き捨てるように言う。

スミレは口を拭い、立ち上がる。

「スミレ?」

「騒がしくなってきたから、私は部屋に戻る」

ルアンの言葉に端的に応え、さっさと部屋に戻ろうとするスミレ。

「うるさいやつらだな」

バベルは男たちに酒を運ぼうとしている給仕に声をかけた。

「すいません。あいつ等なんなんですか?うるさいんだけど」

「も、申し訳ありません!え〜と、あの方々は・・・」

給仕は足を止め、バベルの問に答えようとする。

給仕にとっては、バベルたちは大口の顧客に違いなく、素っ気なくするわけにもいかなかったのだろう。

「おい!酒だって言ってんだろ!!」

足を止めた給仕に怒鳴る大男。

「俺達を誰だと思ってんだ!?ああん!!俺達は・・・」


「キルブライト・ファミリーだぞ!!」


食堂のないの空気が凍る。

「キルブライトだと!?」

「本当か?」

「やべえよ、目を合わすな」

あちこちから聞こえる声は、恐怖の感情が混じっていた。

他の客たちは男たちから目を逸らし、うつむきながら食事を続けた。

まるで食堂内を支配したような感覚に満足が言ったような表情を見せる男たち。

しかし、一人の少年が凝視しているのにも気付いた。


「お、おい!じろじろみるな!」

ユリウスが咎めているが、バベルには聞こえなかった。

(親戚かな?見たこと無い顔だけどなぁ)

バベルが凝視していると、自称キルブライト・ファミリーの中にいるスキンヘッドの男がバベルたちのテーブルに近づいた。

「おい!ガキ、何見てんだ!」

「じ〜」

近づいた男を凝視するバベル。

「俺達を誰だと思ってんだ!」

(う〜ん、父ちゃんにも兄ちゃんにも似てないし、だいぶ遠い親戚か)

バベル自身、これまで家族以外のキルブライトの名を持つ者に出会ったことがなかった。親戚はいるという話は聞いたことはある。生きていれば。

「お、おい・・・。見過ぎじゃねえか?」

マジマジと見つめ続けるバベル。

イライラする男。

ハラハラするユリウスやセリーヌ達。

誰もが膠着した状態となったが、


「キルブライト・・・」


「「え?」」

低くつぶやかれた言葉にバベルと男が反応する。

スミレが男の背後に立っていた。

その表情は、怒りの形相をしていた。

「!?」

それはスキンヘッドの男をひるませるほどに、

(あ、これ殺気だ。なんで?)

バベルが疑問に思っている内に、スミレは手にした刀を振り下ろす。

その軌跡の先はスキンヘッドの男。

刃が男に触れるまでの刹那、バベルの脳裏によぎる言葉。


「いいですか〜?実習先で〜、なにか問題を起こせば〜、実習は〜、即座に〜、中止です〜。落ちこぼれならまだしも〜、素行も悪ければ〜、お手上げです〜。バベルくん〜、せめて大人しくしててください〜」

「なんで、俺に言うんですか?」


(あれ?スミレ、これは殺す気だな。なんで?まてよ、実習先で殺人はやっぱり不味いか?スミレもなんで殺そうとしてんの?一応、今も実習の一環だろうから、やっぱり不味いか)

この思考までわずか。

その瞬間、バベルは男を蹴り飛ばし、スミレの刃を回避させた。

刀が空を切り、刃が床を斬りつける。

「くっ!」

そのスピードが故にバベルの蹴りには目が追いつかず、男が避けたように見え、忌々しく睨みつける。

しかし、男はただ蹴られただけなので、ただ激突するだけだった。

仲間達のテーブルに。

「てめえら、何しやがる!!」

いきなり白目を向いた仲間が飛んできたわけだから、怒らないわけがない。

スミレはその怒りをものともせず、再び刀を構えて男たちに向かっていく。

(何だよコイツ。なにをそんなにイライラしてんだ?)

なんて考えている内にスミレは、その勢いに押されて怯んでしまった二人を斬りつけていた。

「あ」

「ぎゃあ!」とうめき声を上げて倒れる者は、追撃せず新たにもう一人を斬りつけ、リーダーらしき男とサシで対峙するスミレ。

「お、おい!なんのつもりだ!?」

「黙れ!!」

リーダーの大男に斬ってかかるが、明らかに大振り。大男はそれをかろうじて避ける。

「お前たちは、キルブライトなのだろう!お前たちを斬る理由は、それだけで十分だ!」

スミレの気迫が本物であることを悟り、焦った様子の大男。

携えていた鉈のような大きな刃物を手に取る。

「ぶっ殺してやる!!」

「やってみろ!!」

大男が振りかざした鉈を、スミレは自身の刃で受け流し、大男はバランスを崩す。

スミレは足払いをし、簡単に体を倒される大男。

その上、

ガン!!

「ぐぎゃ!」

倒れた大男の顔面を蹴り飛ばした。

大男は鼻血を流し、失神してしまう。

スミレは荒い息を吐き、その目は落ち着くことはなく更に殺気に満ちていく。

失神している大男に近づき、刃の先を向ける。

狙いは首元。

スミレはその手に力を込める。

刃を突きつけ・・・、

「はい、ストップ。流石にそれは不味いだろ」

手首を捕まれ、それ以上刃が動かなかった。

バベルの手だった。

スミレの怒りが想像以上だったので、口で言っても止まらないだろうと判断したバベル。

だったら、多少好きに暴れさせて、スッキリさせたほうが良いかと。

しかし、こんな公衆の面前で殺しをさせてしまっては実習に弊害が出てしまう。

というわけで、スミレの凶行に待ったをかけた次第だ。

バベルを睨みつけるスミレ。

バシャ!!

「!?」

傍にあった水差しに入っていた水をスミレの顔にかける。

「頭冷やせよ」

「ーーーー!」

不意に冷たい水をかけられ、視界がクリアになっていく。

それと同時に頭の中もクリアになる感覚を覚えるスミレ。

周りを見渡すと、そこには自身に向けられた畏怖の視線。

自身が大暴れした記憶が蘇る。

「く!!」

スミレはその場から逃げ出すように食堂を後にした。


続く

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