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魔素鑑定〜バベルの可能性

「いや、本当に申し訳ない。ごめんなさい」

バベルは朝一で、デルフィン2の教室に向かい、ユリウスに深々と謝罪した。

ユリウスはバベルの顔を見るやいなや、昨日のことを思い出し、こめかみを引くつかせた。

いつもの取り巻きたちもユリウスの後ろに控え、バベルを睨みつける。

「よくもまぁ、その顔を見せに来れたな。僕が、どんな屈辱を受けたかも知らずに」

「重ね重ね申し訳なかった。屈辱を晴らすための決闘だったのに、さらに屈辱を与えてしまったみたいで・・・」

「あぁ!もうこれ以上にない屈辱だよ!!」

まず、ユリウスは決闘を行う際、教師に野外実習場の許可をもらいにいった。

使用目的を『決闘』と正直に伝えたところ、入学初日から決闘をするとは何事だと小言を言われ、渋々授業の予習のためと申請し直した。これだけでも出鼻をくじかれた感は有った。その上、バベルがいつまで立っても来なかったので、学園の閉門時間になり、件の教師から帰宅するように言われた。その際、その教師の目は「あれ?決闘じゃないの?」という目をされ、それ以降、目を合わさないようにして帰宅した。あの後、なんて言われているかを想像するだけで顔から火が出そうだった。

「何があったがわからないが、俺は謝ることしかできない」

ユリウスのバックボーンは流石にバベルにもわからなかった。

「“ドゥゲッツァ”だ・・・」

ユリウスは怒りで震えながら呟いた。

「今、この場で、ドゥゲッツァをしろ!」

ドゥゲッツァとは、謝罪を最大限に表すスタイルのことだった。

その起源は、転界人が最初に行ったことに始まり、その潔さや美しさ、また、その屈辱的なポーズは当時の人々の心を打ち、まさに謝罪をするために生まれたポーズだと、瞬く間に、この世界の常識となった。。もともとは“ドゲザ”というそうだが、なんやかんやあり、この発音となった。

「わかった」

「おい、本気かよ?」

バベルが両膝をついたところで、隣にいたバットが尋ねる。

実はずっといた。


昨日は、いつの間にか、冒険者ギルドから姿を消し、それっきりだった。

が、今朝、何食わぬ顔でバベルに話しかけていた。

バベル自身も気にしていなかったが。

「おはよう、決闘どうなった?」

「忘れてた」

なんて会話をして。


「当たり前だろ。もともとは俺が約束を破ったのが悪かったわけだし」

さらに両手をついた。

その姿にユリウスは溜飲が下がったのか、勝ち誇った顔をした。

「たとえ、どんなどうでも良いやつとの、どうでも良い事であっても、一度交わした約束なんだ。破って良い理由にはならないからな」

バベルの言葉に、一気に沸点に達するユリウス。

「さっさとやれ!頭もこの床に打ち付けるぐらい深々と下げろ!!」

ユリウスは自然石でできた廊下の床をダンダンと踏み鳴らしながら喚き散らした。

「いわずもがなだぜ!」

ゴン!!

「ごめんなさい!!」

バベルは思い切り頭を打ち付けながら、謝罪した。

ピシッ!

バベルが打ち付けた部分からヒビが入った。

「へ!?」

ヒビは大きな亀裂に変わるまで、さほど時間はかからなかった。

ユリウスがあっけにとられている間、

「む、まだ足りないか?」

という、声と同時に、さらにけたたましい破壊音と謝罪の声が響く。

ゴン!ゴン!ゴン!

「ごめんなさい!申し訳ない!勘弁してくれ!!」

謝罪のたびに、頭を打ち付けていく。

床の亀裂はますます大きくなり、そこら変に石の欠片などが飛び散っていった。

廊下がますます破損していくのを目の当たりにして、ユリウスは流石に不味い、というか危険と感じた。

「もう、いい!!わかった!わかったから!もうやめろ!!」

「あ、許してくれるのか」

パッと、顔を上げるバベル。

明るい顔になったバベルに対し、ユリウスはギョッとした。

硬い床を激しく額を打ち付けたにも関わらず、バベルの額には傷一つついていなかった。

そのうえ、廊下の破壊跡の中心が見えた。

「あ、あぁ・・・」

その異常さにユリウスたちのみならず、バベル側にいるはずのバットでさえも顔を青ざめていた。


ゴーン!ゴーン!ゴーン!


「あ、ホームルームが始まるな。じゃあ、またな」

バベルは何事もなかったように立ち上がり、にこやかに去っていく。

心のつっかえが取れたようで晴れやかだった。

バットは何も言わずその後ろをついていく。考えるのをやめたようだ。

「なんなんだ、あいつは・・・?」

その後ろ姿を見ながら、ユリウスは呟いた。

「ん?おい、お前たち、ホームルームが始まるぞ。早く、教室に入れ」

担任教師に声をかけられ、我に返る。言われた通り、教室に入ろうとしたが、

「む!おまえたち、なんだこれは!?」

教師は廊下の亀裂を見て、その場にいたユリウスたちを糾弾する。

「こ、これは、あのリリクルーの奴らが・・・、あ、もう、いない・・・」

すでに、バベルたちの姿は見えなかった。

「バカを言え!リリクルーの生徒たちが、この床を壊すことができるはずがないだろう!」

確かに!と、ユリウスたちも思った。一番、攻撃力とは無縁のクラスとされているため、物理だろうと魔法だろうとこんな芸当はできないものだと。

なんていったものかと、ユリウスはアワアワしていると、教師の目が光る。

「ははぁ・・・、お前はナジェータ家三男、ユリウス・ナジェータだったな」

「は、はい・・・」

「確かに、ナジェータ伯爵家はこの国において、多大な貢献をしているが、それは今、この学園において関係のないことだ!」

「え?」

「伯爵家の威光を借り、この学園で好き勝手に振る舞えると思うな!」

要は、お前たちがやったんだろ!と暗に言っていた。

「い、いえ、ですから・・・」

ユリウスの弁明を遮るように、

「お前たちは今、このデルフィンの生徒である以上、魔法を使うものとしての心構えとその責任!引いては、貴族としてあるべき姿を叩き込む義務がこのわたしにはある!今日からの授業、覚悟しておけ!」

「な・・・!?」

早々に、教師の勘違いで目をつけられてしまったユリウス。

(これも、あいつのせいだ!!)

バベルの顔を思い浮かべるユリウス。

まぁ、間違ってはいない。


「許してもらえてよかった」

「いや、あれ、引いてただけだろ」

新たな恨みをかっていることも知らずにバベルはスッキリした気持ちで教室に向かっていた。


教室に入り、バベルはみんなにそこそこ挨拶して席につく。

程なくして担任のメリルが何かを抱えながら、入室した。

「みなさん〜、おはようございます〜。え〜と、早速ですが〜、出欠の確認ですね〜。と、言っても〜、9人しか〜、いないので〜、目視でできるので〜、楽です〜。欠席〜、1人〜。はい〜、終わり〜。この瞬間だけ〜、このクラスの担任で〜、よかったな〜、と、思います〜」

相変わらず言わなくても良いことを言っている。

メリルは持ってきた荷物を教卓に置く。

それは水晶の形をしていた。

「それでは〜、本格的に〜、授業を〜、始める前に〜、まず、皆さんの〜、魔素鑑定を〜、行います〜」

魔素とはこの世界における魔力の源である。

それはすべての生物が持つものであり、その量や特性によって、得意な魔法が判明したりする。

色で識別できて、赤なら火属性、青なら水属性といった感じだ。

「と、いっても〜、みなさんは〜、落ちこぼれですから〜、どんな色が出ても〜、対して意味があるとは〜、思えないので〜、まあ〜、パーソナルカラ〜の参考にして〜、普段の〜、コーディネートにでも〜、活かしてみては〜どうでしょうか〜」

魔素鑑定とは、自身が持つ魔素の特性の色を調べることができる。

「それでは〜、前の席の方から〜、どうぞ〜」

自身の暴言を自覚していないのか、メリルは何食わぬ顔で生徒たちを促す。

最初はレイニーだった。

右手を水晶にかざすと、水色の光を放った。

「なるほど〜、レイニーさんは〜、氷魔法や水魔法が得意なんですね〜。水の属性は〜、回復魔法〜とも〜、密接な関係があるので〜、このクラスの〜、希望ですね〜。いわゆる〜、掃き溜めに〜、フェニックスと言ったとこですね〜」

「あ、ありがとうございます・・・」

メリルの言葉に、やや引き攣るレイニー。普通に褒められないのかこの教師は。

みんなが思った。

そうして、次々と測定(とメリルの毒舌)が進み、順番はバベルの前まで来た。

「あら〜?ミリーさん〜、魔素の色が〜、薄いですね〜。魔法適性は〜、低いようです〜。このクラスで〜、よかったですね〜。ここには〜、いろんなタイプの〜、落ちこぼれがいますから〜。その中の〜、1人に〜、過ぎませんので〜、気にしなくてもいいですよ〜」

「・・・はい」

ミリーは無表情で毒舌を交わし、席に戻る。バベルの隣の席だが、その表情からは何も読み取れなかった。

「はい〜、次の方〜」

バベルの番だ。

バベルはこの魔素鑑定の経験はなかった。なので、自分がどんな特性を持っているか興味があった。

それは回復魔法を会得する重要なヒントになる気がしていた。

バベルは右手をかざすと、水晶は真っ黒になった。

クラス中がどよめいた。

夜空のような黒ではなく、何かが焼け焦げたような淀んだ黒だった。

「先生、俺には回復魔法の才能は有りそうですか?」

バベルは自身の結果を聞くと、

「ない〜ですね〜」

即答だった。

「この黒は〜、異常です〜。闇属性とも〜、違いますし〜、いろんな、属性が〜、混じり合っているようですが〜、この淀み具合は〜、おそらく〜、バベルくんの〜性質?が〜、関係してそうです〜」

魔素鑑定士の資格を持つメリルも見たことはないようだ。

「淀んだ〜黒は〜、慈愛の性質と〜、真逆の性質です〜。回復魔法には〜、慈愛の心が〜、必要なのです〜。つまり〜、バベルくんには〜、思いやりも〜、優しさも無い〜、クソ野郎ということになります〜」

「ひどい!」

急に性格判断されて、バベルは流石に傷ついた。

しかし、そこでめげないのがバベルの良いところ。

「ある!あるある!俺にもきっと、回復魔法の素質がある!」

バベルはかざした手に力を込め、振り絞るように念じた。

「出ろぉ!出ろぉ!!俺の、まだ見ぬ才能ぅ!!」

水晶はますます黒く染まっていき、もはやくすんだ黒い鉄球のようになっていった。

「あ、あの〜、そのへんで〜」

メリルが制止しようとするが、バベルの耳には届かなかった。

(最初の授業で、可能性ゼロって決めつけられてたまるかぁ!!)

正確には、授業ではないホームルーム。

バベルが回復魔法にかける思いは並々ならない思いがある。

手に込める力も、それに比例していた。

「うおおおおおおおお!」

そして、その時がやってきた。

バリン!!

水晶が砕け散ってしまった。

クラス中がその光景を見て、息を呑む。

本来ならあり得ない光景だった。

「な、な、な、・・・」

メリルが声を震わせて、

「なんてことをするんですか〜〜〜!」

いつもの間延びしている口調だが、明らかに怒っていた。

「大事な〜、学園の〜、備品なのですよ〜!もっと、丁寧に〜、扱ってください〜!!」

生徒たちは、「え?そこなの?」と耳を疑う。

「バベルくん〜。壊すことは〜、誰でもできるんですよ〜。世界中のものは〜、必ず〜、誰かの手によって〜、作られています〜。壊すことで〜、自分を〜、強く見せようなんてすることは〜、そんな人たちに〜、対する〜、不敬行為であり〜、最低行為なんですよ〜」

どこかで言われたような言葉で、反論できないバベル。

「い、いや、でも、わざとじゃないんで・・・」

その一点だけ、反論するが、却下される。

「結果が〜、全てです〜。何よりも〜、この件で〜、怒られるのはわたしなんですよ〜。この測定機〜、ものすごく高価なんですから〜。わたしの評価が下がるだけでなく〜、お給料も〜、引かれるのは〜、たまったもんじゃありません〜」

「す、すいません・・・」

結局、バベルが弁償ということになり、実家に立て替えてもらうわけにはいかないので、今年度中に自身で支払うということで収まった。メリルの怒りが。


飛び散った水晶の破片を、『そいつ』は拾った。

マジマジと見るが、やはりそれは特殊加工された水晶でちょっとやそっとのことでは壊れない代物だった。

ましてや、測定中に、魔素を流しただけで壊れてしまうことなど聞いたことがなかった。

(バベル・ロクハラ。いや、バベル・キルブライトか・・・)

彼を監視し始めてから、たった2日だが、その行動には驚かされるものばかりだった。

自身の運命を恨んだ。

『死神』の声が脳裏に浮かぶ。


「バベルが退学しないようにフォローしろ」


なにをどうすれば良いのだろう・・・。

そっと、頭を抱えた。


続く


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