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序章

人間にはそれぞれ才能がある。

学問、運動、料理、芸術などなど。

『この世界』で言えば、剣、魔法、武術の才能は喉から手が出るほどだ。

誰もが才能を望み、それを活かし、己の人生を豊かにしたいと欲している。


それはこの世界『ステイトス』でも同じ。

自分が生まれた世界であろうと、異世界であろうと。


バベル・キルブライト。

十五歳になるこの少年は、戦闘の才能があった。

生家の方針もあり、その才能を幼少の頃から磨き続けてきた。

あらゆる武術を体得し、あらゆる攻撃魔法を会得していた。

その実力は、この世界に生息する巨大モンスターでさえ単騎で殺処分できるほどだ。

そして、そんな彼には『夢』が有った。


キルブライト家、古城にて。

「話とは何だ、バベルよ」

鋭い眼光をした赤髪の大男が目の前の息子、バベルに問う。

「父さん!・・・いや、父上、お話があります!」

珍しく自分の父親を敬称で呼ぶ、同じく赤髪の少年・バベル。

そんな、息子の様子にただ事ではないと気付く。

バベルはひと呼吸し、意を決して嘆願する。


「父上!私は回復術師ヒーラーになりたいと思います!!」


「まあ、父上も多少頭に血が上っただけだ。あまり気にするな」

「そうしたいけど・・・。ま、やっぱ怒るよね」

案の定しこたま怒られた上に強めの攻撃魔法を喰らわされて、バベルは「たはは」と苦笑いを浮かべる。

時間は夜。

バベルは兄と二人でいた。

「まったく・・・、子どもの頃から、父上はもちろん、俺や兄貴たちから魔法や戦闘術をみっちり仕込んでやったていうのに、何を好んで回復術師になりたいんだか・・・」

バベルをジト目でみながらいうものの、

「ま、まだまだ子どもってことだな。なら、今は自分のやりたいことをやればいいさ。たぶん、お前のその経験もいずれは我がキルブライト家の財産になるときが来るさ。父上もきっとわかってくれる」

「にいちゃん・・・」

真っ直ぐに自分の目を見て、夢を応援してくれる兄に感動せずにはいられないバベル。

バベルの兄、ユダ・キルブライト。

催眠、幻影、変身魔法のエキスパート。

弟の夢を応援する姿は、兄の鏡というべきだが。

その出で立ちは、深緑のフードを被り、全身にマントを覆い自身の体躯をわかりづらくしている。

極めつけは漆黒の仮面を被り、見えるのはその瞳と地毛と思われる人束の金髪。

ただただ怪しい。

バベルでさえ、ユダの素顔を見たことはなかった。

だが、バベルはユダのことを尊敬し大好きだ。

優しいから。

その証拠に、

「ほら、頼まれてたものだ」

バベルに白い封筒を渡す。中に数枚の紙が入っているのがわかる。

「あ、もしかして!」

『王立エピデル学園入学手続き書』


数ヶ月前に自分の夢について相談した際、バベルはユダにこうアドバイスをされた。

「学校にでもいってみるか」

そう言われて、諸々の希望を伝え、

「まかせろ」

と言われて準備してもらったのがこの封筒でございます。


「とりあえず、そこに行って、勉強してこい。入学の手続きは済ませてある」

「さすが、にいちゃん!」

書類に自分の名前を見つけた。その名前を見て、わずかに微笑んだ。

『バベル・ロクハラ』

「本名はまずいとはいえ、よりにもよってその名前か・・・」

ユダは忌々しそうにつぶやく。

「これが俺の夢だからね・・・」

バベルは書類を丁寧に封筒に戻し、荷物を持ち上げた。

「これで準備OK!ユダにいちゃん、色々ありがとう!」

「たまには弟の我儘を聞くのもいいもんだ。それより、父上の反対を押し切って出ていくんだ。生半可な結果で家に帰ってこれると思うなよ。父上も、本気で反対しているなら今この場に俺もお前もいない。この意味わかるな?」

「・・・わかってる!俺、必ず立派な回復術師になるよ!」

「よし!いってこい!」

「いってきます!!」

バベルはそう告げ、麓の村に通じる街道を目指して下山し始めた。

自分の夢を応援してくれる敬愛する兄に見送られながら。

村までは遠く、町までは更に遠く、学園がある都までは更に更に遠い。

それよりも遠いのは彼が叶えたい夢。

バベルの才能が、キルブライトの素質が大きな障害となるのだから。

そんな、果てない道を選んでしまった弟の後ろ姿を見つめながら、ユダは心の底から願い、呟いた。


「二度と、帰ってくるなよ・・・」


続く

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