入部見学
「入学から三日目の授業が終わりました。帰ります」
「ねえ霧島さん。ちょっといいかな?」
「あなたはたしか……D組の西川さん」
「ううん。あなたと同じ3組の倉田まりなだよ」
「ああ、後ろの席の」
「霧島さん、すごいテキトーなこと言うんだね」
「何のご用でしょうか?今、幸せですよ」
「入信の誘いじゃないよ。霧島さんはもう部活決めたかなって」
「いえ、まだです」
「わたしもだよー。でもこの学校、部活強制だもんね」
「はい。なので、もうとりあえず野球部でいいかと」
「野球部そんなノリで入る人いないと思うよ」
「帽子を被った人があんなにいるのにですか」
「そこは入部の決め手にならないよ」
「それは弱りましたね」
「ねえねえ、よかったら私と一緒に卓球部に入らない?」
「卓球部ですか?卓球ってクラブで女をナンパした数を競うあの?」
「いや全然違うよ何を想像してるの」
「あ、スポーツの方ですか」
「そうそう。なんか卓球部って緩そうじゃない?私もあんまり部活とかガッツリやりたくないからさ」
「たしかに、部室でタバコ吸ったり、集団飲酒がバレたりと緩いイメージがありますね」
「むしろそういうところから一番遠いイメージだよ卓球部」
「意外です」
「むしろ野球部の方がそんな感じだよ」
「野球部の方でしたか」
「野球部の方って言い方もあれだけどさ」
「それで、前園さんは卓球部に入るんですか?」
「うん。私、倉田まりなは卓球部に入ろうかなって思ってて……それでよかったらなんだけど一緒に見学に行ってくれないかな?」
「いいですけど……一つだけ条件があります」
「なに?」
「マリリンって呼んでもいいですか?」
「急にすごい距離縮めてくるね」
「だめですか」
「ううん。あだ名で呼んでもらった方が私も嬉しいし全然いいよ。でもマリリンってなんか可愛らし過ぎてちょっと恥ずかしいかも。えへへ」
「では、脱税者でどうでしょう」
「マリリンでお願い」
「わかりました。マリリン。私のことは」
「うん」
「霧島さんとお呼びください」
「距離を詰めてもガードは崩さないんだね」
「そうと決まれば早速卓球部を探しましょう。マリリンはうさぎ小屋の方をお願いします。私は校長室を探ってみます」
「多分どっちにもいないと思うよ」
「卓球部の生態にお詳しいんですね。さすがは魚屋の娘」
「うん。多分部室にいると思うよ」
「えっ、魚屋の娘なんですか」
「ツッコむのがめんどくさかっただけだよ」
「着きましたね。ここが卓球部の部室ですか」
「うー……ドア開けるのなんか緊張するなあ。中、先輩ばっかりだろうし」
「案外後輩ばかりかもしれませんよ。まあ卓球部ですし」
「どういう類いの偏見なのそれ」
「もし、不安でしたら、私が先に入って様子を見てきましょうか」
「えっ、霧島さんいいの?」
「状況はこちらのエニグマで逐一お伝えしますね」
「解読に時間かかりそうだからそれはいいかな」
「では、行って参ります。もし私が死んだらその時はマリリンだけでも後を追ってください」
「やだよ」
「ただいま戻りました」
「ど、どうだった?」
「三人目までは難なく捌けたのですが、四人目でやられました。天井からとは盲点でした」
「一体何をやってきたの」
「しかし、とりあえずなんとか話はつけてきましたので、マリリン様もどうぞ中に入ってください、さあ」
「う、うん。じゃあ……」
「信者の皆さんがお待ちですよ」
「えっ、ちょっ、だから入信じゃなくてっっ!」