カッパ
「ママ、見て。カッパが浮浪してたから連れてきた」
「ダメです。捨ててきなさい」
「どうして?私、ちゃんとお世話するよ?」
「そういう問題じゃありません」
「国際問題?」
「そこまで壮大な問題でもありません」
「じゃあ何が問題なのかハッキリ言ってよ!回りくどい説明はいいから端的に教えてよママ!」
「カッパだからよ」
「ははっ、またまた」
「おっさんみたいな受け流し方はやめなさい」
「でもママよく考えて。拾ってきた動物を育てるってのは、幼児期にある子供の道徳心を育むのに絶好の機会だよ?」
「こんな打算的な子にもう道徳心は根付かないんじゃないかしら」
「最悪非常食にもなるよ?」
「なんでもセールスポイントを挙げればいいってもんじゃないのよ」
「あぁ、かわいそうなパトラッシュ。ハチ公。上野のゾウ」
「情の移りやすい名前をつけて捨てづらくする作戦はママには通じません」
「アンドレ。天沢聖司。タキシード仮面」
「ママのツボをピンポイントで狙いにくるのはやめなさい」
「土井先生」
「やめて!」
「閑話休題、どうしてカッパを飼ってはいけないの?」
「日常会話でその熟語初めて聞いたわ」
「犬猫はいいのにカッパはダメだって誰が決めたの?当たり前にペットとして飼われている動物たちと、カッパとで、一体何が違うというの?それはカッパ差別よ!カッパが可哀想!」
「そもそもこのマンションは犬猫もダメよ。規約にも愛玩動物の飼育を禁ずると書いてあるわ」
「いやでもこんなんどう考えても愛玩動物じゃないし」
「我が子ながら振れ幅が怖いわ」
「一体この子の何がダメなの?身長二メートル超あるから?見た目が気持ち悪いから?ご近所の噂になるから?働きもしない食い扶持が増えるから?得体が知れなくて不気味だから?」
「全部よ」
「酷い……そこまで言わなくたって……可哀想に……」
「言語化したのはあなたよ」
「お願いママ!これからはちゃんと皿だって洗うしキュウリだって好き嫌いせずに食べるから!」
「それおおよそカッパの仕事でしょ」
「後生だから」
「五歳児の懇願の仕方じゃないわよ」
「わかったわ。ママにこの子の声を聞かせてあげる。直接お話しすればママだってこの子を飼いたくなるはずよ」
「しゃべれるの?」
「えぇ、もちろん。ほら、耳を澄ませて。心を落ち着けて。ここを深い海の底だと思って。軸足を意識して。呼吸を大気と調和させて。宇宙のチャクラ感じて」
「そんなスピリチュアルな声なの」
「さあ、カッパさん。ママに自己紹介してあげて」
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「どう?聞こえた?」
「なんか思ったよりめんどくさそうな奴だったわ」
「だめ?」
「ママ、この手の輩とは関わらないって決めてるの」
「資産運用にも詳しいのに?」
「そういうところよ」
「これじゃあ平行線よママ。こうなったら拳で白黒つけましょう」
「それ多分ママ余裕が勝っちゃうけどいいの?」
「ゆけい!カッパ!」
「それは卑怯よ」
「さあこの世の全てを焼き尽くせ!私とお前とでこの世界を牛耳るのだ!」
「あなたが最初に焼かれそうなセリフだけどいいの?」
「ヤダヤダー!カッパ飼うのー!ママのバカァー!」
「最初からそうやって幼児らしくゴネときなさいよ」
「いい子にするからー!お願い飼って飼って飼ってー!」
「ダーメ」
「どうにもならんですか」
「気を抜くとおっさんになるのやめなさい」
「…………カッパ飼うもん」
「ハァ……もう、しょうがないわね。とりあえずパパに聞いてからね」
「ホント!?」
「でもパパがダメって言ったらダメだからね」
「わーいありがとうママ!よかったね!土井先生!」
「名前は絶対変えるからね」