前夜の喧騒
さあ、第三部。
アイン君の様子を見に行こう。
深夜のナースコールに悩まされる毎日だが、アイン君の寝顔を見るだけでなぜか心が安らぐのだ。
内臓に大怪我を負って、全治二ヶ月だそうだ。
アイン君がこの病院に搬送されて一週間と2日がたった。
307。
このドアの向こうにアイン君が眠っている。
マニュアルに従って返答が来るはずもない部屋でも「調子はいかがですか。」と言う。
スライドドアを開ける。
「アインさーん、体調はいかがですか?」
「ええ、だいぶ。」
ん?
声だ。
そりゃ、もちろん声だ。
でもこの声は当分聞くことのないものだったはずだ。
「え、もう起きられたんですか。」
少し眠そうに、ベッドの上で体を伸ばしている。
「まあ。」
「そう、ですか。」
§§§
看護師との挨拶を終え、退出するのを待ってからベッドを出た。
ここから出る準備をしよう。
まずは物をまとめる。
ずっと寝ていたこともあって、片付けはとても楽だった。
着替えて、リュックを背負った。
申し訳ないが、病院食は苦手なので手をつけずに残しておこう。
「空歪」
§§§
「ただいま」
家には誰もいない様だ。
静かで冷たい家だ。
と。
ポケットの中で微かな振動を感じる。
電話か。
「もしもし」
『もしもしー?アイン病院出れた?』
母さんか。
「ああ、今家に着いたよ。」
『あら随分と早いのね。』
色々と手続きをしてくれた母さんには感謝しかない。
「今キョウの家に寄ってくる。物とかはまとめてあんの?」
『リビングにスーツケースがあるから。一週間分の着替え入れてあるから上手く洗濯して。』
「分かった。」
出発は明日の早朝。
それまでに自分が必要な物を最低限まとめとけと言い残し、仕事があるからと電話を切った。
母さんは泊まり、父さんは飲み会があるようで明日までキョウの家に泊まらせてもらう。
物をまとめてスーツケースと共に家を出る。
寂寥は、捨てた。
§§§
スーツケースは重いのでここも固有スキルに頼らせてもらった。
目前にはキョウの家。
インターホンを鳴らすと、キョウの母が迎え出てくれた。
「すみません、こちらの用事で。明日までお世話になります。」
「そんな畏まらなくてもいいのよ。ゆっくりしてって。」
「ありがとうございます。」
キョウの部屋を使っていいそうなのでそこにスーツケースやらリュックやらを置いた。
そういえば、キョウは?
「キョウのお母さーん、キョウは?」
「アトラクションに行ってるみたい。直前まで仕上げるとか言ってたわ。」
「僕も行ってきます!」
【空歪】を唱えてアトラクションにトぶ。
「え、ちょ、はあ!?」
いいね、☆評価、よろしくお願いします!