悲劇の聖女、やり直しの勇者
シリアス?回です。
かつて、魔王の討伐から次の魔王の出現まで、百年以上の間が開いていた頃。
大陸の西方に、ある大国があった。
国は広く、実りは豊か、兵は強く、魔王の脅威の時代にあって、なお栄華を誇る程。
大国には、兄弟王子がいた。
兄王子は、黒目黒髪。整った顔立ちをしていたが、どこか意地悪そうな雰囲気があった。
対する弟王子は、金髪碧眼。人好きのする、何一つ瑕疵の無い美しい顔立ちをしていた。
真面目な兄王子。
どこか奔放な弟王子。
多くの人々は、弟王子を愛した。
限られた人々が兄王子に寄り添った。
ある時、兄王子は、ある令嬢に出会った。
その侯爵令嬢は、艶やかな癖のある銀髪に、蠱惑的な紫の瞳をしていた。
あまりにも美しい容姿に、人々は、彼女が男達を誑かしてまわっていると噂した。
それぞれ己の容姿に悩みのあった二人は、出会い、恋に落ちた。
兄王子は、両親からも、多くの貴族達からも愛される弟王子に王位を譲ることにした。
侯爵令嬢だった妻と、自分達を理解してくれた限られた人々を伴って、国の端の領地を治めることにした。
国王と王妃は、王子とは思えないほどささやかな領地に移る息子に、公爵位を与え、そのまま国の名を名乗ることを許した。
しばらくは穏やかな時が流れた。
やがて、魔王討伐の神託が下った。
当代の聖女は、兄王子だった公爵が治める領地の村娘だった。
聖女は、幼馴染との結婚を控えていた。
聖女を気の毒に思った公爵夫妻は、聖女の幼馴染を連れて、聖女と行動を共にした。
しかし、聖女と共に王宮に行ってからは、物事は思うようには進まなかった。
村娘は元々顔立ちが整っていたが、結婚を控えた喜びと、女神の加護によって、輝くような美しさを持っていた。
弟王子がこれに目を付けた。
ただの火遊びである。
王位を継承することになった弟王子には、隣国から嫁いできた元王女が、すでに妃となっていたからだ。
元王女は言った。
「村娘の聖女など、妾に劣る地位でも十分でしょう」
二人とも、聖女が、身分や贅沢よりも、素朴でなじんだ暮らしを選ぶ事を考えていなかった。
国王と王妃を含む国の貴族達の多くは、この企みとも言えない弟王子の欲望に賛同した。
国は強く、魔物の脅威は遠かった。
聖女を駒として手に入れてから、魔王討伐をなおざりに済ませば良いと考えたのだ。
公爵は、この考えに反対したが、公爵に賛同する者は数少ない。
困った公爵は、聖女と国内を妻と信頼できる者に任せ、危険な身となった聖女の幼馴染を連れて、聖教国に向かった。
魔の手はすでに何度も伸びていて、公爵は、自らで聖女の幼馴染を守る必要があると思う程、追い詰められていた。
聖女は、公爵夫人に支えらえて、自分の想いを貫こうとしていたが、公爵夫妻の立場が弱いことに気が付かずにはいられなかった。
折悪しく、公爵夫人は身重だった。
公爵夫人の出産の隙に連れ出された聖女は、改めて弟王子をはっきりと拒んだ。
弟王子は、自分を拒んだ聖女に腹を立て、兄公爵も聖女の幼馴染ももう死んだと言った。
嘘だった。
兄公爵の周りに居る者は、人数こそ少ないものの、誰一人弟王子に寝返るものなどおらず、度重なる暗殺は成功していなかった。
聖女は、公爵の誠実さを信じていたが、立場の弱さを知っていた。
結婚を約束した幼馴染のみならず、これから父になるはずの恩人までも死に追いやってしまった。
騙された聖女の絶望はあまりにも大きく、その場で、王宮の窓から身を投げた。
その時、女神がその力を振るった。
投げ出された聖女の体を、空に留めた。
弟王子の身を焼いた。
弟王子に賛同した全ての者の体に、神罰の証を刻んだ。
公爵夫人に神託を下し、動けるようにして、聖女の元に送り出した。
神罰の証を刻まれ異形となった者は、世界に散っていった。
寿命の尽きるまで、己が罪を人々に語り伝える神託を受け取って。
公爵夫人は異形があふれる王宮から聖女を連れ帰り、保護した。
そして、生まれたばかりの長男と共に夫の帰りを待った。
ほどなくして公爵が戻って来た。
弟王子に賛同した貴族によって、足止めされていたのだった。
事の重大さに教皇も同行していた。
女神はさらに神託を下した。
聖女の任を解こうとしたが、完全には解けなかったため、次の魔王討伐の任が聖女の最初の子に下る事。
今回のような悲劇の理由が人の慢心にあるとし、魔王討伐を世代に一度とする事。
公爵夫妻は、悲劇を防げなかった罪滅ぼしとして、聖女の次代の魔王討伐の旅への同行を、女神に誓った。
女神はこれを受け、彼らに約束の証と、闇属性の魔法を授けた。
公爵は、数少なくなった貴族をまとめ、国を立て直した。
そして、二十年後。
無事、幼馴染と結婚し、村に戻っていた元聖女が産んだ子が成長して勇者に選ばれた。
代王として国をまとめていた元兄王子は、国を信頼出来る者に託し、勇者の旅に同行した。
妻と、その間に生まれた、女神の証を持った二人の子供と共に。
読んで下さってありがとうございます。
次回、謎解き完結回です。
改稿中です。申し訳ありません。




