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約束を忘れたけど、約束は守ってる?


 何はともあれ魔王を倒せたので、王城へと戻る事にする。

 サーシャ達も無事エリクサーが取れたようだ。

 別の馬車で王城に向かってもらう。


 道中でノエル達に聞いたが、魔王の情報はあまり得られなかった。


「すみません。

 興奮していて、ほとんど覚えてないんです。

 大きくて、人型だったと思うんですけど……」


「僕が着いた時には、ほぼ倒された瞬間だったから。

 多分ノエルの倍くらいの身長の人型だと思う、位しか分かんなかったよ」


 今まで聞いてた情報と大差ねぇー。

 毎回、こんなだったってことかなぁ。



「そろそろサザーランド公爵領に着くっスよ。

 どっか寄るっスか?」


「あ、そうね。

 行きと違って、孤児院に寄った方が良いわ。

 ちょっと時間もらって良いかしら?」


「孤児院ですか?

 もちろん、構いません」


「魔王は倒したからね。

 もうそんな急がないし、いいんじゃない?」


「分かったっス。

 教会の隣の孤児院っスね」


 この国の貴族領では、孤児院は基本、教会併設である。

 私達は貴族だけで運営しても構わないんだけど、運営の監視とか、教会の存在意義とかでこうなっている。

 私達はあんまり信心深くないので、孤児院併設でない教会にはほぼ寄付をしないから、こうなったとも言える。



「領主様だー!」

「ホントだ!領主様だー」

「領主様!」

 子供だけでなく、領民達まで、わらわら出てくる。


 この国の貴族領の平民は、貴族を個別認識せずに、全部「領主様」という呼び方をする。

 大雑把にも程がある。

 実際にその領地の領主一族ではなかったりして、その場合貴族間で伝言をしあったりしている。

 見分けられないのは分かるが……


「領主様。あそこの川に橋を架けてくんねえですか?」

「私は、あっちの森の小道を馬車で通れるようにしてほしいわ」

「領主様!お菓子ちょーだい」


 そして、図々しい。


 まぁ、理にかなった要望もあるので、取り敢えず聞いて、実行するかはその後の問題である。


「お菓子は、全員分、孤児院の神官に預けますから、後でもらいなさい。

 橋と道は考えておきますわ」


 子供達に連れられて、孤児院の中に入る。


 孤児院の運営を任されている神官と話をしていると、小さな女の子が寄って来た。


「領主様、わたしのお母さんになってー」


「……」

 こらこら、ノエル。騙されるんじゃありませんよ。


「ホホホ、何を言ってるのかしら?

 あなたのお母様は、そちらで今日の孤児院担当してますでしょう」


 孤児院と言いながら、実際は託児所である。

 両親も親戚も亡くしてしまった子など滅多にいない。


 日中は、神官の他に持ち回りで平民の女性が子供の面倒を見ている。

 ごくまれに本当に頼れる大人を全て亡くしてしまった子が、ここで寝泊まりするが、今は誰もいない。


「お金持ちになりたいのー」

「お金持ちもなかなか大変ですのよ。

 お勉強頑張ったら、雇ってあげましてよ」

「分かったー」

 女の子のお母さんに引き取ってもらう。

 多分、最初のセリフとか良く意味が分からないまま言ってる。


 孤児院は、小学校のようなものも兼ねてもらっている。

 適性によっては、貴族家で雇ったりもしているのだ。


 結局日暮れになってしまった。

「今回も教会に行けませんでしたわね」

 すぐ隣にあるのに、子供に孤児院に引き込まれて色々やってるうちに、教会が閉まる時間になってしまう。


「ルルーシェ達がほとんど教会行ったことないって最初に聞いた時は、なんて不信心なんだろうと思ったけどね」

「ホホホ」

 ま、実際割とそうだけどね。



 村の広場に、パオみたいなテントを出す。


「そう言えば、隠し称号があったのが分かったんでしょ。

 鑑定してみないの?」


「え?」


「称号の鑑定、やった事ない?」


 そう言えば、思いつかなかった。

 なんでだ?

 前世の記憶、仕事しろよ。


「や、やってみますわね」


 隠し称号も気になるが、先ずは、『女神の使徒』から。


『女神の使徒』:

 人の身でありながら、女神の御心にかなう行動を取り、女神の手足となって働く者への称号。


 ……なんか、社畜っぽくて嫌だな。神畜?

 あと、そんな行動取ってる覚えも無いんだけど。


『女神と約束を交わした一族』:

 あなた達が私と交わした約束を忘れていたとしても、あなた達が私と交わした約束を守っている限り、あなた達が私と交わした約束は有効です。


「……これ、どう思います?」

「女神様が仰ってるお言葉だとすると、怒ってらっしゃるような……」

「約束を忘れたことを怒ってらっしゃるんじゃない?

 約束って三回も出てるし」


 ……約束を忘れたけど、約束を守ってる?


 

 一晩考えてみたけど、分からなかった。

 カークライトの調査に入っていれば良し、そうでなかったら塔に調査依頼を出す事にでもしよう。 


「おはようっス。

 王城の方から依頼が届いたっス。

 修道院に寄って、ザカリー王太子殿下とアーノルド王子殿下の側近二人を連れてきてほしいって事っス。

 どうせ通り道なんで、寄ってくっスね」


 そう言えば、そんな話だったね。


 この国に修道院は、一か所しかない。


 この国の貴族は皆、仲の良い親戚同士のようなものなので、政略的な婚約がない。

 既に信頼関係があれば、わざわざ政略結婚を使うまでもないからだ。


 当然、夜会などで家同士の婚約を、運命の愛を理由に破棄と叫ぶ貴族令息などいない。


 修道院は本来のあり方、信心深い神官が神への道を修めるための場所になっている。


 という訳で、王太子達は大変迷惑だったらしく、修道院側が喜んで突き返して来た。


 シンが馬車をもう一台用意してくれたので、そっちに乗ってもらっている。

 御者は雇った。


 もうすぐ王城。

 呪いの調査報告を聞くのだ。




読んで下さってありがとうございます。


どうぞ最後までよろしくお願いいたします。


次回シリアスっぽい展開ですが、

ラスオチもコメディーです。

軽い気持ちでお読み下さい。

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